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コルル


あの日。

大きな朴の木おじさんが沢山の涙を流した日。
わたしは大きくうねる雲を見ていた。


お昼過ぎ。
はぐれ雲がひょっこりやってきて、出掛けたら?って言うから
いつもの森に行くことにした。

ちびちびの子供のちびちびちびがどこ行くの?って聞いてきた。
森だよって言ったら一緒に行きたいっていうから、じゃあおいでって言って、一緒に森に向かった。

ちびちびちびはちびちびよりも臆病だから、一緒に行くって言ったくせにわたしとは距離をとって後ろからついてきた。お話ししながら歩くのかと思ったけれど、まあいいやと思って、ゆっくり歩いた。

いつもの坂道でふわっと白い花の匂いがした。知らない匂い。これはなんだろう?近くにあったまあるいこんもりした白いお花の匂いを嗅いでみたけど違った。この子じゃないんだ。あたりを見渡すと咲いている花は白い花ばかり。この時期は 白い花週間 だな。そう思いながらあちこちに咲く白い花の匂いを色々クンクンする。

手の届かないところにある、小さな花がいっぱい付いた木が一本立っていた。だいぶお爺さんの木だった。全然手が届かないから匂いはわからない。
お爺さん、ちょっとだけ風に揺れてみて。そうお願いしたけれど、お爺さんは眠いのか、お返事がなかった。この子達かな?どうかな?
ちびちびちびも一緒になってにゃーとお爺さんを起こそうとしたけれど、お爺さんはお昼寝中。その時、ちょっと強めの風が吹いて、お花がひとつ、ポロリとわたしの手の中にこぼれてきた。クンクンすると、ああ、この花だとわかった。
ちょっと大人の匂い。クラッとするような、綺麗な香り。鼻の奥の方に広がって、静かに留まるような。かわいい匂いじゃなくて、大人の綺麗な優しい匂い。私はこの匂いが好きだなぁ。お爺さんはいつのまにか目を覚まして笑ってる。
ねぇ、お爺さんはなんていう木なの?ワシはエゴノキと言うのじゃよ。ワシの娘たちはみんな美人じゃろ?と言って笑った。本当にそうだねと言うと、エゴノキ爺さんは嬉しそうにお花を揺らしてたくさんの匂いでわたしたちを包んでくれた。

エゴノキ爺さんに手を振って、
手のひらに入ったお花をクンクンしながら森へ向かう。


森の入り口に仲良しの大きな木がある。朴の木おじさんだ。朴の木おじさんは本当に大きい。大きな葉っぱをいっぱい付けてる。葉っぱで遊ばせてくれるから、わたしは朴の木おじさんが大好き。
わたしが声を掛けると、朴の木おじさんはよく来たねと言って葉っぱをわっさわっさ揺らしてくれた。

去年の初冬、朴の木おじさんは泣いていた。泣きながら沢山の葉っぱを落としていた。あんまりにも悲しそうに泣いていたので、わたしは理由を聞くことができずに、ただただ朴の木おじさんをさすっていた。
今にも雨が降り出しそうな、大きな雲がうねるように近づいてきた。遠い空を見上げながら、わたしも泣きたい気持ちになった。

その時風が吹いて、朴の木おじさんの葉っぱが沢山落ちてきた。わたしはその葉っぱを1枚もらって、指揮棒しながら朴の木おじさんに歌を歌ってあげたんだ。

らるらるる ららら るらら るるるるる
ららるら らるら るるるるる らるら
らーらら らるーら るる ららら

朴の木おじさんは少し笑って、明日素敵な出会いがあるよと教えてくれた。
わたしは朴の木おじさんが笑ってくれたことが嬉しくて、おっきな朴の木おじさんに抱きついて、しばらく一緒に歌ったんだ。



そしたら次の日、不思議な目をした男の人に会ったんだ。

その人はわたしの好きな草原で手紙を読んでた。嬉しそうに優しい目をして静かにそこにいた。とても優しい匂いがしたから、もっと近くで見てみた。
目が七色に光ってて、その奥に川が流れてた。手紙を読んでいるのに、どこか遠くを見ているような目。不思議な人だった。

わたしに気が付かないようだったから、朴の木おじさんの木のまつげをその人に渡してみた。木のまつげはわたしがこっそり名付けた名前。その人はわたしに気がついて、ん?これは、なに?と言ったから、木のまつげだよって教えてあげた。優しい声だったし、何か面白い話をしてくれそうだったから、じっと見つめていたらいつの間にかぴょこんとタミという女の子が現れた。おんなじ匂いのする子。でも同じじゃない。タミはすぐに木のまつげに気が付いてくれて、朴の木おじさんが昨日泣いていたことも気が付いてくれた。わたしは嬉しくてすぐにタミが好きになった。それからタミと一緒に風の音を奏でて遊んだ。
大好きなパパちゃんが迎えにきて、タミと男の人にバイバイをして、パパちゃんとたくさんお話しながら帰った。


その話を今日、朴の木おじさんにしてあげたら、朴の木おじさんはとても嬉しそうにニコニコしてくれた。
朴の木おじさんはすごいね!おじさんの言った通りになったよ!って言ったら、気持ちよさそうに風に揺られてた。
朴の木おじさんとちびちびちびとわたしはしばらくの間一緒に、風に吹かれて揺れながら遠くに見える海を見ていた。



おわり




なんかどうもタイミングがあれやこれやと重なって
今週は「白い花週間」だと思っていたのに
「あんこ週間」との同時開催となってしまいました。笑

先日chihayaさんがコルルの絵を描いてくれたので
それをきっかけに書きました。
未熟で短時間制作のお話ですみません。

chihayaさん、あんこさん、ありがとう。








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