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長距離徒歩を再開する可能性について(付録:鉄道系歩行者を目指す人へ -長距離徒歩の極意-)

 時代の移り変わりははやい。
 先日、プロ野球ドラフト会議が行われ、プロ野球の新たな時代をつくる者たちが名を連ねた。
 私は毎年不思議で仕方ないのだが、なぜ私の名前は一度たりとも呼ばれないのだろうか。2005年ぐらいから毎年心のプロ志望届を提出しているし、何より、自分ちの庭スタジアムでは打てば年間70本の場外ポテンホームランを放ち、投げれば異様に包容力のあるネット型のキャッチャーとバッテリーを組んで蟻ンコチーム相手に常にノーヒットノーランを成し遂げる(通算暴投137)、かの大谷翔平でさえ(嘲)笑うしかない「超保育所級の二刀流」としての実績があるのだ。全く、各球団のスカウト陣は何を見ているというのだろうか。

 来る者があれば、去る者もある。
 平成の怪物・松坂大輔が、惜しまれつつも引退した。
 野球ゲームでアレンジチームを作るならまず真っ先に入れるような大投手だった。かつて150km/h台中盤の剛速球を誇った怪物も、最終登板では118km/hが最速だった。小学生でもこの速さで投げられる子はいる。時の流れを感じずにはいられない。
 残念ながら、ドラフト会議と違って松坂の引退でボケることはできない。なぜなら、去年、「鉄道系歩行者界の怪物」[要出典]こと私が引退し、人々の悲しみと共にひとつの時代が終焉した事実があるからだ。

 ただ、松坂と一点だけ大きく異なるのは、「復帰の可能性」である。幸いなことに、私の身体的状態はまだ復帰の希望を残してくれるものである。身体的問題以外にも引退の原因はあったが、また数百km歩ける体に戻れる可能性があるというのは大きなことである。

 しかし、「身体的問題以外にも引退の原因はあった」のだから、健康な体が返ってきたとして「はいじゃあ今日から活動再開します」とはならない。ではどういったことが障壁となるのか。それは、長距離徒歩を実行するためにどのようなことを行っていたかを見てみることで明らかになるだろう。長距離徒歩が趣味の人、これから趣味にしようとしている人にとっては、参考になることもいくつかあると思う。長距離徒歩を再開する可能性とは別にこれはこれで気になる人もいると思うので、長距離徒歩のためにしていたことの部分は付録という扱いにして詳しく書いてみよう。

 ということで、ここからしばし付録タイム。

■付録:鉄道系歩行者を目指す人へ -長距離徒歩の極意- (付録の文章量か?)

 私の動画上の最長記録は東京から日光までの約150kmで約38時間である。あまり細かい数字は覚えてない。動画を観返せばすぐわかるが、自分の最高傑作を観るのは抵抗がある。これを超える動画はもうつくれないな、と改めて思ってしまうからだ。
 それはともかく、長距離徒歩のためにしていたことを記述していく。なお、実行に丸1日以上かかる不眠徒歩の場合をイメージして記述している。

 東京から日光まで不眠で歩く動画をご存知ない方、観たけど忘れちゃった方は、観てからのほうがこの後の話がわかりやすいかもしれません。

1.下準備編

〔目次〕
 どこからどこまで歩くか
 経路の決定
 所要時間の試算
 出発時刻の決定
 経路カンペの用意
 生活リズムの調整
 編集プランは出発前にほぼ決める

【どこからどこまで歩くか】
 まず何km歩くかを決める。基本的には自分の実力と相談して決めればいいのだが、真夏と真冬は距離を気持ち控えめにしたほうがいい。特に真冬。世界暑がり男選手権67連覇中の私でも、真冬のほうが企画の失敗率は高い。寒さで筋肉が硬直していると、歩き始めてすぐに体が痛んでしまう。実際私はそれで100km超級の企画を3個ボツにした。
 距離を決めたら、スタートとゴールを決める。動画的にはスタートとゴールは有名な場所がいいので、知名度を考慮して決める。例えば140kmぐらい歩きたい時、東京~沼田(群馬県)もそれぐらいなのだが、東京~日光を採用する。鉄道オタクや地理知識がある人にとっては沼田も超有名だが、誰もが知っていて誰にでも「なんか遠い所」という印象を与えられるのは日光である。幸い(?)なことに、沼田はどこかと問われれば見当もつかないが、日光はどこかと問われれば「山形県」と答える人もいるのである。そういう人も視聴者に取り込むなら日光のほうがいい。「東京から日光まで!? すごい!!(だって山形でしょ!?)」と思って開いてくれるならオイシイもんですよ。
 ただ、これは私が関東民であるが故の感覚であって、関東以外の人々にとってどういう印象なのかはわからないのが悩みどころである。ちなみに関西で言うと、新大阪~敦賀が140kmぐらいらしい。特段地理に詳しくない関東の人に「新大阪から敦賀まで不眠で歩いてみた!」と言っても、「うーん……?」と思われてしまうだろう。
 まあ、全国民がピンとくるようにしようと思ったら北海道から沖縄レベルにしないといけなくなるだろうし、少なくとも自分のいる地方の人々には伝わる場所にしよう、ということです。

