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リアルタイムPCR(qPCR):包括的な概要

リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応法(PCRまたはqPCR)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく分子生物学的検査手法です。リアルタイムPCRでは、従来のPCRのようにPCRプロセスの最後ではなく、その途中で特定のDNA分子の増幅をモニターします。リアルタイムPCRは理論的にはDNAを急激に増幅させ、標的分子の数を増幅サイクルごとに倍増させます。リアルタイムPCRが最初に開発された時、科学者たちは、物質を既知の基準と比較することによって、実行されたサイクルの数とPCRの最終産物の量を、DNAの最初の量を算出する際に使用できると考えました。リアルタイム定量PCRの手法は、安定した定量化の必要性に応えるべく開発されました。現在、エンドポイントPCRは、主に配列決定、クローニング、およびその他の分子生物学的手法におけるその他の用途において、特定のDNAを増幅するのに使用されています。

このセクションでは、リアルタイムPCRの紹介、リアルタイムPCRのメリット、qPCRの4工程、リアルタイムPCRとは何か、およびどんな製品が販売されているかについて解説いたします。

リアルタイムPCRとは何か?

定量的またはqPCRとしても知られるリアルタイムPCRは、所定のサイクルに存在するPCR産物の量を測定します。増幅されたDNA産物であるアンプリコンは、従来のPCRのエンドポイント分析で検出されます。リアルタイムPCRでは、各サイクルの後に増幅産物の定量を行い、反応の進行とともに増幅産物の蓄積量をリアルタイムで測定します。

任意の二本鎖DNAにインターカレートする非特異的蛍光色素と、プローブおよびその相補的配列とのハイブリダイゼーション後にのみ検出可能な蛍光レポーターで標識されたオリゴヌクレオチドで構成される配列特異的DNAプローブは、リアルタイムPCRでPCR産物を検出するうえで一般的な2つの方法です。

PCR vs qPCR

リアルタイムPCRのメリット

リアルタイムPCRのメリットとしては以下の点が挙げられます。

  • リアルタイムPCRは、大量の類似サンプルを処理する大規模な民間検査機関で特に有用です。

  • 通常、リアルタイム検出システムは自動化されており、従来のPCRに存するいくつかの制約を克服できます。

  • qPCRは、増幅過程において増幅断片を検出します。

  • 分裂停止期の測定は、必ずしも出発物質の量を明確に示すとは限らないため、対数期の測定がより効果的です。鋳型DNAの初期コピー数は、リアルタイムPCRを用いて決定することができます。

RT-PCRの工程

逆転写酵素PCRの手順は以下のステップで構成されています。

抽出:
RNA抽出は、RT-qPCRの最も重要な最初のステップです。

細胞溶解は、RNA抽出プロセスにおける最初のステップです。チオシアン酸グアニジンを含む緩衝液または他のカオトロープがRNAポリマーを直鎖化し、水素結合を阻害し、細胞溶解物に存在するRNAseを不活性化します。水素結合を阻害する自らの能力によって、リン脂質二重層を崩壊させることで細胞を溶解します。

均質化カラムは、均質化を促進します。DNAや脂質などの粘性ポリマーは分離可能であり、細胞溶解物は樹脂内を高速通過することで流れやすくなります。

次にエタノールをサンプルに添加し、全体の水分濃度を低下させ、タンパク質を沈殿させます。一般的に、RNAは水によく溶ける性質があります。次に、細胞溶解物から抽出したRNAをスピンカラムを用いて結合させます。

低カオトロープ濃度の洗浄緩衝液を最初に用いてRNAサンプルを洗浄し、RNAがカラムに付着した状態でタンパク質を除去します。続いて、前回の洗浄後に残ったカオトロピック塩の一部をエタノール洗浄で除去します。

