見出し画像

私的I-LAND考 ~ニキの物語として読み解くI-LAND~1

この小論は2020年9月21日より同10月1日まで、Twitterに投稿したものに加筆訂正 等を施したものになります。

序章 出会い
 2019年に制作されたPRODUCE 101 JAPANを見ていた流れでJAMとなった私は、Twitterなど始めて新しくできたJAM友との交流を楽しんでいた。夏頃になってMnetが新しくBigHitと提携してサバイバルオーディション番組を配信し、そこに3人の日本人の練習生が出るというので、一応見てみた。しかし、なんか暗くてそれほどの興味を持てなかった。BGMのようにネットテレビに流れている番組、そんな程度の認識だった。ただ、配信翌日になるとTwitterのタイムラインで、I-LANDの情報を熱心に語る人、動画を投稿する人などがいて、ニキくんとタキくんという奇妙な名前の日本人の中学生が、幼いながら大健闘し、番組でも目立っていると知ることになった。ここからが私とI-LANDとの本当の出会いとなる。

第一章 下剋上の物語

 私はI-LANDをTLに流れてくる情報でいろいろ知るようになって、3話くらいから完全にニキ目当てで見始めた。だから、私にとってのI-LANDは、ずっとグラウンド対アイランドの下剋上物語だった。特にPart1は、ニキがグラウンドからなかなか昇格できず、悩み、苦しみ、もがく姿をはらはらしながら見ていた。
 ニキの物語として見たI-LANDは、ダンスが大好きで、得意で、周囲から賞賛されることに慣れていた自信家の少年が、挫折と失意、葛藤と苦悩の中で、急速に成長していく物語である。私はニキに感情移入しながら見たし、正直なところアイランダー側にはほとんど興味がなかったと言っていい。
 まだ幼さの抜けない14歳の少年が先頭切って、強大な敵に立ち向かっては敗退し、傷つき落ち込む姿は、判官贔屓という日本人特有の心性に訴えるものがあったのは確かだ。自信家で鼻っ柱の強いニキが愛しくて仕方がなくなり、いつか必ず報われてほしいと強く願うようになっていった。
 I-LANDというコンテンツは、無論リアリティショーであって、リアルそのままではない。無論、やらせではないだろうが、制作者の意図に沿って編集されているはずだ。番組運営側が、ニキに私のような強火ファンをつけたがっていたのかもしれない、と疑うことは可能だ。でも、そんなつまらないことをここでわざわざ話しても仕方がないと思う。大切なことは、第1課題シグナルソング~Into the I-LAND~での挫折と、その後のグラウンドにおける失意と苦悩、葛藤の過程が、ニキの物語においては必要不可欠だったということだ。また、付け加えるならば、あの時間があるから、韓国を軸に活動する注目のアイドルグループ唯一の日本人として、栄光と称賛ばかりではない道を歩むにちがいない少年を少しは安心して見ていられるのだ。
 年少組ながらグラウンドを引っ張るリーターであり、的確かつ丁寧なダンス指導者でもあたニキだが、第2課題であるFIREでの昇格できなかった。その理由はいろいろあるのだろうが、私は番組演出上の都合という側面が捨てきれないと思っている。あれで次のバトルが緊張感を持って成立したことだけは確かだ。ケイも言っていたではないか、「グラウンドにニキがいるから、」と。
 第3課題総代戦でのニキは、そのリーダーシップがフォーカスされている。当然ニキはダンスチームのセンターに選出されたが、ダンスが上手いことなどもはや当たり前なのであり、今回はそれに加えてニキの指導性に注目が集まった。さらにFIREのリーダー、ジェイが既にグラウンドを去った今、代表以外のメンバーも含め、いかに集中してミッションに臨ませるのか、ニキの技量が問われることになった。
 FIREでも感じたことだが、指導者としてのニキは、実によく「生徒」を見ている。問題点の指摘が細かく、的確であって、かつ解決策の提示が明確だ。これまでも初心者に教えることが多かったのだろうが、そもそも頭のいい子にちがいない。学業成績は知らないが、地あたまがいい。間違いない。
 結論から言えば、総代戦の勝敗を決したのは控えの有無であると言える。幼い頃から勝負の世界に身を置いてきたソンフンは、控えの大切さを熟知していて代表と同じ意識で練習に励んだことが自身もチームも救うことになった。一方、ニキに依存していたグラウンドは、有効な控えを用意できず、結果的に3枚のカードが揃わなかった。
 採点結果発表後、アイランド選抜が歓喜する横で、グラウンドの3人は困惑した表情でただ拍手するしかなかった。グラウンドに帰還した時、ニキは微笑さえ浮かべている。悔しさと失望は誰よりも大きいはずなのに、仲間にすがって泣くこともできない。14歳の覚悟はそれほどに悲壮だったということだろう。