【経路の決定】
 スタートとゴールを決めたら、何日にも渡るGoogleマップとのにらめっこ勝負が始まる。
 まず、「ここを通りたい」「この道が歩きやすそうだ」というのを考えながら経路を1本に定める。日光の時は「24時間TV駅伝と同じ距離にする」という縛りがあったから大変だったが、特に距離をカチカチに決める必要がないのなら、単純にスタートからゴールまでを経路検索して通りたい場所やわかりやすい道に合わせて微調整するだけでいいと思う。
 ここまでは正直すぐ終わるが、ここからが面倒くさい。
 決めた経路をスタートからストリートビューで見ていき、本当に徒歩に適した道なのかを吟味する。

・歩道があるか確認する
 都会は大抵問題ないと思うが、田舎では、大きな道っぽいから経路にしたものの歩道がなく、そのくせ交通量は見た目通り多いらしいから、逆に細い脇道に逸れたほうが安全ということがよくある(交通量もストリートビューで察せる)。国道も当てにならない。「酷道」だと思っておいたほうがいい。
 また、この道は徒歩で通ることを想定されているのか不安になることもある。そういう時は沿道に民家や畑があるかを確認する。その場合は地元の人が普通に歩いていることが多いので大体大丈夫である。

・右左折するポイントで目印になるものを見つける
 私は基本的に信号の名前板だった。信号がなければお店の看板とかでもいい。ストリートビューで歩いている状態を疑似体験しつつ、確実に気付ける目印を決める。

・どこで道路の反対側に渡るか決める
 特に都会の交差点において、全箇所に横断歩道があるとは限らない。陸橋だったり、そもそも渡る手段がなかったりする。こういうのに現地で気付いて無駄に遠回りした時の疲労感は割とデカい(散歩気分で臨めるレベルならこういうのも一興になるけどね)。持っているパワーを極力前進に注ぐために、経路設定の段階で考えておく。

・休憩スポットがあるか確認する
 田舎になればなるほど休憩スポットはレアキャラになっていく。特にコンビニの有無は後述する理由から死活問題になる。私は田舎ゾーンに入ったら沿道の全てのコンビニにマークを付けて頻度を確認し、あまりにもない区間があったら、経路変更するかその区間に入る前最後のコンビニで入念に休憩する心構えを取っていた。また、ストリートビューで店構えを見るとそれぞれのコンビニがどれだけ休憩に適しているかがわかる。看板に「イートインあり」と書いてあれば(このご時世閉鎖されている所も多いようだが)質の高い休憩ができるぞとか、駐車場が広ければ隅っこのほうでちょこんと座って休憩できるかなとかを考える。

・途中でリタイアできるか確認する
 近くに駅やバス停があるか、タクシーを呼べる地域かなどを調べる。実際歩いてみると「あれ、いつの間に駅通過した?」ということがあるので、駅の入口もストリートビューで見ておくといい。実際日光の時、楡木を通過したことに気付かなかった(疲れていると普段なら気付くものも気付けなくなる)。
 成功を目指す者こそ、失敗のことも考えておくべきである。

・ガチ山道は回避する
 ストリートビューを見てみたら想像以上に山道だったと判明することもある。そういう時は回避しよう。足柄ぐらいちゃんとした道ならいいが、基本的に山道はマジで危険なのでやめたほうがいい(※漆黒の夜に十日市場駅乗換をやった人がほざいています)。

・その他
 Googleは稀代の冒険家なので、さあこれは果たして道なのだろうか? という所も平然とサジェストしてくる。これもストリートビューを見なければ気付けない。
 また、そもそもストリートビューがない道もあり、お察しポイントである。安全が確認できない限りは回避するのが無難である。

 他にも確認する観点はあったと思うけど、今パッと思い付いたのはこんなもんかな。経験を積んでいくと自分が確認したい観点が見えてくると思うので、それで適宜補ってください。

 ここまでストリートビューで吟味する際の観点を述べてきたが、注意することがある。それは、「ストリートビューの画像が最新であるとは限らない」ということである。右下の撮影年月に注目してほしい。あまりに古いと、現在の道路状況と異なる場合がある。そういう時は念のため迂回路を設定する。ちなみに日光の時もあった。

東武金崎周辺

東武金崎周辺のこのバイパスは最近できたものらしく、ストリートビューはまだ完全なものが用意されていないし、バイパス沿いに途中まで設定されているストリートビューは2013年のもので旧道の様子しかわからない。上空から見るだけでもまあ多分大丈夫だろうけど念のため迂回路を用意した(と思ったけど、当時は上空からの写真も不完全で尚更安心できなかった記憶があるようなないような……?)。

【所要時間の試算】
 経路が確定したら、かかる時間を予測する。長距離徒歩の経験者なら自分のペースをご存知だと思うのでそれを基に算出すればいいが、わからない場合はGoogleマップの経路検索で出る予想時間が参考になる。経路を何区間かに分けて、それぞれの区間の予想時間を算出して合計するのがおすすめである。というのも、チェックポイントを作ったほうが実行中にペース配分の参考にできるし、経路検索の青い線はドラッグすると好きな道に変更できるのだがその変更回数には制限があるからだ。

