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2024年、そして2023年ふりかえり

1月2日に祖母が亡くなった。真夜中3時に母から連絡が来たとき、「遂にか」と思った。89歳老衰の末の大往生で、苦しむことなく眠るようにあの世に行けたのだろう。きっと。

私より祖母のほうが早く死ぬなんて当然で、自分のなかでの覚悟なんてとっくにできている。だから、通夜でも葬式でも涙を流すことはなく「ああ、人って死ぬとやわらかい入れ物や容器に近い存在になるのだな」ということをずっと考えていて、流れ作業のように1日が終わっていった。

そのはずなのに夜は全然眠れなくなって、朝方うなされながら目を覚ますと真夏日にエアコンをつけないで寝た夜みたいに汗をびっしょりかいている。別のことを考えていないと自分のなかの何かがくしゃっと潰れてしまいそうで、この文章を書いている。ずっと自然現象や世の中で必ず起きる事象だと認識していた死が、ひとりでいることによってやっと自分に降りかかる大きな喪失感に変化してきたのかもしれない。誰かが亡くなって悲しいという気持ちが、自分のなかで定義づけられた感情として今まで見つけられていなかった気もしている。

年末に、『いつかの君にもわかること』という映画を見た。若くして不治の病になり、死が目の前に迫るシングルファザーが愛するわが子の新しい家族を探す話だった。
とても静かで、死そのものに対する恐怖や子への愛情がさまざまな角度から迫ってくるような映画。今の自分には一切関係のない、すべてを理解することなんて到底できないような内容だったはずなのに、ずっとずっと涙を流しながら美しい映像を眺めていた。
そのなかで、「人は死んだら空気になって、いつもあなたのそばにいる」というセリフがあって、祖母が死んでからの支えになっている。天国や空から見守っているとかではなく、空気になる。もともと家族も友達も多い人だったから、私のそばにはそんなに来てくれないのかも。でも、そばにいる。死後の世界や天国、輪廻転生、生まれ変わり、私は何も信じていなくて、ただ何もなくなって、無になっていくのだと思っている。それでも、私はこの考え方に救われている。

私には帰れる実家がない。それは物理的・精神的、両方の意味を指す。私の育った家はすでに取り壊されてしまったし、家族ともあまり仲がよくない。仲がよくない、というよりも精神的な距離が誰よりも遠い。最低限度のコミュニケーションは取るけれど、お互いに埋まった地雷を踏まぬよう、おそるおそる会話をする。言い合いにならないよう、喧嘩にならないよう、上辺だけの会話でなんとか場を埋める。手の内は絶対に明かさない。仕事、好きな食べ物や趣味、口癖、習慣、悩み、この先やってみたいこと、最近うれしかったこと、どんなことで笑うのか、何をしているときが幸せなのか。そういう人を構築する要素みたいなものを私たちはお互いに何も知らなくて、ただ一緒に過ごした記憶があるからなんとなく集まっただけの塊になっている。どうしてこうなっちゃったんだろうね、どのタイミングで修復すれば普通の家族みたいになれたんだろう。どれだけ考えても答えが出なくて、かなしい。

祖母が亡くなった連絡を母から受けてから、約2日間くらい家族と過ごした。このなかにいる私は、きっとどんどん駄目になる。安らげるひと時が一瞬もなくて、空気がなんとなく張っているのがわかる。話したいことも知りたいこともない。それでもなんとか場を盛り上げようとする母の明るさが空回りしているみたいで、気持ちが落ちる。なんで私はここにいるのだろうと思うと眩暈がする。

そういう家族しか知らないから、年末年始はいつもものすごくさみしい。自分が正しい家族のなかで育てなかったこと、私が両親の理想とする子どもになれなかったこと、わからないけどきっと人として大切な何かが欠けていること、まざまざと思い知らされる。

でも、生きている限り会おうと思えば会える。元旦に起きた地震でもう二度と家族に会えなくなってしまった人もきっといて、だから私がこうして家族との関わりをあえて避けているのも、分かり合えなさによって傷つけられるのが怖いのも、両親をどうしても許せないのも、贅沢なことで私の幼さやわがままなんだろうか。いつか、もう少しだけ家族のことが好きになれる日が来るのだろうか。ずっと考えている。

明けましたので、振り返る

そういう感じで私の年末年始休みは慌ただしく終わっていったのですが、今更ながら2023年を振り返ります。

自分で本を出す

結婚しない女性って、どんな理由で「結婚はしない」と決めたのだろう。という疑問が数年前からうっすらあり、参考になるサイトも本もなかったので自分で作って文学フリマで売りました。
専門家ではない私が試行錯誤をしながらインタビューから原稿作成、表紙のデザインなどすべて行わなければならないのはかなり大変でしたが、ちゃんと納得のできるものができたかな。思った以上に買いに来てくださり、感想もいただけたので、自分の疑問を解消しつつもとても有意義なものを作れた気がする。本を作るって本当に本当に大変。

