島日和<ひょうたん島後記> 1

約束が守れなかったとき、「君が約束させたから悪い」 などと耳を疑うようなことを言いだすのは、世界中に、ネコしかいない。
究極のエゴイスト。

いつも、自分の気持ちを押し通すことが、一番大切と思っているから、大事な友達を傷つけてしまうことも、気が付かないわけではないけれど、見て見ぬふり、押し通して知らぬふり。

ー これは、僕にとってとても大切なものだから、大切な友達のためにでも、ちょっと使わせてあげたりなんかしない。
だから、どんなに喜んでくれるか分かっていても、白い紙のドレスを作って上げたりなんかしない。
お願いを聞いてあげる時も、つい、「君のためだけじゃないよ。僕のためにもやるんだよ」なんて、わざわざ言ってしまう。 -

世の中には、「君さえいてくれたら、他の事はどうでもいいの」なんて、友達をとても大切にする人もいるというのに。
「君のためなら何でもしてあげたい。君より大切なものなんてないんだから」

でも仕方がないのだ。それがネコなのだから。
ネコはずっと、そうやってネコなのだから。
そしてたぶん、僕は、ちょっとネコに似ていた。
だから、悔やんでも悔やみきれない後悔。
でも仕方がないのだ。
それが僕たちなのだから。

それでも僕は、ネコと一緒に居る時が、誰と一緒に居る時より楽しい。
寒くて薄暗い冬眠の日々に、ネコが会いに来てくれると、ドキドキするほど嬉しい。
ネコは窓に鼻を押し付けて、変な顔をしながら、僕の部屋の中の様子をじっと見つめる。
やがてドアをそおっと開けて、静かに中に入ってくると、パタパタと体の雪を落としたりして、僕のベッドをチラチラ見ながら、部屋の中をウロウロと歩き回る。

そして何気なさそうにベッドに近づいてきて、そっと掛布団をめくって中をのぞき込む。僕がチラッと笑うと、
「なあんだ。眠っていないのか」
そう言って、ネコはベッドの傍に置いてある、ネコ用の椅子に座って、ちょっと恥ずかしそうにしている。

ネコに会うのは久しぶり。
僕にとってはネコは少し問題児だけど、でも僕は、ネコと一緒に居るのが本当に楽しい。
「はいプレゼント」
ネコが差し出した水仙の花は、球根が付いていて、ガラスの栽培容器に入っていた。
「君は、花のプレゼントが好きでしょ?これはね、これからずっと咲き続けるよ。部屋中いっぱいにいい匂いをさせてね。春になるまで」

まだまだ冬の底だけれど、もう新しい年が明けて、日の光は少しづつ、少しづつ輝きを増して、光の春が始まるんだ。
暖かくなって雪が溶けたら、二人で山の湖まで行こう。
折りたたみの二人用ベンチを持って、クッションとコーヒーセットも持って、そして二人で美しい山を見ながら暖かい話をしようね。

春になって、僕たちの夢がやっとかなったら、僕たちは、僕たちの物語を歩き始められるから。

そして遠くの色々な街へも、また一緒に出かけようね。
ギターを持って、フエを持って。ふたりの白い衣装も持って。
クルクルクルクル踊りながら、この小さな惑星をひと回り。
カラカラカラカラ歌いながら、広い海も、ヨットでひと回り。

僕たちの物語を歩き始められる時が、遅くなり過ぎないうちに。
手遅れになって、もう手をつなぐ気にさえなれなくなる前に。
ふたりで色々なことをしようね。
月と太陽に追いつかれる前に。