経路検索

何箇所か経由地点を設定できるので、それを利用して青線の変更回数を抑えるのもいいだろう(こんなクレイジーな経路歩く人いるのかな……)。

 ここで注意したいのは、予想時間は勾配は考慮しているようだが、疲労は考慮していないっぽいということである。距離が長ければ長いほど予想時間通りに歩くことは難しくなる。例えば、東京駅から那須塩原駅までは最短で152kmらしいのだが、Googleは32時間で歩けると言っており、それより短い東京~日光に38時間かけている私が32時間で歩くのは相当難しい(てか24時間TVを絡めなきゃちょっと距離を伸ばして那須塩原まで歩いて「人間なすの」を名乗れたのか……)。

【出発時刻の決定】 
 所要時間を試算したら、それを基に出発時刻を決める。何日もかかる時は、できるだけ田舎は昼に通るように設定する。動画にする方は画的にもそうすべきである。まあ日光の時ぐらい田舎ゾーンが長い時はどうしても夜に通過する部分が出てきちゃうんですが……
 他にも、
・田舎だけど街灯やコンビニがちょいちょいあるゾーンは、昼にする優先度を若干下げる
・起きてから出発するまでに無駄な時間を過ごす必要がない出発時刻にする
・最悪何時間かかるかを考えて、それでもまだ帰りの電車があるようにする
など様々な観点があるので、それらを総合して最もマシな時刻を考える。
 あと言うまでもないことではあるけど、雨予報じゃない日にしてくださいね(※土砂降りの中大和駅乗換をやった人がほざいています)。と言っても1日で済まない実行規模の時は計画から実行まで1週間で済むことはほぼなく、計画段階では天気予報を確認できないことがほとんどなので、予備日を何日か設定するのがよい。

【経路カンペの用意】
 クソめんどい工程。道順や目印、目標時間などをポケットサイズのメモ帳に書き込む。いちいちスマホを開いて地図を確認したり、現在地の特定にGPS機能を使ったりしているとバッテリーの消費が激しいからだ。モバイルバッテリーを充分に持ち歩けばいいと言われればそうだが、荷物は極力軽くしたい。このIT時代に手書きかよという感じだが、ちっさいメモ帳に刷る術が身近にないし、私のボキャブラリーがどうにも貧弱で何とも形容しがたい道に出会った時は絵を描く必要があったためこうする他なかった。ただ、メモ帳のほうが道中気軽にポケットから取り出して確認できて楽なので、当日の快適性を事前の苦労で購入する。

メモイメージ

出来ることなら実際のメモ帳をお見せしたいところだが、あいにく企業秘密(訳:字が汚くて恥ずかしい)なので、字のサイズ感を表現した「あ」集団で想像してほしい。「あ」集団ってクウガの敵みたい。これをメモ帳何ページにも渡ってギッシリ書き込む。

 経路絡みはこれで万全だ。次は体調の調整である。

【生活リズムの調整】
 先程決定した出発時刻を万全の睡眠を取った状態で迎えられるように、1週間ぐらい前から生活リズムを徐々にずらしていく。はい、暇な大学生じゃないと無理ですね。普通逆です。生活リズムに合わせて出発時刻を設定するのが健常な発想です。しかしながら、田舎を昼に通る件などは安全面からも無視したくないところであり、私のように脳筋である自覚がある方は自己責任で生活リズムを狂わせてほしい。
 どんな手を使うにせよ、充分に睡眠を取った状態で出発するというのは極めて重要である。東京~宇都宮を歩いた時(徒歩ビアの種)は深夜0時発だったが、生活リズムを合わせきれず、結局120kmでリタイアしてしまった。一方、日光の時は朝6時発で生活リズムに合っており、終盤に凄十を繰り出すまで眠くなることなく、150kmを歩ききることができた。まあゴールが決まってたからってのも大きそうだけどね。

