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私的I-LAND考 ~ニキの物語として読み解くI-LAND~2

この小論は2020年9月21日より同10月1日まで、Twitterに投稿したものに加筆訂正等を施したものになります。

第二章 蛹化・変態・羽化の物語

 Part1ではグラウンドを引っ張るリーダーとしての成長を見せていたニキだったが、彼自身の技量、つまり歌唱、ダンス、アピールなどのアイドルとしての個性に成長があったのかといえば、必ずしもそうではなかった。誤解を恐れずに言うと、グラウンドでの彼は、ただただ逆境に立ち向かっていればそれで良かったということになる。
 しかしながら、全ての課題ごとに脱落が発生するPart2に入り、I-LANDはよりサバイバルオーディションとしての本質が前面に出てきた。従って「ニキの物語」は、彼自身の表現者としての成長、現状からの脱皮が描かれていくことになった。そしてそれは第5の課題、DNAで早くも表面化する。チームワークを乱すニキのアドリブ問題として。
 結論から先に言えば、アドリブ問題は実はチームワークの問題ではないと私は考えている。このことはPart1ではテーマたり得たのかもしれないが、Part2では違うと考える。DNAの中間発表で、ニキは視聴者を意識するあまり自分だけが目立とうとアドリブを加えたとみなされていたが、その考えにも疑念を抱いている。果たしてあの自分だけが手のポーズを変えるというアドリブは、それほど視聴者にアピールできるものだったのだろうか?
 西村力のパフォーマンス動画は現在YouTubeにもおびただしく上がっている。これらを見ると、ニキにとってI-LANDで課されたダンス課題など全く難しくはなかったのだろうと思われる。だからこそ、観客の熱狂と歓声に慣れ切っていたニキにとって、第一回視聴者投票結果は受け入れ難いものだったに違いない。
 もちろん、そこにはI-LANDがコロナ禍の状況下で実施されたオーディションであること、また、社会から隔絶した万能の施設内で全てが完結するという建前であったことなどから、一般観客を入れてパフォーマンスするPRODUCEシリーズとは全く違うものになっていたことも少なからず影響していたと考える。志願者たちは、観客の反応というものを想定することが難しかった。にもかかわらず、グローバル視聴者という得体の知れないラスボスが何千万という票を投じることで自分のデビューは決まるのだ。Part1の終わりをグラウンドで迎え、そのラスボスの投票によって希望を繋いだニキが、思い詰めすぎて見当違いな方向に頑張ってしまった、とも考えられなくはない。しかし、ちょっとした手の位置の違いであるそのアドリブは、私などが見てもほとんど気づかないような程度のものだったことに、ずっと違和感を持っている。(注:再編集時点でこのことを考えたとき、少なくともデビュー後のENHYPENが一糸乱れぬ群舞を大きな武器にしていることを考えると、プロデューサーにあれほど叱られた理由の方はよく理解できるのだが)
 自分が踊りさえすれば観客は自ずからついてくる、ニキがそう感じていたとしても、不遜な子だと責める気にはならない。そのくらい生意気でいい、ニキの持つ才能と技量はそれほど素晴らしかったのだから。しかし、投票結果はそうではなかった。どうしたらいいか分からなくなり、もがき苦しんだのではなかったか。
 そして、ケイとの対立、和解の後、表面的には解決したように見えたこの問題を、ニキは実のところは克服できないままテストに臨んだものと思われる。採点の際「これはダンスが上手いと思っていたが、今見るとそんなに目立っていない」という内容のプロデューサーの声が放映されていたが、このコメントはニキに対する評価だったと考えられる。
 技術的には文句なしの実力を持っている。しかしアイドルとして見た時、決定的な何かが足りていない。さらに言うと、プロデューサーにもニキ本人にもその正体がよくわからない。第5課題は重苦しい宿題を残したまま、最初の脱落者を出して終了する。プロデューサー審査の結果、ニキは8位。自分の武器を出せていない、と評価された。
 第6課題相性テストは脱落のない癒しの回だが、ヒスンの粋?な計らいでPart1のような下剋上対決構造になった。ジェイには気の毒だが、このチーム分けは大正解だったと思う。ジェイはナメられてやるのがうまいリーダーだから、ニキたち下位メンバーを萎縮させずに上手くまとめることができた。ジェイの「勝ってやろうぜ。」はI-LAND全エピソード中屈指の名言である。このような関係性を見ると、デビュー後もニキがジェイにこの上ない信頼を寄せるのももっともなことだと思える。
 ニキの物語を読み解く上で決して欠くことのできない人物。ニキの背負う重荷をほどき、天高く飛翔させる存在。それはタキでも、ケイでもない。まぎれもなくジェイである。ジェイの持つ的確な批評眼が、ニキの前に立ちはだかる壁を打ち砕くヒントを与えてくれることになるのだが、それは今少しあとのお話である。
 かくしてDive into youチームにおいて、繭に収まった蛹の変態がはじまる。
