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ここちゃん

 いま、うちに旦那が預かっているインコがうちにいる。
「え! インコをつれてくるの! わたし鳥アレルギーなんだけど!」
 単身赴任の旦那は大丈夫2階に隔離するから。といいきり連れてくるようになった。
 わたしの記憶のなかでインコ(それに付随する小動物)は飼ったことがなくて自分で勝手に【鳥アレルギー】 だと決め込んでいたふしもあった。なのではじめましてと対面したとき、あ、かわいいなぁとおもった。そしてその子の名前が【ここちゃん】と知るとここちゃんとおそるおそる手を差し伸べた。
 ためらうように嘴がわたしの指に触れる。ここちゃん。もう一度名前を呼ぶと今度は頭をなぜてというふうにすり寄ってきた。
「なついてるねなんか。わたしの指をあまがみするよ」
「ひとみしりなんだけどなぁ」
 同類と勘違いしてるんじゃないの? と旦那が笑いながらいう。
「籠から出していい?」
 飛ぶところを見たかった。どうして鳥だけ空を飛べるのだろう。あ、違うか。飛行機も飛べるぜ。などとおもいつつ籠から出たここちゃんは宙を舞いばたばたと宙を3周ほどくるくると回ったあと、ひよいと旦那の頭に乗った。
「まずい! 禿げてるから滑るじゃんよ!」
 旦那は禿げていて髪がない。髭は長い。とにかくきもい。嫌いだけれど単身赴任だしまあどうでもいい。
 ここちゃんは旦那の禿げ頭に慣れているのかまるで落ちない。今度は肩のほうに移動してくる。慣れてるね。感心してしまう。うん。放鳥をさせないといけないんだよね。一日に一回はさ。
 ほうちょう……。包丁という感じしか浮かばない。まさかそんなことないなとほうちょうと打ち込むと【放鳥】と出てきて納得をした。何度か放鳥をするうちにわたしの肩や頭や指にまでもとまるようになった。かわいい。な、なんてかわいいのだろう。こんな小さいのに体温を感じる。癒し系だなとおもい、孤独なわたし向きかもなともおもいけれど鬱なので世話ができないしなとおもったところで意識を戻した。
 うちに猫のエドがいるけれどエドもわたしにはまるでなついてはいない。まいちゃんだけなついているというか喋っている。エドとまいちゃんの付きいはとうとう10年を超えた。
「ここちゃん」
 名前を呼ぶ、あまり鳴かない鳥らしい。歌うたわないの?
『うたえないの。ふふふ』
『そっか。でもあなたいるだけでかわいいなんて最強ね』
『でもデブ(旦那)があまりひまわりの種くれないのよ』
『ひまわりの種すきだもんね。でもあれはあまり食べてはいけないらしいの。栄養が高いから』
『そうなのね』

 ここちゃんはしょぼんとしたままちいさな小粒の漆黒の目を伏せちゅんと鳴いたあと目を伏せた。

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