最後に、カオトロピック塩が存在しない場合、RNAseを含まない水を用いて、カラムからRNAサンプルを溶離することができます。

精製:
このステップではさまざまな補完的試薬を使用して、多糖類、タンパク質、二次代謝産物、および他の潜在的な混入物などの汚染物質を除去します。多糖類/二次代謝産物およびタンパク質を除去する際は、クロロホルムやイソプロピルアルコールなどの試薬を使用します。汚染ゲノムDNAは、カラムベースの方法または酵素ベースの方法でも除去可能です。

このステップでは、ダウンストリームアプリケーション用最終溶液中のRNAを精製および洗浄し、残存汚染物質を除去します。抽出したRNAの保存には、70%エタノール、0.1%(v/v)ジエチルピロカーボネート(DEPC)で処理した水、またはRNaseを含まない水を使用することができます。最後に、これらの試薬のいずれかにRNAを溶解した後、-80℃で保存しなければなりません。

逆転写(RT-qPCR)
遺伝子発現を定量化するにはRT-qPCR、すなわち2段階RT-qPCRと1段階RT-qPCRの2つの方法を用いて行います。いずれの場合でもRNAはcDNAに逆転写され、その後cDNAはqPCR増幅用鋳型として使用されます。1段階および2段階という呼称は、RTおよびリアルタイムPCR増幅を同じチューブで行うのか、それとも別々のチューブで行うのかを意味しています。RNAはまず、逆転写酵素による反応で、2段階法でcDNAに転写されます。続いて、得られたcDNAのアリコートを複数のqPCR反応用鋳型として使用します。1段階法では、RTとqPCRを同じチューブで結合します。

増幅
増幅ステップでは、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド、およびプライマーなどの必要試薬を含んでいるPCR反応混合物をPCRチューブ内のcDNAサンプルに添加します。次に、チューブをサーマルサイクラーに挿入します。その後、サーマルサイクラーを設定して、PCR反応における変性、アニーリング、伸長のステップを実行します。

ステップ:1 変性
サーマルサイクラーを使用して、チューブ内の溶液を94℃(201.2°F)以上に加熱します。熱は元々のcDNAサンプルの水素結合を破壊し、cDNAを一本鎖に分離します。

ステップ:2 アニーリング
その後、サンプル混合物を50℃~60℃(122~140°F)まで冷却し、熱で変性したcDNAの各鎖にDNAプライマーを結合させます。これをプライマーのアニーリングといいます。

ステップ:3 伸長
相補的DNA鎖に結合したプライマーは、反応混合物内に存在する遊離ヌクレオチドの助けを得て、DNAポリメラーゼにより伸長されます。その結果、二本鎖DNA産物が生成されます。伸長期に使用する温度は、DNAポリメラーゼによって決めます。

通常、反応混合物はこの段階で変性とアニーリングとの中間の温度まで加熱されます。Taqポリメラーゼの理想的な温度は72℃です。ポリメラーゼは、プライマーを5'~3'に伸長します。

伸長時間は標的DNA配列の長さによって決まりますが、一般的な目安として、最適温度であれば毎分1,000塩基です。理想的な条件下であれば、伸長ステップで標的DNAの量は2倍になります。

解析
リアルタイムPCRは定量的に、もしくは半定量的に使用できます。リアルタイムPCRでは、従来のPCRのようにPCRプロセスの最後ではなく、その途中で特定のDNA分子の増幅をモニターします。

以下の図において、PCRのサイクル数がx軸に、増幅反応による蛍光がy軸に示されています。これはチューブ内の増幅産物の濃度に比例しています。

産物が指数関数的に蓄積しているという事実にもかかわらず、蛍光は最初にバックグラウンドレベルにとどまっています。ある時点で、検出可能な蛍光シグナルを発するのに十分な増幅産物が蓄積されます。試薬が制限されない対数期で定量サイクル値を測定すべく、リアルタイムqPCRは、反応の進行を記述する既知の指数関数に基づいて、反応中に存在する鋳型の初期量を正確に算出するのに使用することができます。