 ここからは少し動画制作に関わる話をしようと思う。日光の動画を例に取る。

【編集プランは出発前にほぼ決める】
 出発前の時点で大体編集プランは考えている。最初はダイジェストで飛ばしまくって、ドラマが生まれがちな後半を動画のメインにするという私お得意のスタイルでいくことは自然と決まった。そして、どこまでダイジェストにするかまで実は具体的に決めていた。距離と撮影事情を考慮した結果、それが幸手であった。私は本来注目を浴びるのが苦手で、人の多い所ではカメラを掲げてボソボソ独りごつ奇妙な振る舞いをしたくない。幸手あたりで人通りが一段落して撮影しやすくなるだろうと踏んだので、そこそこ距離もあることだし、幸手までは飛ばすことにした。動画では特に問題もなく見応えもないクソつまんねー歩きをした「から」ダイジェストで飛ばす体にしていたが、飛ばすほうが先に決まっていたのである。これを「ヤラセ疑惑」と言う。
 ダイジェスト区間は決まった。次は、ダイジェスト担当・ジョン=カピバラさんの台本を作る。さっきから順番おかしくね?
 私は鉄道系歩行者であるため、取り上げる地点はできるだけ駅にした。あと、遠くまで来た感をわかりやすくするために越県ポイントも取り上げている。
 駅は、互いが近すぎず遠すぎず、数が少ないとワープしすぎてイメージが湧きにくいし、多くてもダイジェストが長くなってダラけるのでほどほどの数で、多くの人が知ってそうなメジャーな駅を選定する。
 それと、駅の見た目がわかりやすいかも選定基準に入る。例えば京成だったら、青砥みたいなあまり駅っぽくない所は動画映えしにくいので、たとえメジャーでも選ばないことが多い。どうしても取り上げたい時は、駅名標のアップから始めて引いていくとか、電車が映り込むようにするとか、撮り方でアピールする。
 これもストリートビューで確認しておいたほうがいいだろう。画像検索で立派な駅舎を持っていることがわかっても、自分が歩いているのと反対側の出口だった、ということは充分有り得る。そういう時も経路の微調整ポイントですね。
※しれっと「取り上げる地点はできるだけ駅にした」と書いているが、これは元々線路沿いに経路を設定していたからである。取り上げる地点を先に決めてから経路を設定するほうが効率的な場合もあるだろう。
 駅や越県ポイントが決まったら台本を練っていく。「〇km地点、池袋通過。スタートから×時間□分です」のように穴空きの状態でまず骨組みを作る。
 自分なりのテクニックとしては、
・体言止めを多用すると実況っぽい
・2箇所ぐらいは同じフォーマットでもいいが、飽きないように3箇所目ぐらいから変えていく。私のはまずスポーツ中継みたいに〇km表示をデカく繰り出してから風景を映すというスタイルなので、最初の「〇km地点」は固定で、それ以外をいじくる。「通過」を「到達」にするだけでもだいぶ印象が違う
などがある。
 「何km、どこどこ、何時間何分、何km、どこどこ、何時間何分、……」だけを言うのはつまらないので、何か間に挟まんとする。そうして考えていると、「池袋、王子ときてその次あたりで何か一言入れたいなあ、ん~じゃあ埼玉突入を背景扱いにしてそこで一言言うか、まあこの頃はさすがに余裕だろうから”順調なスタート~”とかにすっか……お、歩きだけど順調なスタート”ダッシュ”とか巧いこと言えるやん、そうしよ」とアイデアが出てくる(でも結局言ってないですよね? その理由は後で)。
 他にも、セルフタスキリレーの直後は「襷を受け取り云々」的なことを言おうかとか、幸手は2区の途中だからシメの台詞は「2区は残り〇km、この先の歩きを見てみましょう」みたいな感じかなとか考えながら台本をねるねるねるねしていくと、あら不思議、実行前なのにほぼ完成稿が爆誕する。
 「ほぼ完成稿」が完成したら、距離は確定しているので実際の数値を調べて埋め、時間はやるまでわからないので仮の時間を入れる。穴を埋めたら、実際に声に出して読んでみて、しっくり来るかを確認する。
 そうしたら次は、台詞のどのタイミングでどういうシーンを挿入するかを考える。すると、自ずと適切な構図と必要な尺が定まる。ちなみに尺は2秒ぐらい余計に見積もる。動画の両端に録画ボタンを押す音が入っちゃったり、カメラを上げながら(下げながら)録画ボタンを押しちゃって画面がブレて始まっちゃったり(終わっちゃったり)することがあるので、そういう時にカットできるようにする。
 そして、その情報も道順を記したメモ帳に書き込む。

 ダイジェスト部分はこれでほぼ決まりである。こうしておくと当日かなり気が楽になる。どうなるかわからんからとにかく素材を集めなきゃと躍起にならずに徒歩に集中できるし、カメラの容量も節約できる。実際、無駄になる素材はほとんどなく、撮った素材はほぼ全て使われている。
 ダイジェスト以降は正直当日のコンディション次第なので、まあ本番中の俺が何とかするっしょと見所になる場所だけピックアップしてあとは放り出す。なぜここだけテキトーなのか??? 緻密なのか雑なのかはっきりすべきである。いや、やれることは徹底的にやって、できないことは仕方ないのだからキッパリやらないというメリハリがしっかりしていると評してほしい。

 さあこれで「1.下準備編」は終了である。あまりの長さにそもそもここまで「1.下準備編」という見出しのもと記述されてきたこと自体皆さん忘れてしまっているだろう。しかし、不眠で数日かかる徒歩を快適に行うならこれぐらいはやっておきたいと私は思う。

2.出発直前編

〔目次〕
 持ち物
 服装
 出発前のご飯

 いよいよ実行の日がやってきた。まずは装備を確認してご飯を食べよう。

【持ち物】 
 持ち物は必要最低限にして極力軽くする。と言っても、経験がないと何が必要最低限なのかわからないと思う。私も回を重ねるごとにどんどん荷物が減っていった。最初の足柄駅乗換の時は電子辞書を持っていた。道中では2回しか使わなかった(使ったのかよ)。
 ということで、例として日光の時の主な持ち物を紹介します(撮影用品や、当たり前な上に特筆すべきことがないものは省略)。

・お金
 財布は重いので、出してポチ袋に入れる。金額は10千円ぐらい。
 キャッシュカードやクレジットカードもポチ袋にズドン。

・身分証明書
 保険証は必須で、あと顔写真があるものを1枚。
 幸いにも今のところ使う場面には出会っていない。

・腕時計
 汗と共に手首にまとわりつかれるのが嫌だったのでポケットに入れていた。
 ちなみに私が収録で使っている腕時計にマスキングテープが巻いてあるのは、ブッ壊れて取れたバンドを繋ぎとめるためです。

