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真剣勝負は残酷で美しい

2022年3月18日(金)に囲碁の第46期棋聖戦七番勝負の最終局二日目が実施された。井山5冠(棋聖・名人・本因坊・王座・碁聖)が棋聖戦10連覇が成るか大変な1局が行われていた。

棋士人生で3大タイトル1つを獲得する事は限られた棋士数名しかいない。そしてそのタイトルを10回奪取する事も100年に1回起きるかどうかの出来事です。

更には、10連覇というのは、400年に1回起きるかどうかの大偉業です。囲碁界の競争は、大変厳しくどんなに一流の棋士でも25歳をピークに後輩達にトップの座を譲る事が多い世界です。

10連覇というのは、10年もタイトルを防衛し続けるという記録であり、1度でも負けると連覇記録は、年齢的に厳しい状況になってしまいます。

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もし邪な世界であれば、棋聖10連覇をどのような手段(例えば八百長など)を使ってでも達成させて虚像のヒーローを作り出し、業界の盛り上げのために活用するだろう。

ただ、囲碁界や将棋界は、いかなる時代も常に棋士が1手1手、1局1局に命がけそして魂を乗せた真剣勝負。結果全てが棋士2名の命の結晶が、結果に反映される。

今回の棋聖戦が味わい深いのが、挑戦者の一力棋士は、昨年井山棋士に全てのタイトルを防衛及び奪取されている。その結果、若手の筆頭棋士である一力棋士が無冠となった。

棋士にとって、タイトルを1つ以上所持している事と無冠であるという事は、雲泥の差がある。年収にも直接関わっってくるし、結果として生活にも直接関わってくる、アマチュアファンの対応や関りにも影響を及ぼしてくる。

棋士人生においてタイトルとは唯一無ニの何も変えが利かない大きなものです。そんな大切なタイトルを一力棋士は、全て井山棋士に奪取された。

そして、今年無冠になった一力棋士は7番勝負の最終局において、井山棋士に勝ち切った。それと同時に井山棋士の10連覇を阻止し、5冠から4冠にした。

真剣勝負というのは、必ず勝者と敗者を作る。仲良く両方勝者、引き分けと言うのが無い残酷な世界だ。まさに弱肉強食の世界。

只、アマチュアながら囲碁という世界を通じて感じるのが、残酷な厳しい争いの中だから、その競技でトップ争いをしている棋士達の血のにじむ幼い年齢からの努力がヒシヒシと伝わってきて、その美しさを感じる。

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筆者が最終局に感じたポイントとなる勝負所を少し上げたいと思う。

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白12、16から白番の井山棋士は、局面を細分化して、黒番に大きな陣地を作らせる空間を制限し、地合いで先行して、コミの優位性を活かす内容を目指している事が理解できる。

白36が強情で稼ぎにいった手。黒に渡りを許さず、黒下辺の陣地を荒らした上に左辺黒一団を隙あらば眼系を奪って攻めようとしている。ただし、白36と打った事により,22,26,28,36の4子の白石は捨てられない重い石となる。

白44が井山棋士らしからぬ固すぎる感じを受けた。10連覇の重圧を感じる手。石に井山棋士らしい躍動感が感じられない。筆者が一番疑問に感じた1手だった。

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候補としては、

・34の石から上に一軒飛び

・34から横に1軒飛び。

・34から斜め上にケイマ

この白に対して、黒45、47と石が躍動してきており、右上星を拠点とした大きな空間に石運びができており、黒が急に好調に視える。

白48が強情な一手。勝てば伝説的な1手。敗着と思われる。黒49の一見平凡にみえる1軒飛びが白を完全に封鎖して、落ち着いた1手となる。

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黒が53ともたれ攻めで中央と右辺の石を分断し、双方の石をじわじわと狙う。対して白は、白62と白52右横の切りの味をフォローしつつ石の効率と形を求めるが、常にこの切り味が白にとって嫌味となる。

黒69,71が一力棋士の勝着。落ち着いた攻めで中央・右辺の眼系を追及しつつ自軍の弱い右辺の分断した石の強化を計る。

白72~白86の手段が決定的に白の形勢を悪くした。黒に弱みが無くなった上に黒77に対してつないで1眼を確保できない状況になり、一気に中央白の一団の眼系がなくなる。※.ここの黒77に対して対応できない状況は、既に容易でない形勢です。

白86までの分かれで先手を取った黒番は、超好点の87に周り、更に白の大石に継続して攻撃を掛ける。この時点で地合いでも黒が若干厚く、大石の眼系を心配しながらの白は形勢がままならない。

その後、井山棋士は必死に勝負手や諦めず最善を尽くしていたが、一力棋士の完璧な受けにより、最後まで受けきった。

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本歴史的対局で感じたのが、囲碁界第1人者の井山棋士でさえ、棋聖10連覇という大偉業と次世代筆頭の挑戦者に硬さがみられた。

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井山棋士が棋聖10連覇という偉業を成し遂げる可能性もあった当日は多くのマスメディアが対局後のインタビューに備えていた。勝った一力新棋士が勝者にも関わらず、自分が勝てたのが信じられない表情をみせていたのが印象的だった。

真剣勝負は、周囲が期待する偉業を時には裏切ってくるし、残酷な結果を産み出す。ただそんな厳しい勝負の世界には、余韻が残る感慨深い美しさを残していた。

井山4冠と一力新棋聖の2022年の囲碁は始まったばっかりだ。

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