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【カーボンニュートラル推進企業紹介⑯】株式会社ニッキ ~脱炭素・水素活用の最先端が、厚木市にあった~

 カーボンニュートラル―。脱炭素への取り組みは国際レベルのものから個人での活動まで様々です。
 厚木市内で脱炭素の取り組みを進めている企業に、どのように「脱炭素への挑戦」をしているかをインタビューしました。取り組む理由や具体的な進め方、これから取り組む企業へのメッセージなど、1社ずつご紹介。取り組みを始める一歩に、また活動を促進させるヒントにしてはいかがでしょうか?

 16社目は、北部の内陸工業団地を拠点にし、カーボンニュートラルという大きな目標を、直接的に製品を通じて実現している株式会社ニッキ(和田孝社長)です。

内陸工業団地にある㈱ニッキの本社

 脱炭素化にも直結する同社の事業のひとつに、モーターの製造が挙げられます。農機具や産業用ポンプなどはガソリンを燃料にした小さなエンジンで動かしていますが、同社ではこれらを電力化できるモーターを開発。さらにそのモーターを制御するためのソフトやハードの製品も手がけています。自動車にはエンジンだけでなく多くのモーターが搭載されていますが、同社のモーターはより高精度、高効率を目指して進化を重ねており、制御ソフトの改良などによる電力削減を積み重ね、カーボンニュートラルへの後押しになっていると言えます。

同社に展示されているモーター(左)


 同社は戦前から、エンジンの一部とも言える燃料の気化装置(キャブレター)などを製造し続け、技術を蓄積してきました。燃料といってもガソリンや軽油といった液体から、天然ガスなどの気体まで実に多様です。こうした燃料の制御や、様々な気温や気圧などの条件でもしっかりエンジンを動かすための電子制御なども手がけ、まさに燃料を「動」へと変えるプロフェッショナル。製品の一部は自動車だけでなく、発電機や芝刈り機に至るまで様々な製品に生かされ、私たちの生活を影で支えてくれています。同社の拠点は中国やインドなど国内外にあり、各国のニーズに応えながら製品開発を重ねてきました。特に天然ガスをエンジンに吹き込む「インジェクタ」は、国内よりもインドや中国など海外でのニーズが多いそうです。

 近年、二酸化炭素などの温室効果ガスを減らす動きが世界的に大きくなってきました。こうした動向を視野に、化石燃料の消費を減らす電力モーターや、水素そのものを燃料として活用する分野の開拓を進めていたのです。「カーボンニュートラル対応製品開発チーム」も組織し、開発や購買、営業の各部門の連携を図ってきました。

 乗用車やトラックをはじめ、発電機や芝刈り機など、ガソリンや軽油を使って動くものは二酸化炭素を出しますが、同社が力を入れているのは「水素」。水素は電気を使って水から取り出すことや、化石燃料やエタノール、汚泥や廃プラスチックなど様々な資源から作ることができ、何より燃焼しても二酸化炭素を排出することがありません。現在は水素を大量に作り、貯蔵し、運ぶ技術の開発なども国内各地で進められています。

ずらりと並ぶ水素ボンベ

 現在は大手自動車メーカーからは水素から電気を取り出してモーターを動かす「燃料電池自動車」(FCEV)が市販されていますが、ニッキでは部品の一部である水素計算バルブやエアバルブを開発。また水素そのものを内燃機関で燃やす水素エンジンのためのインジェクターも手がけています。特にトレーラーなど、モノを運ぶ力や、航続距離が求められる車種では水素そのものを燃やす水素エンジンに期待が寄せられています。インジェクターはエンジンのシリンダに水素を入れる装置のことで、これまで培ってきたガソリンや天然ガス燃料を扱う技術が生かされています。もちろん従来の燃料とは異なり、特質や長所も短所もあるので、毎日が試行錯誤の積み重ねです。

インジェクターの一部

 こうした自社開発と同時に、大学や他社との連携も欠かせません。自社製品と他社製品をマッチングさせるためのエンジン試験設備や、マイナス数十度といった条件を作る低温室などもあるそうです。さらに、インジェクターをコントロールするための制御機器も開発しているほか、700気圧などの高圧でタンクに充填される水素を適切に減圧する「レギュレーター」なども開発しています。

制御装置
レギュレーター

 同社の経営理念の一つは「自然と調和した資源の活用と再生を考え、美しい地球の環境保全に努める」とあります。研究開発者の一人は「自動車業界は100年に一度の大変革期にあります。その中でこれまでの技術を生かせるというのは、本当に恵まれていると言っていい」と意気込みを語っていました。

 2022年には同敷地内に本社厚木工場が完成し、その一画には水素ボンベが並んでいます。そして開発現場を担う、若手社員たちの生き生きとした顔も・・。脱炭素・水素社会化の最前線は、意外と身近なところにあったのです。

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