読書備忘録 中公新書 野口悠紀雄著『「超」整理法 情報検索と発想の新システム』1993年初版

○データサービスの発達によって情報環境が一変した。一億総博識時代ということは、単なる物知りでは価値がなくなった。事実の分析と評価をする能力が求められるようになった。

○本書の「押出しファイリング」は実用的。順番は時系列、置き場所は一つだけ、なにより分類はしない。この整理法は「短時間で対象の情報を取り出す」ことを目的としている。

○センチメンタル・バリア:「捨てたいけど捨て難い」という思い出に依拠する抵抗心。

○パレートの法則:イタリアの経済学者パレートが提唱した法則。世の中の現象は一様に分布しているのではなく、偏った分布をしている。本書では「情報」にも適用されると述べられている。〘例〙2割の人々の所得が、社会全体の所得の8割を占める。

○階層化ディレクトリ:内容別分類

○押出しファイリングにおいて、日誌は索引となる。

○ワイルドカード:関数の引数内や、オートフィルタで曖昧な検索をする時に使用するもの。

○ 魔法数の7:認知心理学上、この数字は人が一度に記憶できる残像のような要素の限界数を示す基準値。〘例〙一週間、虹、七不思議、七つの大罪、ローマの七丘…etc.

○ファイル名は普遍性の高い固有名詞を用いるのが良い。

○「パソコンアレルギーはキーボード恐怖症から来るもの」という著者の考察に、一理あるなと思った。

○「電話とは相手から一方的に来ては、自身のペースを阻害する野蛮な道具」という考えには同意する。

○理論的に優れていることと、専門家不在時に上手く機能するかは全くの別問題。

○ヨーロッパの旅行案内書である「ミシュラン」は都市が地域別ではなく、アルファベット順に並べられている。ヨーロッパには他にも街路番号方式や鉄道の時刻表などがアルファベット順に並べられている。

○著者は日本のホテルやレストランが暴利を貪るのは、ミシュランの様な客観的評価をする情報誌が無いことに原因があると述べている。因みにミシュランガイドが日本で始まったのは2008年。これ以降暴利を貪ることは無くなったのであろうか。偶然にもこの年はリーマンショックによる世界的不況が起こっている。利を得るどころか経営の維持の方で大変だったのではないかと私は考えた。ホテル・レストラン業界がリーマンショックにどう対応したか、どんな影響を受けたか、を書いた書籍を探してみることにした。

○ランダムアクセス:レコード的方式。シークエンシャルアクセス:テープ方式。

○図書館のような分類システムは、「利用者が本を元の位置に戻す」という「性善説」に基づくシステム。

○「超」整理法は情報の流動性や、秩序の崩壊に強い。

○情報とは生まれ消えるものでたり、一定の寿命をもっフロー量。

○モノは新種が続々と湧いてくる訳では無いので、分類項目が安定的。また情報と比較しても陳腐化するスピードが遅い。

○モノであっても、流行などの情報的な要素が重要な場合は押出し方式が有効。

○著者は「世の中に溢れる発想法(術)はおかしい。アイデアの生産とは本来精神の自由な活動のはずである。ルールに縛られるなどあってはいけない。」といった旨を本書で述べている。全く同意。

○双務的関係性によって構築される集団の中でアウトプットとインプットをする。本書では原爆開発の関係者が研究所や会議室ではなく、食事中や旅行中の会話の中でアイデアを交換し合ったことを例に挙げている。原爆開発チームの書籍を探そう。

○スタンダールの『恋愛論』によると、恋愛の発展は1.感嘆、2.どんなにいいだろう云々、3.希望、4.恋が生まれる、5.第一の結晶作用、6.疑惑が現れる、7.第二の結晶作用、の七段階に分かれるという。

○著者は恋愛の発展過程をアイデア製造の過程に置き換える事が出来ると述べている。1.取り掛かり:まずは行動を起こして問題提起する。2.ゆさぶり:客観的視点を以て、論理展開を再構築する。3.結晶過程:個人で徹底的に論理を詰める。というものである。

○ニュートンがなぜ万有引力の法則を発見したのか。木から落ちるリンゴを見たからか。否、その時のニュートンはこの問題について思考していたからである。アイデアとは虚空から現れるのでは無く、潜在意識下で着実に思考が進むことによって発生するのだ。と著者は述べている。

○スタンダールは取り掛かりについて、「大社交界がこの行動を容易にしており、恋愛に役に立つ」と残しているらしい。大社交界って、いわば現代ではクラブとかになるのかな。

○立花隆は「インプット」と「アウトプット」の間に「X」というブラックボックス(過程)があると述べた。またインプットしたアイデアがXにて醗酵するのを待つことの重要性も説いた。〘例〙歩く、筋トレ…etc.古代ギリシアの医学の父ヒポクラテスは「歩くと頭が軽くなる」と強調したらしい。(ソースが気になる所)

○録音メモ:利点…1.スピード、2.アイデアが最も出やすい状況でメモできる。欠点…1.手軽だからこそ量が多くなり、後処理が面倒になる。2.外聞がみっともない。

○メモは仕事の効率化に大いに役立つ。時間の短縮は遊ぶ時間の確保に繋がり、遊ぶ時間の増加はひらめきの機会が増えることに繋がる。即ち遊ぶ時間を持つことこそ究極的な「発想法」である。

○93年当時、著者は「将来、日本人に求められるのは肉体労働ではなく、情報処理とアイデア生産の能力である。」と述べている。22年現在、その通りになっている。著者の先見性に驚いた。

○アルビン・トフラーは、一万年前の農業革命を「第一の波」、産業革命を「第二の波」、そして50年代半ばからの新たな変化を「第三の波」とした。彼の著作を呼んでみたい。『未来の衝撃』、『第三の波』、『パワーシフト』

○著者が終章で述べた「知識資本に対する投資」は、22年現在の時点で日本の失敗に終わったと見て良いだろう。行き過ぎた拝金主義と安定志向によってこれらへの投資は軽んじられたのだ。その皺寄せを私たちの世代が喰らっている。

○至言:「遊びの時間は与えられるものではなく、タイトなスケジュールの中から作り出してこそその価値は高まり、それを実感できる」

○梅棹忠夫著『知的生産の技術』、読みたい。

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