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田舎の学問より京の昼寝

こんにちは。
今日もご訪問ありがとうございます。


今日は、なんというか…、その…。

京 “風” の言い回しについてのお話しです。

決して他意や悪意はございません。

ただ、お盆が近づくと思い出す、そんな
個人的な思い出と紐づいたお話です。

お時間よろしければ、お付き合いくださいませ。

もう、かれこれ10年以上前のことです。


大阪に住んでいた頃。

京都の方と乗り合わせ、
京の街はずれをハイヤーで走っていたとき。

立派なイチョウ並木の大通りに差し掛かりました。


晩秋というよりはもう初冬に近い時期。

ずいぶんと大きな樹ばかりで
大変立派に見えました。


豊かに繁った葉はひとつ残らず黄金色に色づき
まもなく一斉に葉を落とそうかという季節。


冷たく澄んだ空気の中で、黄金色の葉が
やわらかな陽光を浴びて風にそよぐ。


陽の光を照り返してキラキラと輝く樹々が
道の両側にズラリと整列して大通りを飾る場所。


それはそれは壮観でした。


あまりのことにほぅっと息をついたほど。


この車に乗り合わせていたのは、
私とはその日が初対面だった老夫婦。


たしか奥様の方が生粋の京都人。


ここで云う“生粋の”京都人というのは、
昔、京に都があった時代に(いつだ)

条里制が敷かれた“都”(みやこ)、の内で

今なお代を重ねるおうちに生まれ育った、
そんな人を指すことば。


そんな時代錯誤な…、そんなバカな…


と思っていましたが、こうした分類は
現代においてもひっそりと
一部の方の間では
続いているように見受けられました。


さて、とある事情から、この日の車内は
大変に重苦しい空気に包まれていました。


和らげようとお天気の話を振っても響かない。


お宅、しゃべったら損や思てる?というくらい
ただただ重い沈黙に支配されていました。


当時、沈黙の間がすごく苦手だった私。

ここはひとつ、この空気感を打破すべく
気の利いたことばのひとつも発せねば!と
ムダに張り切ってしまったワタクシ。

(一番あかんパターンですな)


ここぞとばかり、
この美しいイチョウ並木をほめました。


その老夫婦については初対面で情報がなく、
他にほめられるものを知らなかったから。


とりあえず目について感動したものを
ほめてみたわけです。


曰く、


「京都のイチョウ並木は

 大阪の御堂筋より木が大きくて見事ですね
☺️


「こんな立派な古木の並木がいつも見られるなんていいですね」


とかなんとか。

この街路樹は実に美しい光景であったし、
四国の街にはここまで古い大通りはありません。

こんな風景がいつも見られるってすごいこと。


ただ素直に、心底いいなと思ったのでした。


ところが。


車内には沈黙が重く続きました。


アレ?え?待って?

なぜに沈黙???

…まさか無視?

いや、お耳が遠くていらした???

なに?なに?なんで?

なんでぇぇええーーーっっっ???


明らかにひりついた空気、凍りつく車内。


普通であれば、運転手さんが
空気を読んで口を挟んでくれそうな場面ですが
運転手さんも心なしか凍りついているような?

まるで空気のように気配を消し、
ハンドルを握ったまま、ただ前だけを見ています。


さて。


このとき私がやらかしてしまった
大きな過ちは、なにか?

お分かりになったでしょうか。


そもそもなにかをほめるとき。

決して他のものと比較してほめてはいけません


ましてや京のものを(その筋の方が格下と見る)

大阪のものと比べるなど

言語道断、掟破りの悪手だったのです。


そんなこととはつゆ知らず

さらに間の悪いことに

上から目線で「いいですねぇ」なんて、

そんな言い方までしてしまったワタクシ。


言われた方にしてみたら


『ハァ?こんなん当たり前ですやろ。

 このどんくさいお方は

 いったいここをどこや思てはるのんかいな』



ということです。
(コワい)


長い長〜い沈黙が続き。

さすがにシュン、となって口をつぐんだ私。


そこへ、さも渋々…といった感じで
ボソッと一言呟いたのは、ご主人の方でした。


「この辺は…〇〇(地名)やさけ」

(訳:この辺は○○というところですから)


それに呼応するかのように
ようやく重い口を開いた奥様。


「そうどすなぁ、この辺りは
 こないだの火事で焼けしませんどしたなぁ。」

(訳:この辺はこの前の火事で焼けませんでした)


まだ空気の読めていなかった、
大変に至らないワタクシは。

(お?しゃべってくれた(嬉)♡)

と調子づき。 


すかさず話の端緒をハッシ!と掴みます。


「近くでそんな大きな火事があったんですか〜」


「いつ頃ですか?

