後悔(前編)

今にして思えば自分、という存在が大きく変わったのがあの日だった。

3ヶ月前、俺は先輩後輩や師弟関係という世間体に縛られ本当に大切なものを見失っていた。

目前に控える自分の試合、そして目の前で起きる問題、未来は考えていたが現実は見えてなかった。

…………………………………………………………………
4年半前、世間から忘れ去られたかった俺は人間関係を整理して小さなアカウントに引きこもっていた。

しかしそれらは、復活の狼煙を上げるタイミングを見極めていたからだった。

俺はプロレスにおいてもインターネットで生まれた有象無象の1人だった。それがいつしか名前と顔を持ち、スポットライトの下にいた。少ないながらも有難い声援と写真の数々を頂いた。

だが実際のところ獲得したそれらは自分の実力、パーソナリティとは言えない部分のものだった。

何故なら伝統ある団体、それを引っ張るカリスマ、歴戦の猛者達、輝かしい同期達を見る為に会場に行けば俺がいる。という具合だった。

その上、自分はクソガキで振り返れば性格破綻者そのものだった。痛い厨二だった。

理解して欲しかったし、愛されたかった。
それに向けた努力も代償も払わない自分に嫌気がさした。

だから変わろうとした。俺は常に全力を出し、相手から恐れられる本当になろうとした。これが全て間違いだった。

間違いは正しさを教えてくれる。
俺は生活と精神を整えるようにした。
空いていた本部席の座を請け負った。
たまに練習に顔を覗かせた。

俺はまた一つ、変わろうとした。
本当の意味で成長しようともした。
そして日々は変わっていった。
…………………………………………………………………
自分が変わるだけではなく世間も変わっていく。

ある日の興行で見知らぬスタッフが入団していたことを知る、まぁ自分には関係ないしな、と思っていた。
…………………………………………………………………
1年前の夏の終わり頃から毎週末、夜中遅くまでスペースをやり続けていた。

普段から人と話さない自分のリハビリでもあったが、段々と1週間頑張った末のお楽しみのようになった。仲の良い友人が1人ずつ増えていったのを実感した。

ようやく軌道に乗ってきた、と思った。

会場である選手から『さっき○○くんに話しかけたんだけど全然話噛み合わないから不思議に思ってたら別人だった』と言われる。

そんなことある?

伝説の写真

そんなことあった。
唐突すぎる『THA BLUE HERB聞きます?』で一気に仲良くなった彼をきっかけに若い世代に自分をアピールする機会を得ていった。

彼がスペースに来るようになってから、ある事件が起こった。

基本自分のスペースはリクエストさえ飛ばせば誰でも参加可能(迷惑をかけなければ)にしている。

そいつがやってきたのは深夜だった。

ベロベロに酔っ払ったそいつは『DMでFカップの子から誘われてるんですけど夢見ていいですかね〜??』とか言ってた。

あまりにも面白かったので彼と一緒に話すようになると一気にスペース閲覧者が爆増した。主に関係者の。

(関係者のみに知れ渡る謎の人物、というかなりおいしいポジションをゲトって内心してやったりだった。)

…………………………………………………………………
そして本当に大きな変化が訪れる。
ある日の練習に行くと困り顔の例のスタッフがいた。

彼女は彼女なりの貢献をする為に奮闘していて
その姿はいつぞやの若き自分を思わせた。

デビュー戦前にも彼女にはアドバイスを送っていたが全て単発に終わっていたこともあり、"誰かが"しっかり見てあげればいいのになとか思ってた。

少なくとも俺ではない。でもこのままでは…

『お前、やってみる??』
『えっ、いいんですか??』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?