兄という立場
一年以上前のつぶやきに、「いいね」がついた。
村上宗隆の兄、村上友幸の記事を読んだ、一ファンの感想だ。
村上友幸。当時、東海大学野球部だった村上は、弟・宗隆の存在に押しつぶされそうになり、野球を辞めたいとまで思うようになった。
しかし、東海大学野球部・安藤強監督の後押しがあり、野球を続けたという話だ。
耳が痛かった。私が取材をしたとして、村上宗隆の名前を出さずに彼にインタビューすることができただろうか。
兄として、弟に負けたくない。弟にいい顔をしたい。兄弟の関係は千差万別でも、兄として体裁を保ちたい気持ちは、共通するものがあるのではないかと思う。
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同じような兄の立場の野球選手が、もう一人いた。
武岡大聖。東京ヤクルトスワローズ・武岡龍世の兄だ。
自分も同じようにプロを目指していた。当時、八戸学院大学3年生。ドラフトまであと1年待たなければならないタイミングで、弟が先にプロのユニフォームを着ることになった。
TBSドラフト特番「お母さんありがとう」で、武岡一家は取材を受けていた。故郷の徳島から遠く離れた青森の学校に進学した兄弟。親御さんは、二人が近くにいることで、少しは安心できたのではないかと思う。
弟・龍世の試合で負けたとき、大聖はお母さんに抱きついて泣いていた。かわいらしい、泣き虫兄弟だった。
そして、ドラフト特番の収録後、複雑な心境の中、笑顔で両手を広げ弟を懐に迎え入れる兄の姿があった。
きっと兄弟仲はいいのだろう。そんな間に、プロ指名を受けた弟への嫉妬心が沸きあがってしまった。それを抑える葛藤と、抑えきれない自己嫌悪。21歳の若者が乗り越えるには、辛い試練だった。
それでも、プロ入りのために挑戦した内野コンバートで、侍ジャパンのユニフォームを着た守備の名手である弟に教えを乞う。そして、「教え方が上手い」と賛辞を贈った。
野球のために、弟にアドバイスを受け、素直に褒める。
スポーツマンの切り替えの早さと、兄という立場にプライドを置かない素直さ。この若者は強いと、そう思った。
武岡大聖は、四国アイランドリーグ・徳島インディゴソックスの入団が決まった。
今春のNPB入りは叶わなかったが、プロ野球選手として、地元・徳島で社会人生活をスタートさせる。心から頑張ってほしい人だ。
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村上友幸にエールを贈るツイートに1年2か月振りの「いいね」がついた理由は、村上の進路を報じる記事から検索した結果だと思う。
村上友幸が、社会人野球デビューを果たす。
野球部の創設が先送りになったのだろうか。JABA(日本野球連盟)の企業チーム承認及び新規登録が発表されたのは、2020年12月25日付けプレスリリースだった。
村上は昨年4月に入社し、社業に就きながら練習をしていたそうだ。仕事を持ちながらの野球は、時間のやりくりや道具の維持管理も大変だろう。
193cmの大きな体を支えるには、たくさん食べなければならない。することは山ほどある。
苦しいことを乗り越えて今、野球と向き合う村上友幸。苦しい思いをして、大きくたくましく育った。どうか、野球を堪能してほしい。
そして、できたら野球をしている写真を撮りたい。私の手元にあるのは、2019ヤクルトファン感に、末弟・村上けーたくん(当時中3)の引率で来ていた、お兄ぃの写真だけなのだ!
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