・ライト
 夜道の必需品。動画投稿者の方は、強めの光を発するものを用意しておくといい。動画に撮ると、現場で見る明るさと比べてかなり暗くなる(一般的な懐中電灯は動画的にはほぼ使い物にならない)。

・反射板
 こちらも夜道の必需品。他の人に自分の存在を知らせて安全性を高める。反射と言いつつ、自ら発光するタイプのほうがおすすめである。

・摩擦軽減クリーム
 金より大事かもしれない。長距離歩くと、下半身の内側が擦れてきてめちゃくちゃ痛い。これを防ぐためにクリームを使う。どこが擦れるかは体型やフォームによるので、実際に歩いてみて自分はどこが擦れがちなのか把握しておくといい。私は蟻の門渡りが擦れる。
 あと、豆対策で足裏にも塗っておく。足の甲も意外と痛くなるので塗る。実際、靴下の甲側に穴が空くこともある。
 おすすめのクリームは『Protect J1』である。日光で豆ひとつ作らせなかった功労者である。

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Amazonより

・替えの靴下
 距離が長ければ長いほど重要。おニューの靴下が一発で死ぬこともある。

【服装】
 服装は、私はその辺のコンビニ行くぐらいの格好でやってたので何でもいいとは思うが、調節できるかどうかには気を付けたい。始める前と後では体感温度がまるで違う。
 靴下は、前述の通り新品が1回の徒歩で駄目になることもあるほど痛めつけられるので、耐久力を重視してスポーツ用のいいヤツを使っていた。それでも一発でお陀仏になられたことはあるが……
 Tabioのレーシングランがおすすめかな。

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Amazonより

【出発前のご飯】
 ガッツリはいかないほうがいい。お腹痛いけどトイレないとかなったら地獄だし。ただ、エネルギーはちゃんと摂るようにする。私はいつも鮭おにぎりとツナマヨおにぎり、時々追加でカロリーメイトだった。ただ栄養学には詳しくないので理に適ってるかどうかはわからない……。 ご飯を食べたら、勝負服に着替えて身体の擦れるところと足にクリームを塗る。荷物を背負って覚悟を決めて、いざ参らん!!

3.道中編

〔目次〕
 摩擦軽減クリームの追加塗りタイムについて
 夜道でのライト・反射板の扱いについて
 徒歩中も常に編集のことを考える

 ついに長距離徒歩に繰り出してしまった。ああ、俺はもう家に帰れないかもしれない……と思う時もあるが、基本的に臆することはない。楽しく歩くだけである。あれだけ下準備をしたではないか。万端どころか億端である。それでも、少し言いたいことがあるのでお話しします。

【摩擦軽減クリームの追加塗りタイムについて】
 クリームは7~8時間ごとに追加塗りをする(Protect J1の場合)。しかし、私のように人様に見せられない部位が擦れる人は、コンビニのトイレぐらいでしかクリームを塗れない(ここでようやくコンビニの有無が死活問題になる理由を回収した。前過ぎて覚えてねえわ!)。そろそろ追加塗りの時間かな? と思ったら、コンビニが近くにあるかを確認する。都会ならうじゃうじゃあるのですぐ見つかるし、田舎でも下準備の段階でマークを付けて場所を把握済みなので問題ない。ただ、最近はトイレを使えないコンビニも多いようだが……
 しかし、トイレで塗るしかないと言いつつも、でもトイレはやっぱり排泄する場所だしあんまりよくないかなあ……邪魔にならないようにサッと塗ってすぐ出よ……と思いながらいつも使っていた。
 しかしある収録中、いつものように罪悪感を覚えながらトイレに入ると、なんとそこには、着替える時用の足場が設置されていた。トイレ内での着替えが許されるならクリーム塗るのも大丈夫なんじゃないか? と、この時は少し罪悪感が軽くなった。ありがとう、さいたま新都心駅前のセブンイレブン!!
 とは言え、全てのコンビニがさいたま新都心駅前セブン仕様というわけではない。基本的には本来の用途からは外れているので長時間の使用はしない意識を持っておきたい。

【夜道でのライト・反射板の扱いについて】
 ライトは、前から車が来た時が注意ポイントである。あまりライトを上げすぎていると、対向車の運転手に眩しい思いをさせてしまい大変危険である。車が来たなと思ったら、サッと下げよう。持ち物紹介でも述べた通り、私は普通のより強い光を放つライトを使っていたので、殊更気を付けていた。
 反射板は、どこに付けるかがポイントである。反射板と車道の間に自分の身体が極力来ないようにする。道の反対側に渡る度に逆側に付け替えるのはめんどくさいので、複数付けとくのが楽だと思う。また、前からの光にも後ろからの光にも対応できるように、前後に反射面が向くようにする。
 自ら発光するタイプがおすすめと書いたが、これは光を発しない歩行者や、ライトがショボい自転車の運転手にも認知させられるからである。私はただの反射板を使っていた時、自転車と激突しかけたことがある。