 そんな大きな火事やったら、大変でしたでしょう」


ところが。


 …………。


またもや始まる沈黙の時間。


えええええーーーっ

なにーーーっ???

なんでーーーー(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)?

なにか気に障るようなことだったのだろうか…

お身内が大火事の被害に遭われたのだろうか…

そうだったとしたらどう取りなせばいいのか…



オロオロしながら一所懸命考えを巡らせますが
どうしたらよいのかわかりません。



吐きそうなくらいの圧。


すると、目的地が見えてきたところで
またご主人がおもむろに口を開きました。


「さぁ?あれは〜、オウニンの頃やったかぃなぁ」


…?

……?

……、えーっと。

…オウニン?

……今オウニンって言いました?

……オウ、ニン、ですか?


………まさかとは思うけど、

…まさか、いや、そのまさかの「応仁」?



((((;゚Д゚)))))))



火事って…火事って…



応仁の乱の…大火?!( ゚д゚)



脳内回路がスコンッ!と繋がると同時に、
車は目的地の車寄せにスルスルと滑りこみ。

ポッカーンと呆気に取られた私を置いて、
老夫婦は相も変わらず無言のまま、
ニコリともせず車から出ていきました。


支払いを済ませ、お礼を言いつつ
車を降りる際。

運転手さんから向けられた

まぁ、ね…、お気の毒にね…

とでもいうような、
憐れみ感満載の表情が
今も密かに忘れられません。


さて。

無事にこの日のお役目を果たし、帰って
京都事情に詳しい人にこの話をしてみたら。

まるで時間を巻き戻したかのように
運転手さんと同じ表情、同じ眼差しに。


「…??」

「……???」

「なんか私…
 そんなにあかんことした…の、か…?」



無知はある意味最強かもしれません。


このときの私は、京都の老夫妻との
一連のやりとりの裏に巧妙に隠された

「重大な事実」
 (大げさ)

つまり、

「ちょっとばかり蔑まれていた」

ことに、
なにひとつ気づいていませんでした。




…知らない方が幸せなこともある。




タイトルの

「田舎の学問より京の昼寝」。


ネット上で検索すると、今やずいぶんと
ソフトで耳障りのよい解釈がされていますが。


実際にはそういう意味ではないのだと
身をもって知った、世にも恐ろしい

京“風”コトバ

の数々の代表格。


外国から来られた方や観光客、学生さんと
地元高齢者には大変親切な京都の街。


何百年という時間軸がごく自然に
今なお流れている不可思議な街。


老舗店に伺うときやお仕事で行かれる方は
どうぞ相手のコトバの真の意味するところに
よーく注意を向けてみてください。


35℃を超えるような猛暑日でも、
背筋が凍るような、
そんな経験ができる、かも…(笑)


身をもって知った京“風”コトバをまとめました。

よろしければ、お納めください。

「こないだの火事」

(歴史のない田舎のお人にはわかりませんやろうけど)
「そろそろぶぶ漬けでもどうか思てたのに」

(長居がすぎるお人や、やっと帰らはるのんか)
「京都タワー」

(そこはおのぼりさんがのぼるところえ)

※地元民がのぼるのは恥という認識らしい
「今日はどちらから?まぁ〜四国?」

(お狸さんしかいてはらしませんのか思てたけど)
「元気でええお子さんどすなぁ」

(躾がなってません)
「静かで大人しいお子さんどすなぁ」

(挨拶のひとつもできんのかいな…)
「まぁ〜!こんなえぇもんもろぅて」

(イランケド)
「ええ時計してはりますな」

(話が長いor何時や思てはるの)
「いつもきれいにしてはって」

(自分とこの家の前の掃除しかしやはらん)
「まぁよぅ気ぃのつくこと」

(詮索しぃですねorほんま気の利かんお人やね)
「けったいなお人やなぁ」

(おたく、正気ですか?)
「田舎の学問より京の昼寝」

(田舎でなんぼ学積んだかって、京の昼寝ほどの価値もない)

(田舎で勉強するくらいなら、京で昼寝でもしてた方がマシ)


書き出しながら背筋が寒い。



…知らない方が幸せなこともある。

(大事なことは2度言います)


私が知らずに受けていた、
京の都のイケズの数々。

こうしてnoteにてご披露と相成りました。


なんの、他意も、ありません。

まぁ、知ったときはさすがに凹みましたけど。

振り返ってみれば嘘のようなホントの話で。

なかなかできない経験をさせてもらえて、
おもしろかったなぁと今は思います。


え?

で、京都は好きなのか、って…?





「そんなん、よぅ言わんわ〜!」



最後まで見てくださって、ありがとうございます!

#真夏の怪談 #世にもコワイ本当の話 #京都あるある

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