 この総代戦のあと、敗退したグラウンド選抜を気遣い2人の「兄貴」が訪れるところはPart1屈指の名シーンだろう。私が今まさにかけてあげたい言葉をニキに語りかけてくれるRAIN氏とZICO氏には感謝しかなかった。そこでニキは初めて泣くことができたのだ。年齢的には下から2番目のこの少年が、今グラウンドでは長男のような役割を担っていたからである。
 うがった見方をするならば、これは初めから勝てない戦いを挑まされていたのだとも言える。Part1は降格はあっても脱落がない。だから下克上が成立する。しかし課題が進むにつれ志願者の技量は向上し、仕分けの適正化も進んて、下剋上が起こりにくくなる。#6 の第四課題まで緊張感を保つにはグラウンドに不屈のヒーローが存在しなくてはならない。そしてそれがニキだったということだ。
 3番目に総代戦が置かれたのは、初めて脱落者を出すPart1の最終課題で最後の下剋上の起爆剤となる存在をグラウンドに残しておくためだったのだろう。一方、ニキの物語においては、挫折と再生を繰り返したPart1は、天敵から身を守りながら体を大きくしていく蝶の幼虫期とよく似ているとも言える。
 第4課題を目の前にしたニキには、それまでのニキの持ち味である自信と攻めの姿勢が感じられない。第1課題ではセンターを担いながらも結果を出せなかった。第2課題では共に周囲を引っ張ったが評価されたのはジェイだけだった。得意のダンスに専念した第3課題でもアイランダーの層の厚さ、ケイの上手さを見せつけられ敗退した。ニキは既に満身創痍だったに違いない。
 だから常に周囲に頼られ、気軽に振りを教えることの多かったニキが自分のことに専念したいと口走るようなことになったのだろう。難度の高い振り付けに悪戦苦闘する仲間を避けるように1人練習するニキ。このままでいいはずない、ニキにだってわかっている。しかしもうどうしたらいいか彼にはわからない、自分を守るのに精一杯なのだ。まずここで勝ち抜かなくては、次はないのである。そして、ここでも向かうべき方向を示してくれたのはRAIN氏だ。さすがは「オレたちのアニキ」である。
 RAIN氏の叱責を受けて、ニキの心に再び葛藤が生じる。そんな彼が心を開き頼るのはやはりタキしかいなかった。タキは誰よりもニキを評価し信頼してくれる存在だ。しかし、ニキタキについての熱い思い入れを語ることはこの小論の目的ではない。
それはまたの機会に。
 再び練習をリードし始めたニキ。グラウンドのパフォーマンスも目に見えって向上していき、良い雰囲気になった。これならば最初の脱落がかかる決戦の舞台にもよいところが見せられそうな予感がしたが、ニキを初めとしたクラウンダー達にはさらなる苦難が待っていた。脱落者をくわえた16人でのパート変更だ。これでもかというほどの困難に見舞われたわけだが、一方で、ニキにはセンターをやりたいという欲が再び湧いて来ていた。
 ニキの物語で興味深いのは、ぎりぎりまて追い詰められた局面で脱皮を繰り返し成長していく点である。総代戦での敗退によって前に出る気力をなくしたかに見えた彼が、脱落者を交えてのパート組み替えという更なる負荷をかけられたのを契機に、逆に攻めの姿勢に転じた姿などまさにそれだ。
 生き残りをかけたグラウンダー最後のパフォーマンスを撮るカメラの追うニキの表情は、内面の切実さを反映してかやや暗い。しかし、後半にいくに従って目が訴えてくるものがある。自分のダンスを信じる心を基盤にした不屈の精神である。私たちはこのような眼差しに実に弱いものだ。私はますますニキに惹かれていった。そして、私が完全なニキ推し「Nikitty」になったのもこの時だった。
 Part1はいわば予備選で、志願者がが互選で降格者を選ぶという残酷なルールも、降格者による下剋上もここで終わりを迎える。振り返ってみれば皮肉なことに、ここまでI-LANDをI-LANDたらしめていたものは、他ならぬグラウンドの存在であり、彼らの挫折と再生の過程であった。そしてその中心には、間違いなくニキがいた。
 I-LANDの象徴の一つであるエレベーター。卵を模したというあの装置が、私には蛹が作る繭に見える。I-LANDへの帰還を果たしたニキがあのエレベーターからI-LANDへ入る様は、蛹化を迎えた幼虫が繭に包まれていく姿を連想させた。
 そしてニキの物語として見たPart2は、いわば変態そして羽化の過程であるといえる。

                           その2へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?