反応開始時に大量の鋳型が存在する場合、バックグラウンドレベルを上回る蛍光シグナルの生成に十分な産物を蓄積するのに必要な増幅サイクルは、数回だけです。一方、反応開始時に少量の鋳型しか存在しない場合、バックグラウンドレベルを上回る蛍光シグナルの生成には、より多くの増幅サイクルが必要となります。

リアルタイムPCRの使用目的

リアルタイム定量PCR(qPCR)は、簡便で低コストな技法であり、分子生物学者が遺伝子発現を測定するのに使用します。qPCRによる標的遺伝子の相対発現は、内在性コントロールとしての参照遺伝子の使用に基づいて算出します。

リアルタイムPCRの3つの一般的な使用法は以下の通りです。

遺伝子発現の定量分析
科学研究の多くの実験プロトコルが遺伝子発現の定量分析を利用しています。PCRは、特定の遺伝子の発現レベルを測定するのに最も広く使用されている方法です。遺伝子発現解析では、複数の遺伝子のRNA発現量を同時に比較します。この解析は、科学者が多様な病理状態でさまざまに発現する遺伝子を同定するのに役立ち、さらなる研究で遺伝子発現の標的を選定する助けとなります。

疾患の診断
qPCRは、遺伝性疾患、自己免疫疾患、悪性腫瘍、および感染症等の中枢神経系(CNS)疾患を診断する際に広く使用されている臨床検査です。組織や体液中の微量のDNAやRNAを検出できることから、qPCRは診断の速度および精度を向上させ、病因の理解を深め、これまで特発性と思われてきた疾患の感染原因を特定するのに役立っています。

汚染物質の検出
定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)法は、水中の微生物を検出・定量する上で効果的なツールであることがわかっています。近年、さまざまな水源における特定のアデノウイルスやポリオーマウイルス、細菌、および原虫の検出のための定量PCR法が開発されました。

リアルタイムPCR製品

リアルタイムPCR解析にはさまざまな製品を使用できます。注目製品の一部を以下、ご紹介します。

AvantorのリアルタイムPCR(qPCR)製品およびサプライヤー
Avantorの社内科学者は、当社のサプライヤーや研究コミュニティと連携し、主要な医療機関が推奨するqPCR装置、消耗品、および試薬など、COVID-19ウイルスのリアルタイムRT-PCR同定のためのソリューションを開発しました。

AriaMx Real-Time PCRシステム
AriaMx Real-Time PCRシステムは増幅、検出、およびデータ解析のための包括的なqPCRソリューションであり、新規のサーマルサイクラー、LED励起光源を備えた高度な光学システム、および包括的なデータ解析ソフトウェアを組み合わせた製品です。

AriaMxはクローズドチューブPCR検出フォーマットであり、SYBR Green色素やEvaGreen色素、TaqManのような蛍光プローブシステムなど、さまざまな蛍光検出ケミストリで使用できます。トラブルシューティングは機能レポート、120以上の属性、および内蔵診断でサポートされます。直観的なタッチスクリーンインターフェースを搭載したモジュール式かつフレキシブルな設計により、生産性が向上します。

qScript™ 1-Step Virus ToughMix
この製品は、A型インフルエンザ、B型インフルエンザ、SARSコロナウイルス2などのRNAウイルスの1段階または単一チューブ定量的逆転写PCR(RT-qPCR)検出用の2x ready-to-useマスターミックスです。これは最大限の感度を得るために最適化されており、単一または多重化アッセイの方式のTaqMan®プローブのような二重標識加水分解プローブ検出ケミストリを用いることで、わずかな量のRNAを正確に定量することができます。qScript 1-Step Virus ToughMixにはRT-qPCRに必要なすべてのコンポーネントが含まれています(RNA鋳型およびプライマー/プローブアッセイを除く)。

弊社が供給しているqPCR関連ソリューションについてより多くの情報が必要な場合は、弊社のホームページをご覧ください。


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