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囲碁HotWeek(2023年10月14日)

この時期になると囲碁の棋戦が年内大詰めになっていますね。
名人戦、天元戦、王座戦とアジア大会に参加した日本代表選手の多くが、ライバルとして熾烈なタイトル争いを見せています。

そんな中、今週の第48期名人戦第4局についてアマチュア向けの解説を少ししてみたい。

1.対局映像

黒番:芝野虎丸名人(3勝)
白番:井山裕太王座(3敗)

2.七番勝負の鬼井山裕太

将棋界では藤井聡太棋士が八冠を制して多くのメディアを賑わせていました。囲碁界では、井山裕太棋士が1度目の七冠全冠制覇をしたのが2016年です。そして、2017年には更に2度目の七冠全冠制覇をしている。その後挑戦者の世代が、棋聖・本因坊の一力遼棋士そして名人・十段の芝野虎丸棋士になるまで日本囲碁界の第一人者として10年以上王者として君臨してきたのが井山裕太棋士です。

その井山裕太王座は、七番勝負の鬼と呼ばれています。過去の七番勝負では挑戦者としてもタイトルフォルダーとしても過去一度も4連敗のストレート負けをした事が有りません。

更に井山裕太王座の七大タイトルを振り返ると2011年に棋聖を初めて挑戦した時には1勝4敗で負けていたり、同年の名人戦で山下 敬吾九段に2勝4敗と負けている記録が有りますが、その後の七番勝負は恐ろしい事に負ける時には必ずフルセットまで持ち込んでいます。

即ち、囲碁界の魔王と呼ばれる位の計り知れない強さというのは、井山裕太棋士をカド番に追い詰めてから突然発揮される。このカド番に追い詰めてからの底知れない強さは、井山裕太棋士に数多くタイトル争いをした現役棋士全員が思う事だろう。

芝野虎丸名人としては、無傷の3連勝と圧倒的な優位性を魔王が目覚める前に勝負を決めたいだろう。そんな重要な第4局について振り返りたい。

3.棋譜

1.勝負所①

実践譜(1-18)

アマチュアにとって非常に勉強になる盤面です。黒番19手目を何処に打つべきでしょう。勿論争点となっているのは左辺白16の切っている形になっている白1個と黒15の石をどうするかです。
また、黒石3つの7,17,13の一団が未だはっきり生きていないのも争点です。


1-1.選択肢①先に本体を逃げる

黒1と本体3つを先に馬鹿にならない陣地を取りながら、大石本体の眼形を確保する選択。アマチュアの場合であれば、合格点だと言えます。
黒の切っている石は寂しくなりますが、タイミングを見て色々な味を後から利用するという考えです。乱戦になる前に一番大きな本体を安全にするという考え方も大事です。

1-2.選択肢➁力自慢のノビキリ

第1感の1手は、黒1とノビキルです。考えられる検討図を1枚だけ掲載しておきますが非常に大乱戦になります。芝野名人と井山王座でこの図でもう1局打って頂きたい位、膨大な変化が有ります。

ワイは将来囲碁が強くなって、全国大会優勝とか一流の棋士を目指すんやという高い志を持つ囲碁戦士は、黒1と堂々とノビキリ戦う事をお勧めします。但し白2と愚直に反発された後の非常に深い読みをしなければ、あっという間に黒は潰れるので、力自慢そして読み自慢のアマチュアは有る手だと思います。

この手のポイントは、参考図のようにある程度確りと切った石の働きやダメ詰まりや死活を考えなければ、1手でも緩んだ隙に潰れます。

1-3.選択肢➂当て

実践は、黒1と当てました。勿論、シチョウが白8のコスミにぶつかるのでシチョウで捕まらない白は当然逃げ出します。序盤で石数の少ない内は、黒1と当てられて白2の箇所にポン抜かれるた瞬間に強固な生命体ができるので、ポン抜かせてはいけません。

戦いを避けてポン抜きをゆるした図

1-3-1.失敗図

この出来上がりの図をみて下さい。一見左下の白地が大きそうにみえるかもしれません。ポン抜きした左辺の黒一団は、周囲に白石が沢山来ても生きている超生命体です。その周囲の白石は、眼形が無ければ弱い石です。
即ち、超生命体ができた瞬間に左下の動き出しや上辺コスミの白石2つへの攻めなどができて楽しみが豊富にできるので、白としては何があっても序盤でポン抜きで生きが確定するのは防がなければなりません。
また、石の効率の観点でも、死活がハッキリしていなかった左辺の黒石がポン抜きで生きるのは効率が良いです。

2.実践譜(19-54)

非常に難解ですが、黒番の芝野名人は獲れないシチョウアタリを2回打って、左辺を囮に左上隅に圧を掛ける戦略にしました。
実践では、白番の井山裕太王座が左辺も最大限に頑張られた上に上辺が味が非常に悪いのにも拘らず、黒番からの致命的な一撃が見当たりません。

すると黒番は先に損をしているので、先行投資した25,27,29,31,35,37の棒石が上辺の攻撃に参加していない状況になりました。まだ難しい局面ですが、ここで優位性がきまり白92手まで短手数で決着がつきました。

3.感想

七番勝負の鬼である魔王井山裕太先生が、鬼強さを発揮しました。逆に芝野名人にとっては珍しく単調な碁形になってしまいました。アジア大会で何かしら世界の影響を受けたのかも知れません。

この碁は、黒番19手目で何打つが非常に分岐点でした。
黒番19手目を囲碁サークルや教室で皆でガヤガヤ検討するのも良い囲碁の勉強になるでしょう。

星数の上では、3勝1敗とカド番に追い込んでいる芝野名人が優位なのは間違いありません。芝野虎丸名人が立て直して防衛するのか、七番勝負の鬼が覚醒しており大逆転するのか、名人戦の第5局から目を離せません。

次回の第5局は、10月23日(月)、10月24日(火)に実施されYoutubeでlive配信されます。

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