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トロンボーン


「あこは金管バンド、やらないの?」

姉が車を運転しながら、後部座席に座る小学5年生になる姪に聞いた。

「うん、やらないよ」


私はその時、2歳上の姉が金管バンドに入っていたことを初めて知った。

私たちが通っていた小学校では「金管バンド」なるものがあって、5年生から希望する子供は管楽器や小太鼓などで編成されたこのバンドに入ることができる。
放課後が主な練習時間だったと記憶している。

私たちは父の転勤が多かったので、姉は6年生になる前に別の学校に転校していた。なので「曲を演奏したことはないんだよね~、あんなに音が出るように練習したのに」と言った。
発表することもなく、ただただ管楽器のマウスピースを家に持ち帰り、練習を繰り返して学校で音出しをする、、、という記憶だけが残っていた。

一方の私はこの小学校に6年生で戻ってきた。
仲の良い友人はこの金管バンドに入っていて、放課後その練習が終わるのをいつもひとりで、時に1学年下の子達とお喋りをして待っていた。
ある日、急に転校する子がいて、その子の代わりにやってみないか?という話になって急遽金管バンドへの加入が決まった。

その楽器はトロンボーン。
実は姉もトロンボーンを吹いていたのだった。

発表することもなく、メロディーの記憶もない姉に代わって、私は6年生から皆に追いつかんと必死になって吹き方からメロディーから覚えて、秋の運動会で行進しながら無事に吹き終えたのだった。

姉も私も、お互いにこんな経緯があったとは今まで知らなかった。
私は今でもこの自分が吹くメロディーと友人の小太鼓のリズムは完全に覚えていて口ずさめる。

「へ〜そんな曲だったんだ〜。なんか面白いね、無事リベンジしてくれたのね、ありがとう」

遠出したお花見の帰りに、心地よい車内での楽しい会話だった。



今日姉からLINEが入った。
姪のあこが金管バンドに加入したいと先生に申し出たそうだ。
母によるともう申込期間は過ぎていたらしいがやってみたいとお願いしたらしい。

「私達の車内での会話がきっかけで、あこが新しいことにチャレンジしようと思ってくれたのなら嬉しいね」と姉は言葉を綴った後に、「まぁもしかしたら寝ていたかもしれないけどね」と笑っていた。

姉と私。姪っ子達姉妹。
少し複雑な家庭で育っている彼女達に、私と姉のようなお互いの記憶を何十年か経った後に、楽しく一緒に語らえる記憶がいっぱい残るといいなと思う。

また皆で会おう!


追記 4/19
実はこの記事は 1000文字 という縛りを自分で課して(その縛りが必要な訳はさらさら無いのだけれど。笑)書いたものなんだけど、さっき姉からLINEが入ったので追記しておく。

姪のあこから姉に電話があって、しーちゃん(私)と愛ちゃんのお母さん(姉)と同じ楽器のトロンボーンにしたよ!って連絡があった。
姉が「寝てなかったの?」って聞いたら、「ずっと起きてて話を聞いていた」んだって。
ふふふ。なんだか嬉しいなぁ〜  というお話。

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