犬も歩けば鳥に当たる

ニコ・エストゥさん(Xidː@doumae_ki様)とターボの出会いの話です。

CS:
https://twitter.com/doumae_ki/status/1776263478787092772


 日が沈み始めた街の片隅で誰かが蹲っているのを見たら、果たしてあなたはどうするだろうか。
「……あの」
 そんな状況に遭遇してしまったターボ・コリンズは、一先ず声を掛けてみることを選んだ。
「何かあったのかな」
 ぐすりと涙を拭いながら顔を上げたのは、東方めいた装いの小柄な獣人であった。
 金髪翠眼。ぴょこりと頭頂部が跳ねた金の髪。
 全体的な見た目はヒューマンに近いが、羽と繋がった腕に鋭い爪の付いた足を持つ。おそらくは鳥の特徴であろう。
「おにいさぁ~ん……」
 中性的な顔立ちではあるが、声の高さからするに少女であるとわかる。
「お兄さん、あたし……ど゛う゛し゛た゛ら゛い゛い゛ん゛す゛か゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「え、ちょ、待っ」
 そして確かめるまでもなく声がでかい。めっちゃでかい。
 通りすがりの人々が皆、反射的にターボ達の方を振り返るくらいに。
「待って、落ち着いて。何があったか話してくれる?」

 どうにかこうにか落ち着いた少女の話を纏めると、こうだ。
 彼女の名はニコ・エストゥ。
 年齢は15。マリアルバ王国においては、成人ほやほやだ。
 自分の『好き!』を集めるべく冒険者となり、勇んで生家を飛び出してきたまでは良かったが。
「路銀が尽きて途方に暮れていた、と」
「そうなんすよ! あたし……こ゛れ゛か゛ら゛ど゛う゛や゛っ゛て゛い゛き゛て゛い゛け゛ば゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「うん。だから、ちょっと落ち着こうか」
 出会った直後こそ狼狽えたものの、話を聴くうちにターボはすっかりニコへの対応に慣れていた。
 一言でいえば、心配よりも彼女への呆れが遥かに勝っていたゆえだ。
(好きを集めるのが目的にしたって、後先考えずに欲しい小物を買い漁るなんて……)
 生活費や消耗品の補充といった細かな勘定を怠らないターボからすれば、ニコの金銭感覚は非常識の極みであった。
「はぁ……」
 思わず深い溜息を漏らした青年だったが。
「仕方ないな。今日の夕飯くらいなら奢ってあげるよ」
「ぐすっ、ひっぐ……え?」
 幼さを残す少女が困っているところを見過ごす程には、彼は冷徹ではなかった。
「僕、ちょうど依頼を終わらせたところでさ」
 荷馬車の護衛の依頼人、魔法麺職人のドワーフが経営する食堂。
 報告と報酬の受け取りがてら、ターボはそこで夕食をとるつもりだったのだ。
「とりあえず、今夜は乗り切れるでしょ。どう?」
「お兄さん。あたし、あたし……」
 今泣いていた少女が、もう笑った。
「一生ついていくっす! 不束者ですがよろしくお願いするっす!」
「いや、一生とかやめて。それから、嫁入り前の子が初対面の男にそういうこと言わないの」

 * * *

「――と、いうのがあたしとターボさんの馴れ初めっす!」
「だから、そういう関係じゃないよね。僕達? というか、ニコ。何で未だについてきてるの?」
 酒場に顔を出すたび、場を賑やかす鳥獣人と犬獣人の凸凹コンビ。
 二人の出会いの話を聴いて、酒の入った冒険者の輪がどっと笑いに包まれた。
「だってターボさん、何やかんやで面倒見てくれるんすもん!」
「はぁ……。せめてもう少し、生活費も考えに入れて買い物してくれるかな」
「善処するっす!!」
 鳥の少女が幾晩を乗り越えたのか。
 犬の青年が幾度の溜息をついたのか。
 出会いと今の狭間にある数多の出来事は、二人しか知らない。

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