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スエズ運河座礁について

(写真:ロイター通信社 記事より引用)
 スエズ運河でタンカー座礁。物流はどうなるのか。座礁すれば運河は通れなくなる。具体的な影響、運河の歴史も参考に。


座礁事故の概要

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6388929

 3月23日早朝、エジプトのスエズ運河で日本の大型コンテナ船が座礁。航路をふさぎ貨物船の大渋滞という問題。船を所有する(船主)正栄汽船は、愛媛県今治市に本社があり、用船はエバー・グリーンです。

正栄汽船ホームページ

 現在、正栄汽船HPのトップは報道向けリリースとなっており、離床(座礁した船をひきみどす作業)は困難としてます。

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 そのため、本船の事故に伴いスエズ運河を航行または予定したの船舶は引き返し迂回するルートへ変更してます。パナマ船籍であるタンカー「エヴァーギヴン号」は同午前7時40分ごろ、中国からオランダのロッテルダムへ向かう途中であった。スエズ港を航行中、そのすぐ北側で座礁した。事故当時は、強風と砂嵐が発生していた。

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事故の原因(推定)今まで作業概要

原因(推定):風速30―40ノット(約15―20メートル毎秒)の強風

 エジプトの3月後半は砂嵐の季節となるそうです。「ハムシーン」と言う砂を含んだ大風が吹き、日本の台風と同じでたくさん吹き荒れる年もあれば、ほとんど吹かない年も。
 強い砂嵐の日は、視界が遮断され、10メートル先も見えない。会社や学校も休みになるくらいだそうです。基本的に誰も外出はしないそうで、うっかり外出し風にのまれ亡くなることもあり危険。

今まで(3/27)の作業内容
・タグボートによる牽引(8から10隻)
・エバーギブン(座礁した船)のウインチで自力脱出
・船首部分の土砂の除去
・エバーギブンのバラスト水を放出
・サルベージ船などによる更なる救出作業

 事故当初は、報道によるとエジプト運河庁はエバーギブンがすぐに離礁すると見込み、運河北端のポート・サイドから船団が運河に入るのを許している。そうして運河に侵入した船舶はグレートビター湖(待機水域)に停泊中。エバーギブンの船首部分が運河東岸にめりこんでいる状況である報道にある。運河庁は海底の土砂を浚渫(しゅんせつ)する船も応援に駆けつけ、と同時に船を浮かせるため「バラスト水」を抜く作業をしつつ、それが駄目ならコンテナを卸すことも検討している。

損害賠償について

 まず損失対象の考慮範囲

 ・コンテナなどの荷物
 ・サルベージ費用
 ・本船の修理費用
 ・損害賠償(積載品、運河損傷の費用など)

 次に、責任者

 ・船主(船舶のオーナー:正栄汽船)
 ・用船者(エバーグリーン)
 ・水先案内人

 そもそも過失が有無が不明なので、現時点において(3/27)損害賠償を述べることは意味がありません。ただし、座礁船の離礁にかかったサルベージ費用や船の修繕費用は、操船上の過失の有無にかかわらず、船主が負担する可能性が高いのが一般的。一方、制裁する貨物の損害に関する補償(カーゴクレーム)は、操船上の過失があった場合でも国際条約「ヘーグ・ヴィスビー・ルール」に基づき、船主は免責。

 この種の海上での事故のポイントは2つあります。

 ・この事故が予見できたか
 ・この事故を回避できたか

船主への過失を問う場合、つまり責任の有無のポイントとなります。
 「予見」は強風を事前に予見できたかという論点。今回の強風は突発的な砂嵐とされ、乗組員による予見は困難との見方ができる。「回避」は、その強風は操船が困難なものであったかが論点。
 この「予見」と「回避」の可能性を論点として過失の有無を判断。この際、運河通航時の水先案内人の落ち度の有無も論点となる。

船主に過失がない場合は責任追求できない

 まず、船主と契約を結んでいない第三者は、船主に責任を追求できない。今回は、エバーグリーンと「定期用船契約」をがあると報道される(3/26時点)。用船者(エバーグリーン)との契約内容に責任範囲が規定され、積荷などの賠償責任が発生する可能性はある
 しかし、今回の事故により運河内に停船により第三者へ損失があった場合の損失は、船主の賠償責任の範囲外とみなされる可能性が大きい

損失の保険適用

 航海過失免責を定めた国際条約に基づき、単なる船員の操船ミスによる事故(航海上の過失)の場合、カーゴクレームを提起されても免責となる。

 しかし、エンジンや舵の故障をはじめ船の堪航性に問題があったなど特殊な場合を除くとしている。荷主からのカーゴクレームは、発行人が運送人として対処する。その際、貨物にダメージがあった場合は、荷主が契約する貨物保険で損害補償され、保険会社が当該発行人に賠償を請求する。
 座礁船の離礁にかかったサルベージ費用については、過失の有無にかかわらず船主が支払う。その場合は、船主が契約する船舶保険でカバーされるのが一般的。船の修繕費用も、一般的には同様に船舶保険でカバーされる。
 しかし、スエズ運河設備の損傷は、同運河の規定に則り、責任の主体が判断され、同規定は、水先案内人の過失による事故でも船長が責任を負うと規定しており、船員に過失がなくとも船主が賠償請求されると推測される。