 ここからは動画投稿者としての道中での意識について記述したい。またもや日光の動画を例に取る。

【徒歩中も常に編集のことを考える】
 新宿から幸手まではお気楽なもんである。ゴリゴリに必要素材を決めてあるので計画通りに歩くだけだ。
 と思いきや、実はそうでもない。歩いている最中も、ずっと編集について考え、もっと面白くできないかを模索する。
 王子を越えたあたりで、「草加、通過」のギャグを思いつく。いやつまんね~笑 さすがにスベってるわ…………スベ……スベる……スベり…………ん? 滑り出し……順調な滑り出し………………これや!!
 閃きの瞬間である。埼玉突入の時に「順調な滑り出し」と餌を撒いておいて、直後の草加で「ギャグもスベりだしています」をブッ込み、笑いを一網打尽にする案が浮上する。こっちのほうが面白いのではないか? しかも「ギャグもスベリだしています」の瞬間はBGMを止めて笑いを誘うだろうから、そうすると前半のBGMはその曲のちょうどいいタイミングから始められるし、後半のBGMはちょうどよく曲が終わるというのを両立できる……いいこと尽くめやないか!!
 こうして「すべりだし案」は採用された。だから「歩きなのに"ダッシュ"」は日の目を見なかったのである。
 忘れないように、即スマホにメモを取る。また、台本が変わるので必要な素材の尺も変わる。それも即座に算出して情報をアップデートする。特に草加は大変だ。ジョンさんが1人で喋っているところに割り込んでくるのだから、ギャグのタイミングが極めて重要である。草加駅舎のシーンが始まってもまだ少しはジョンさんが喋っているだろうから、カメラを回し始めて直ぐにギャグを言ってはいけない。暫く無言で駅舎を撮ってからギャグを言い、その後のジョンさんの「ギャグもスベりだしています」の間も駅舎が映っている必要があるから、終わりの無言時間も長く取ろう。……という風に決めていく。

 ダイジェスト区間も終わりが近付いてきたところで、やっぱりもう少しダイジェスト内に見所つくりたいな~と欲張り出す。なんか面白いこと……うーん思いつかない。
 すると、草むらを闊歩する子猫を発見する。チャーーーンス!!! この子猫を餌に女性人気を獲得や!!(そんなこと考えてません)
 子猫は待ってくれないので、とりあえずしこたま子猫動画を撮る。こんだけあればどうなっても素材が足りなくなることはないだろう。じゃ後は歩きながら考えよ。
 私は言葉遊びが好きなので何か子猫で巧いことを言おうとするが、結構難しい。ここで、先程春日部で図らずも「日光街道 粕壁宿」と書かれた看板を撮影できたことを思い出す。今回の企画にピッタリのいい看板だから、元々使う予定だった映像に替えて背景にしようと撮影したけど、これと子猫を絡められないか? いや流石に違いすぎて無理………………じゃねえな。
 そして、「日光へ攻めんとする東雲選手の横で、子猫選手も草むらを攻めています」を思いつく。使っている言葉はほぼ同じだが、「日光へ攻める東雲選手」は何もおかしいところはなく真面目で力強さを感じる一方で、「草むらを攻める子猫選手」は何もかも不自然である。可愛い子猫に「攻める」というパワフルな言葉をくっつけるのがミスマッチだし、「子猫」が「選手」なのもおかしい。「草むらを攻める」のも変である。字面は酷似しているにもかかわらず大きなギャップがあり、それが笑いを生み出す(実際生まれてなかったらこの男はどう弁解するつもりなのだろうか)。

 こうして、何とか面白くなりそうだと安堵しながらダイジェスト区間を終える。しかし、ここからが本当の闘いである。全て「本番中の俺が何とか」しなければならないのだから。
 駅や越県ポイントでは距離と時間を出す演出をするのが通例なのであまり考えなくていいし、三県境のようなそれ自体に人々を惹きつける力がある場所も楽だが、それ以外はトークで何とかしなければならない。ましてや夜なので景色も当てにならず、純粋なトークで勝負する必要がある。
 ひたすらどんなことを話そうか考えながら歩く。徒歩に関わるアツい話はしんどくなってから腐るほどやるので、余裕があるうちは全然関係ないくだらない雑談をすることにした。
 思いついたら、皆さんにわかりやすく伝わるように、文章を頭の中で整理する。ちょっとがっかりさせてしまっただろうか。実は動画内のトークの大半は即興ではない。だから本当はトーク力がないのである。大体一発で上手に喋れなくて、4~5回録り直してようやくうまくいったものが皆さんに届けられる。時々トークを評価していただけてとても嬉しいのだが、本当は違うんだよな……といつも気まずい気持ちになる。
 こうして雑談しながら歩いていくが、一向に身体に異変が生じないので、このままではただ延々と暗闇の中のトークショーが開催されることになってしまう。それではダラけてしまうので、身体の調子が悪くなるまで2回目のダイジェストで飛ばすことにした。1回目のダイジェストと同じ感じにしてもいいが、ちょっと違いを作りたかったので、おかしなことを1つ取り上げる案を思いついた。何か面白いこと起きないかなーと思いながら歩いていると、巨大蜘蛛の巣に危うく引っ掛かりかける事件が起きた。まあこんぐらいのクスッと笑えるレベルのヤツでいいか。暗闇だからこれ以上のイベントは期待できそうにないし……ということで、「巨大蜘蛛の巣引っ掛かり未遂事件」をダイジェストに取り込み、1回目との差別化を図ることになった。

