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小さなロンが教えてくれたこと

母の愛犬は、14歳の男の子。
「ペットはこの子で上がり」と、
両親が「ロン」と名付けた。
(当時、我が家は家族麻雀が正月の恒例行事)

そして、ロンは今月16日に旅立った。
最後の日々、
実に見事な命を輝きを見せた。

*この記事は私と同じようにペットを亡くされてまだ傷が癒えない方を、辛い気持ちにさせてしまうかもしれません。私の大切な思い出として書き記しますが、読み進むかどうか、ご一考のほどお願いいたします。

心臓病と闘う日々

ロンには心臓病があった。
僧帽弁閉鎖不全症という病で、
血液が心臓の中で逆流してしまう。
何度か動物病院のお世話になったが、
それでも、やんちゃに生きてきた。

会いに行くと後ろ足で立ち上がり、
前足をバタバタして抱っこをせがむ。
小さな体のわりに足は長くて細く、
肉球がとても小さくて。

悪化したのは今年の8月。
週一度は入院して酸素部屋に入った。
退院しても夜になると、
動悸と呼吸が激しくなって咳き込み、
母は毎晩のように起こされ、
ベランダで夜風に当てると落ち着いたという。

母のロンと私のララ

左がロン、右がララ

私の娘、ミニチュアダックスのララを
母に預けて出張に行くと、
ロンの調子が良いと母が言う。
9月6日、出張から戻った時、
ロンとララは仲良く玄関でお座りして
尻尾を思い切り振りながら出迎えた。

「ロンの調子は?」
私が聞くと、
「うん、元気みたい。咳も出ないの」
母が言う。

抱っこをせがむのもいつも通り。
家の中を歩き回り、元気そうだ。

安心してララと帰った夜、
11時過ぎに電話が鳴った。

「ロンが痙攣を起こしたの。
 どうしよう…」
動揺する母からだった。

実家に駆けつけ母と動物病院へ。
すぐにステロイドの注射を打たれ、
ロンは小さな酸素部屋に入れられた。
立とうとするけど立ち上がれない。

「ギリギリで頑張っています」
獣医にそう言われ、ロンは入院した。

最期をどう迎えるか

毎日、母とロンのお見舞いに行った。
酸素で充した小さな箱の中で、
日々、衰弱していくのがわかる。

「朝になったら亡くなっているかもしれません。どうか、ご理解ください」

酸素部屋から出して連れて帰ることも
危険だと獣医さんに言われていた。

「…もう、見ているのが辛い」
母が言う。
そうだよね。私も辛かった。

その時が近いことは、わかっていた。
あの小さな箱の中で最期を迎えるか、
連れて帰って、そばで見守るか。
飼い主だったら誰もが悩むだろう。

どっちが動物にとって楽なのか。
どっちが動物にとって幸せなのか。

また78歳の母が、ロンを最後まで見守ることは心身ともに大きな負担となることは明らかだ。ロンが亡くなった後の母の体調も心配だった。
しかし、入院して5日目の朝、
母は連れて帰ると私に告げた。
悩んだ末の決断だった。

帰ってきて母に抱かれるロン

生き切るということ

帰ってきたロンは、しばらくすると吐いた。少し赤く、血が混じっているようだ。肺から出血していると言われていた。

それでも、ロンは少しご飯を食べた。
私の手から、結構な勢いで。
そして何度も立ちあがろうとする。
トイレにも自分で行きたいらしい。

効果はないかもしれないけど、酸素缶を買って鼻先に当てると、心なしか呼吸が穏やかになったように見えて、静かに眠れるようだった。

翌日からは、水はよく飲むが
ほとんど食べられなくなった。
胸に手を当てると、心臓は驚くほどの速さで不規則に鼓動している。
体は骨と皮だけのようになり、3キロあった体重は多分2キロもないだろう。

今夜は越えられないかもしれない…
毎日そんな思いに駆られつつ、
なんと1週間が過ぎた。
ロンの生命力に母も私も驚いた。

ロンが帰ってきて8日目。
私は初めてのプロフィール写真撮影という、とんでもない予定が入っていた。カメラのこっち側にいる仕事を30年近くもやってきたせいか、レンズを向けられることがどうにも苦手だ。みんなとの集合写真はまだいい。自分一人がレンズを向けられるなんて、あ〜大変。

長い付き合いの仲間の支えでなんとか撮影を終えて実家へ。前の日から水もほとんど飲めなくなっていたけど、ロンはしっかりと命を繋いでいた。

胸に抱くと、
大きな瞳でじっと私を見つめてくる。
今夜も大丈夫かも…。
私は実家を後にした。

私は夕方から、以前お世話になった人と会う約束が入っていた。
身支度を整えて家を出た時だった。

「ロンちゃんが死んじゃったみたい。息をしていないの。
 死んじゃったんだよね…まだ温かいのに。
 でも心臓が動いていないみたい」

電話で母が泣いている。私も涙が溢れてくる。

「今すぐ行くよ」

本当に申し訳なかったが、誰かと会って楽しく話せるコンディションではなくなった。約束をキャンセルして、実家へ向かった。


まだ温かいロンを抱くと
大きな目を私に向けている。
でも、瞳から光が消えていた。
細くて長い足。小さな肉球。
ぱっちりした目にピンと立った耳。

さっきまで、その瞳で私を見ていたのに。
さっきまで、立とうとしていたのに。

「ロン、本当によく頑張ったね。
 なんていい子なの」
これでもかと、涙が止まらなかった。

私が帰った後、母はロンに添い寝してうとうとしたらしい。母に甘えるようにロンはしばらくモゾモゾと動いていたそうだ。ロンがじっと見つめていることに気づき母が声をかけると、目が動かない。
呼吸も鼓動も止まっていたという。

でも、ロンは生き切った。
苦しまず、穏やかに。
最後の瞬間まで、
母の温もりを感じながら。
母の寝顔をじっと見つめながら。

最後の握手

幸せな一生だったのかもしれない。
精一杯、小さな体で生き抜いた。
母も精一杯、ロンを愛した。


ララを愛し抜く

私のワンコ、ララは16歳。
この冬17歳になる。
立派なご長寿と言っていいだろう。
いつかくるお別れの日まで、
母のように愛し抜きたいと思う。

ララ、16歳


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