エアソフト・フルストロークへの苦悩

エアソフトの話です。

“フルストローク”
一度くらいは耳にしたことがあるでしょう。ボルトやハンドルの引きの長さが短くなく、実銃と同じに近いという意味です。

いえ、かつて自分がこの単語を知った時はそうでした。そう思ってました。
今は違うニュアンスに捉えています。

実銃と”全く同じストローク”でなければ
”フルストローク”とは呼ばない。




2015年ごろの事でしょうか。GHKがまだフルトラベルキットを出す前の時期です。
当時の私はAK74Mに飢えていました。
AK74M名指しです。もちろんあのゲームのせい。


マガジンを弾き飛ばすリロードをしたい。
あの分解結合を楽しみたい。
リアルな内部を眺めたい。
あのストロークの長いボルトハンドルを引き切りたい。

これを全て叶えるモデルは当時存在しませんでした。
正確には存在はしましたが、可能であるという情報がなかったんです。
そう、山梨のAK74Mです。

よく覚えています。
フルストロークで引けるAKGBBはWEしかない、と掲示板でいつも書かれていたのを。
WEには74Mはモデルアップがありませんから、選択肢から外れていました。GHKもフルトラベルキットが出る前で、KSCはバッファーでショートストロークの作動。
ストロークのWE、組み替えのGHK、耐寒性と外観のKSC。記憶ではそんな言われ方をしていたはずです。

少なくとも自分の知る限り、2015年までのTwitterや掲示板にはKSCがフルストロークできると口にする書き込みはありませんでした。

幸い自分は見つからない情報を延々と検索し続けられる性格でしたもので、Youtubeの海外アカウントがアップロードしていたKSCのバッファを取り外した場合の作動動画を見つけることができました。現在は消されているので見ることはできません。
フルオートではスタックするが、セミオートなら動作する、といった内容のもの。
これが決め手でKSCを購入。74MはマルイもKSCも絶版になったのではないかと噂されるほど希少で探すの大変だったなあ。


フルストローク化が誰にでもできるあまりに簡単な加工だったのに、ネットには転がっていなかったのでTwitterとYoutubeにそっと公開することにしました。Twitterは2015年の11月( https://vine.co/v/iBOq5UpDwpB/ )、Youtubeは2016年の2月。( https://youtu.be/nJ_6-TtAGSo ) Twitterには当時流行していたvineにアップしていました。
この後、レシピが他人にパクられて金儲けに使われサバゲー・トイガン界隈の洗礼を受けることになるのですが、それはまた別のお話。
でも加工方法を伝える記事を書いてくれる方がいらっしゃるのは良いことだと思っています。ネットの記事なんていつ見られなくなるかわかりませんからね。

当時のポスト


その後

ある日、Youtubeに一つのコメントがつきました。
「フルストロークじゃないじゃん」

いや、確かに箱出しよりは長いストロークになっているし、巷でいうフルストロークで間違いない。この人の本心が気になりました。

それからというもの実銃のAKの資料や動画をさんざん漁り、実銃と同じストロークになっていないことに気付きます。
なんなら、構造上実銃と”全く同じ”ストロークで引けるガスAKが未だに存在していない。

ここから”フルストロークは実銃と全く同じストロークである”という捉え方が生まれました。
知見を得るきっかけになったこのコメントに今では感謝しています。


数年後、GHK用フルトラベルキットが発売されます。こちらも”全く同じ”ではなかったはずです。しかし”フル”トラベルです。他のユーザーもついにGHKもフルストロークだ!と喜んでいました。この時他人に突っ込むようなことはしませんでしたし、似てればフルストロークだよな、とも思っていました。

また時が経ち、フルストロークが”フルストローク”でないということが周知されはじめてきました。自分の中では”あのコメント”の再来に近い何かがあったかもしれません。

今になってKSC AK フルストロークかなんかで検索してみると、加工方法を載せた記事がわんさか出てきます。もちろん記事のタイトルは「フルストローク」。フルストロークではないフルストロークのバーゲンセールでゲシュタルトも崩壊してきます。

自分が2016年にYoutubeへ投稿した動画、「KSC AK74M フルストローク化」
タイトルは当時から変えていません。
ですが”フルストロークではない”ということを今は理解しています。

自分の行動で「実銃くらい長ければフルストローク」という、間違ってはいないが間違っていることを拡散してしまうことにつながってしまったと。

タイトルを変えても良かったのですが、「フルストロークのバーゲンセール中」では”フルストローク”という単語を使いたくて仕方ありませんでした。
何も編集していない自分のショボい動画の再生数が増えていくのが気持ちよかったのです。自己承認欲求のためだけにフルストロークという単語を使い、一度投稿したものを修正するなど恥ずかしいというしょうもないプライドさえ捨てられず、今まで変えずにきました。

ですが、どう変えればよいのでしょう。
“フル”でないのならロングストローク?
純正より伸びているからストローク延長?
実銃と同じではないことを説明した上で、これからこう呼ぶことにします、というのはあまりにも回りくどいですし、自分1人の発言で変わるものではありません。

しかし、”全く同じ”でないことを知っている以上、誰かが放った”フルストローク”を見るたびに今までのことを思い返さずにはいられないのです。自分がこのことへ大なり小なり加担したこと、修正しなかったこと、それが周知されていること。


似た話をしますと
「ライブカート」と「リアルカート」
どちらが何を指すのか説明できるでしょうか?
ライブカートが大好きな自分にはライブカートを指して「リアルカートエアソフトガン」と呼ばれるのがムズムズしてたまりません。
ロットをロッド呼ばわりしたり、グロックをグロッグと書かれているのを見るたびに気分が沈みます。

“フルストローク”でもこれに似た気分になり、そして自分もそれに関わっている。その影響がごく僅かだとしても、メディアで発信したことのある人間として、自分でも気になるほどの間違ったことを直さず、直せずに放置した。誰に謝るでもなく、口に出すほどでもなく。おそらく誰も気にしていないことでしょう。

とにかく、気づいた時に修正する努力しなかったことを悔やんでいます。今からでは遅すぎますし、今これからどうしたらこの気持ちから綺麗さっぱり抜け出せるのかわからずじまいです。
"斜に構える" "敷居が高い"という単語の意味が今と昔で違うように、単語の意味は時代や世間によって移り変わるもので個人がどうこうするものではないと頭でわかってはいても、過去の過ちを忘れずにはいられません。



一個人の主観で見た昔話をしてしまいました。
自分で自分を許せないのかもしれません。
でも、”フルストローク”を見るたびにどこか後ろめたさがあるのは事実です。

実銃と全く同じではないが、実銃に近いストローク。どう呼ぶべきなのでしょう。
あなたたちは何と呼びますか。辞書に載せるのならどう表記させるべきですか。
答えは私には出せないのです。

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