 ダイジェストが終了=身体に異変が生じてからは編集のことはあまり考えなくていい。随所随所で救援キットを開封し、ただひたすらアツい話をするだけだ。そしてこの男、生粋のストイックマンであるため、この手の話は頭の中で一切推敲しない。ただ即興で垂れ流すだけである。ここは唯一自分で自分に感謝したいポイントである。編集のことなど到底考える余裕のない疲労状態でも動画映えする名言を口から漏れ出させられるので編集作業中の俺が喜んでます。

 たくさん書いたが、これでも考えていることの一部である。何十時間もあるのだ。ただ歩くだけでは勿体ない。脳が動くうちは常に編集のことを考え、「何か面白いことはないか?」「動画に使えそうな出来事はないか?」とアンテナを張りながら歩く。動画投稿のその瞬間まで、より面白くアップグレードできる可能性を模索するべきである。
 とは言っても、本当はこんなこと考えながら歩きたくないですけどね。動画投稿という枷がなかったら「雰囲気のいい小道があるなあ」とか「この家は生垣の手入れがうまいな」とかほのぼのしたことばかり考えたいですね。もしかすると俺は、動画投稿者であるが故に長距離徒歩を楽しみきれていないのかもしれない……

4.ゴール後編

〔目次〕
 帰り方
 復習、動画編集

 VICTORY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 無事達成することができた。しかし私は達成後長く現地に留まらない。必要な素材だけ撮り、即電車に乗って自宅に帰る。予想到着時刻の振れ幅が大きいしお金がもったいないのでゴール周辺に宿泊して翌日帰るということはしない。

【帰り方】
 帰宅ルートには注意したい。電車に乗って腰掛けた文字通りその瞬間、気絶する。宇都宮からグリーン車に乗ろうもんなら次の駅は雀宮ではなく熱海だ。
 実際には予定区間外までグリーン車に乗って寝ていたらアテンダントの方に起こされると思うが、寝過ごすととんでもない所まで連れていかれかねない列車には乗らない。できれば終点で乗り換えていくコースになるようにしたい。
 乗換時間もいつも通りではいけない。実行中は何ともなくても(何ともないことはないが)、終わって気が抜けて腰掛けた瞬間足腰がその形に固まる。座席から立ち上がることすら困難になる。そして歩行ペースも亀と善戦するレベルまで急激に落ちる。同一ホームの反対番線に移動するだけの乗換でも5分は確保しておいたほうがいい。

 何日もかかる徒歩をやった後は、体調の全快までに1~2週間はかかると思っておいたほうがいいだろう。それまでは日常のあらゆる動きに制約が出、思うように行動できない。

【復習、動画編集】
 徒歩の復習はいつも動画の最後にやっているような感じである(あれが全てではないけど)。歩行経路、その起伏、歩数計アプリの情報、歩行速度の変遷などを見ながら「予想より実際がだいぶ遅かったから次の予測時は実力を過信しない」「ここが駄目だったから今後こういうトレーニングを強化したほうがいい」など、次に繋がる反省をメインに行う。
 動画編集は、構成は既にほとんど考えてあるし、脳内イメージではもうほぼ動画が出来ているので、それを具現化するだけである。まあそれだけでもめちゃくちゃ時間かかるんだが……

 徒歩実行後にやることは実はほとんどない。長距離徒歩企画は実行以前が9割である。

■これを再びやれるのか?

 ここまで読まなくても皆さんはお解りだと思うが、実行に丸2日かかる企画には2日のみあればいいわけではない。企画から実行、編集、療養までで1ヶ月は欲しい。しかも、その1ヶ月間はそれなりに徒歩に集中できる日々でなければならない。私が今学生なのか社会人なのかプロ野球選手なのかは明かさないが、土日しか休みがない人が、土日は丸々実行に使うとして、他の日は計画・準備しながら働き、生活リズムを調節しながら働き、実行後の全身の痛みに長期間悶えながら働くことができるだろうか。土日で確実に完遂できる徒歩ならまだどうにか無理矢理やれるかもしれないが、ちょっと予定が狂って月曜まで延長、ということはできないし、土日で収まらない距離の徒歩はそもそも計画できない。日本にフランスばりの超巨大休暇の文化が根付くか、奇跡的に祝日が連なり30連休が生まれるか、定年まで待つしかない。
 このやり方は、暇な大学生だからこそできるのである。いや、どんなに他のことで多忙でもやってのける人々がいることは知っている。私の身の回りだけに限ったって、どれだけ色々なことで忙しくても有り得ないぐらいバリバリ活動して、平然と司法試験に合格する人や自分の研究で成果を上げる人や海外でプロジェクトを成し遂げる人はいるし、官僚となってただでさえ毎日夜遅くまで大変なのにしっかり趣味に取り組む人もいる。なるほど、この人達は本来1日が50時間である体系で暮らしていて、今たまたま俺らの世界線に現れているだけなのだな……と信じたいところだが、残酷なことに同じく1日が24時間である世界の住人だ。そういう人達の前では何に対しても「できません」という言葉を発することが憚られる。たまたまこの人達と一時期同じ黒板を見つめていて一時期仲良くしていたというだけで、ここは勇気を出してはっきり言おう、私は何者でもない。彼らとは違う。1無量大数馬身差をつけられて後方にいる。できる人がいることと私ができることは別だ。自分の能力・活力の低さを取り繕わず正直に言うと、今後も従来のスタイルを継続することは、私には不可能なのである。

