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文字が目をすり抜ける

ここ最近本が読めない。文章を追っていても、字がするすると手応えなく流れていってしまうよう。夏の暑さで思考力もへばっているのだ。夏でなくたって、大した思考力があるわけではないが、本が読めないのはよっぽどだ。

こういう時には、胃腸が疲れている時にさらさらと温かい、柔らかいものを食べるように、疲れた頭に馴染みのいい、何度も読んだものを読むにことにする。本棚から「富士日記:下」を取り出す。日記なのでどこから読んでもいい。本当に、何度読んだかしれない。ふと、人の日記を読んでいるのは不思議なものだなと思う。武田百合子も武田泰淳も亡くなっているが、日記の中ではご飯を食べたり、車のエンジンに不凍液を入れたりしている。百合子と泰淳の関係を現代の視点で見たら、眉をひそめる人も多い気がするなあとか思うが、そんなことを思ってしまう自分が変な感じがする。誰かに意地悪をした時のような気持ち。自分から狭い道狭い道を選んでいるような気持ち。

夏の疲れか、たんなる怠惰ゆえか、仕事もなんだか手につかない。カットのラフを3枚書いてデータを送って後、ラジオを聴きながらボーッとしていた。他に今週中に仕上げたいものと、そのうち送りますと言って送っていないもの(明確な〆切がない)にも手をつけなければなと思う。その他にも事務的なこともそろそろやっておきたいし、返すメールもいくつかある。

こういう風に先々にやらなきゃいけないことを考え出すと、とてつもなく億劫になる。先を見ずに、ひとつひとつ手をつければいいとはわかってはいるが、いっぺん先を見てしまうともうダメである。とりあえず公共料金と税金を払いにコンビニに行く。少し秋の気配もしてきてはいるが、まだまだ暑いことに変わりない。小さい扇風機の風を顔に当てながら、気怠そうに高校生が二人歩いている。「明日は歯科検診」と話している。

帰宅後にアイスを食べる。アイスの甘さと冷たさは疲れをとってくれることもなく、よりベッタリと身体を重くするような気がする。

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