 恐らくニキという子は強く自分を持っており、押さえつけてくる力を全力で押し返そうとする気質があると思われる。負けず嫌いの人が併せ持つことの多い性質だ。一方、ジェイは弟の目線まで降りてきてくれる兄だ。ケミテストとよばれた第6課題は奇しくもジェイとニキの相性の良さを再確認させることになった。
 状況を整理しよう。第5課題までのニキが抱えていた問題は、自分の武器が出せず、ダンスが上手いのにパフォーマンスの中ではさほど目立っていない、というかなり深刻なものだった。当然第6課題ではその改善が求められることになる。そう考えると、まず、大人っぽさを求められるフリッカーよりも、力強い表現を中心とするDive into youの方がニキには似合っていた。
 ジェイがリードしてすんなり決まったニキのパートは、パワフルなパフォーマンスが特徴の4番。歌詞の意味も解釈しながら練習が進んでいく。中間発表は好評価、テスト本番もよく集中できており見せ場のクラップのシーンではダイナミックなパフォーマンスに皆が感嘆した。プロデューサー陣の評価も高かった。
 評価の中でニキは、自分の魅力をアピールできていた。クラップを強いバウンスで表現していて驚いた、などのコメントをもらった。バウンスとは連続した音符の前を長く後ろを短くしてうねりを出す演奏法なのだそうだが、それを手を打ち合わせる振りと身体全体で表現できていたというのだ。
 手本と中間発表、本番を比較してみると、まず手本とは体の向きが違っている。さらに全ての動きが大きく力強さを増しており、中間発表では不完全ながら既に手本にない足の動きもあった。そして本番ではクラップから足の動きへの流れがの全てが大きくスムーズで、自然に上体が起き上がるような動作になっていた。
 第5課題のDNAでニキがしていたアドリブは、単に他と違うことをして新鮮味を出そうというやり方だったのかもしれないが、Dive into youでのアレンジあるいはアドリブは、曲の世界観を強力にアピールする武器となっている。プロデューサー陣も、一概にアドリブやアレンジを否定しているというわけではないということだろう。 
 卓越したダンススキルとボディコントロール力を持つニキの強みを、曲のどの部分でどう生かすか。さらにそれがチームのフォーメーションを乱すことなく、むしろ引き立て合うためには、何処かでは押し、何処かでは引かねばならない。いわば表現の場での駆け引きが重要になってくるのだろう。アピールと悪目立ちは同じではない。そういうことなのだろうと私は理解した。
 視聴者投票を待つ間の小課題SEVENTEEN テストでニキに与えられた課題はHIT。テンポが早く動きも激しい曲だ。しかも短時間で仕上げなくてはならない。ニキはInto the I -LAND以来久々にヒスンと組むことになった。パート分け、練習の進め方など2人がどう向き合うのか興味深かったが、残念なことに番組では割愛されていた。
 余談になるが、物語としてのI-LANDには2人のヒーローが存在したと私は解釈している。天上・白のヒーロー ヒスンと、地上・黒のヒーロー ニキだ。2人はI-LANDの構造を支える二本の柱だ。批判を覚悟で言うと、I-LANDはこの両者を融合させ、共にデビューへと導く神話として造形された物語だと私は考えている。この点については終章において述べていくつもりだ。ここでは一旦話を元に戻そう。
 セブチは13人、HITユニットは5人。当然ながら一人一人のするべき事は多くなる。部分的な披露だったがニキは踊り出しでセンターに立ち、V隊列でセリ出てくる見せ場では2度とも先頭で引っ張った。チームのセンターにしてメインダンサー、まさにニキのための舞台だ。後輩の成長を見守りに来たSEVENTEEN御本家からも、ニキは名指しで賞賛されていた。
 ここで注目すべきことはその賞賛の言葉が、単に技術的な上手さではなく、カリスマ性に言及されたことである。Part1のニキの入場シーンでZICO氏の言った「視線の動かし方が上手い」という評価にも通じる指摘である。生憎、番組の映像では視線まではよくわからないが、ニキの顔つきが以前とは違ってきたことは確かだろう。
 そして第7課題コンセプト評価。ニキはFlame Onユニット。二つのコンセプトの中では大人っぽくワイルドな曲だ。大人っぽく見せられるかが鍵になる。しかし、このテストは練習の途中で脱落式が入るため、中間発表のよくなかったニキもケイもいろいろ考えることは多かったに違いない。そこで陰鬱な空気を和らげるためか、ファンや、アイランダー同士からのビデオレターが登場する。志願者たちは初めて具体的な「ファン」という存在を実感することができた。ニキはファンの思い、ケイの思いを知って涙した。
 人間とはおかしなもので、自己の欲のためよりも、他者の思いを背負ったときの方が頑張れるものだ。ニキもまた決意を新たにしたことだろう。
 I-LANDでは、「運命の選択」という場面を何度か目にする。SEVENTEENテストの勝者、ソヌが行った選択こそ、まさに最大の運命の選択だったと言っても過言ではない。ソヌはニキを選ばなかった。そして、その選ばないという選択が、ニキの運命を大きく変えることになっていった。

その3(終章)へつづく

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