■新スタイルの模索

 とは言え、「できません」で終わりたくないプライドもある。これまでのスタイルでは不可能なら、新しいスタイルを考えなければならない。今後の人生と長距離徒歩を共存させるには、
・不眠制度の撤廃(不眠制度ってなんだよ)
・深夜帯の徒歩の撤廃
・連続日程主義の撤廃
をする必要がある。別に簡単にできそうじゃんと思われるだろうが、大きな問題がある。それは、「それでもなお面白くできるか?」ということである。
 自分でも思うし、以前コメントでも指摘されたのだが、「不眠で昼夜を問わず歩き続ける限界感が面白い」のである。宿泊しながらでいいならそりゃ金と時間さえあればどこまでも歩いていけるのだ。生活リズムを崩さないように徒歩時間帯は日中に限り、夜はしっかり寝、日曜日に歩いたら次の実行は次週の土曜日というスタイルで今まで以上の面白さを生み出したければ、それはもうとんでもない距離を歩く必要がある。それこそ日本縦断でもしなければならないのではないか。
 「すごく速く歩く」ことで面白みを生み出すというのもあるかもしれない。同じ時間でも歩く速さが速ければ進む距離は長くなる。そうすると多少は長距離連続徒歩主義を生き残らせることができる。それに、それだけ長距離でもその速さで歩けるのか、ということ自体にも面白さを見出せる。
 しかし、そのためには実行以上に過酷なトレーニングを継続して行う必要があり、すぐに身に付けられるものではない。

 今後も長距離徒歩を行い、コンテンツとしての面白さを維持したまま皆さんにお届けするためには、上述の「3撤廃」を行い、「距離をめちゃくちゃ長くすること」「すごく速く歩けるようになること」が必要であると考える。
 もちろんこれだけでいいわけではないだろう。距離をめちゃくちゃ長くして日程を分けるということは、企画の完遂に膨大な期間を要するということだし、その間ずっと視聴者を離さないためには相当魅力的なコンテンツでなければならず、それをどう実現するかも課題である。とりあえず上記は最低限行わなければならない変革であり、更なる検討は必要である。

■脳筋長距離徒歩一本槍はそもそも限界

 私に才能はない。残念ながらちょっと雑談したりプリンの食レポをしたり商品の開封をしたりするだけで人々を笑顔にさせる能力は持ち合わせていない。だから並の人には到底できない(やろうとしない)こと、そのひとつである長距離徒歩をやってのけることでしか人々を惹きつけることができなかった。しかし、それだけでは早々に限界がやってくる。だから、私が再び躍進するためには、脳筋長距離徒歩に頼り切りの状態を脱することが必要である。実は電車乗ったりバス乗ったりするより歩いていったほうが楽な場合があるよとか、気軽に歩けるけどこんな珍しい特徴がある徒歩コースがあるよとか(これらはポッと出の例だからそんなんおもんないわとか言わないでね)、徒歩以外の価値を付加した企画を繰り出していかなければならない。ただひたすら遠くまで歩く、凄いことだが馬鹿でも思いつける。ここはほぼ筋肉と化した頭蓋骨内に脳味噌を取り戻し、徒歩がメインだけど徒歩だけじゃない企画というのを生み出し、手持ちの槍を増やす必要がある。
※もちろんこれは「徒歩デッキ」内の話であって、そもそも徒歩じゃない槍の模索も行っていくつもりである。
 そして、思いついた企画を没にしないことだ。私はよく思いつきはしたが面白くならなそうだからやっぱやめた、ということをやる。私の完璧主義が悪く働いている一場面だ。完璧を目指す前にまず「やる」。やってみて初めてわかることもあるだろうし、もしかしたら意外と面白いと思ってもらえるかもしれない。だからもし私が復活してつまんない動画を連発していたら、「ああ面白い企画を探し回ってんだな」とスルーしてください。

■おわりに

 従来の長距離徒歩企画のやり方、そのスタイルを継続することの難しさ、新スタイルの模索について語ってきた。頭を使った巧い企画を考えていかなければならないが、脳筋時代を忘れたいわけではない。むしろ大事にしたい。もしチャンスがあるのなら東京から福島まで不眠で歩きたいと思っている。東雲のアップグレードを試みようということである。状況に合わせて自らを柔軟に変容させつつ、しかしながら自分の基礎は確かに持っておくことが、YouTuberとして秀逸な企画を長きに渡り提供していくためには必要である(一回引退している以上長きに渡り提供できてないが……)。
 復活することが確定しているわけではないし、いつ復活できるか見当もつかない状態であることには変わりないが、もし復活することになったら、常に新しい自分を求めて前進する東雲として帰ってきたい。
 群雄割拠の戦場で結果を残したければ、過去の栄光に過度に縋らないことだ。きっと松坂も、そうして世代の筆頭として第一線で活躍してきたのである。

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