直接買いに来てくれて「いつも読んでいます」「楽しみにしていました」と声をかけてくれたり、事前にとったアンケートのなかで応援コメントをいただいたり、私は自分の文章を読んでくれる人のことを誰も何も知らないのに、これって実はとても変なことなんじゃないか?と思いつつ、生の声に大いに救われもしていました。ねえ、やっぱり変じゃない?でも、誰かが私の文章を読んでくれる、気にかけてくれる。母数ではなくて、それだけでほんの少しだけ前向きな気持ちになれることが稀にある。

上半期はとにかく本を作っていた記憶しかない。今年も春くらいに2冊出せたらいいなと思っているので、よろしくお願いします。

ズボラな性格ややる気のなさが原因なのか(絶対そう!)、実は創作活動において自分から何か行動を起こしたのは初めてのことでしたが、自分の思った以上の出来事が起こってくれたようにも思います。文學界で紹介されたりね。数字や金を作るという意味だけではなくて、今後の自分はどうなっていきたいのか?意義はあるのか?というのをしっかり考えながら文章を書いていかなければとも考えていました。そろそろ何かしないと、忘れられてしまうかもと強く思ったのもある。
少なくとも今までの私は、自分の生きやすい世界にするために自分の作ったルールを手の届く範囲に拡張していくような、理解してもらえる人を文章を通じて増やしていく感覚をとても強く持っていたのだけれど。平たく言えば、もっといい文章が書けるようになりたい。さらに言えば、もう少し発言権を持てるようになるべきなのかもしれない。

海外旅行の復活

年末年始のタイ、9月のバリ島、12月のインドとやっと自由に海外旅行に行けるようになった。

タイに関しては、本当はムスリムの多く住む南東部・ナラティワートに生きたかったはずが直前に起きた大洪水により急遽行き先変更。バリ島に関しては、本来は捕鯨を生業とする部族の住むラマレラ島に行くはずがコロナ禍によってキャンセルされ、余ったバウチャーチケットを消費するため多少惰性の気持ちを持ちつつ滞在。インドは、2023年中にリフレッシュ休暇(5日間)を使い切らねばならず、ギリギリで航空券を確保したら部族同士が抗争をしている地域でそこそこ危ない……という感じでしたが、ここ近年は英語で自然なコミュニケーションが取れるようになり、ひとり旅だから大して予定も決めずにふらふらし、葬式をぼーっと見学したり川や海を眺めたり、肩の力を抜いて自分の知りたい文化や宗教観、生活環境への理解が深めつつある気がする。そういえば、どこにいても日本人に1人も会わなかったな……なんで?

「今年はどこへ行く予定なんですか?」とすでに聞かれまっているのですが、アジア圏ばかりだったので中東アフリカにそろそろ行きたいですね。あまり現地の現代アートに触れられなかったから、香港やUAE、北京・上海の美術館も選択肢としてはあります。

果たして、そんな時間と金が私にはあるのでしょうか。

病気や手術をそこそこし、通院という手段を増やす

去年は、あまりにも重い生理痛解消のための低用量ピル服薬開始、陽性の子宮筋腫発見、蕁麻疹×2、新型コロナウイルスの罹患、ICL手術と、通院が増え、金に物を言わせて身体の不調を直しまくった1年でもありました。
何か病気になっても、ギリギリまで我慢するという選択を今までは取り続けてきたのですが、医療はすごい。こんなに早急に悩みの種をつまみ取ってくれるのか……というのを、この年齢でようやく学習できたのかもしれない。

生理痛も重すぎて何度か貧血になったり、2日目は使い物にならずに仕事を早退したこともありました。ホルモンバランスが崩れやすいのか今も不正出血が続くのですが、悩みもすべて解消され、なぜもっと早くに始めなかったのか……まあ婦人科に行くのが本当に嫌だったし、予約が全然取れないというのが最大の理由でもあるんだけど。
女友達と飲んでいるときに低用量ピルを飲んでいる話をすると、かなり掘り下げて色んなことを聞かれるので結構みんな気になるトピックなのかもしれない。月3,000円/年36,000円と考えるとでかい出費ではあるが、これであの不快感から解放されるなら安いものである。

ICL手術にしても、なぜもっと早く受けなかったのか……。元の私は、強度近視に乱視が入った0.02と測定できる数値の下から2番目。自分よりも目の悪い人に出会ったことがなく、主治医に聞くと「1000人にひとりくらい」という割合らしい。この話が出たとき、私は橋本環奈さんのことをうっすらと思い出していた。
もちろん普段はメガネやコンタクトで生活をしていたのですが、それでもそんなに見えない。近視と乱視のバランスを考えるとこれ以上視力を上げるのは難しいと教えてもらっていて、映画館では前から4~5番目に座っていても字幕がぼやけてしまう。個人的にはこれが一番のストレスでした。もうICLしかないんだろうな……と思って、やっと決意を固める。目にメスを入れ、角膜辺りにビニール状?のレンズを入れ、さらに5針ほど縫合するという手術内容だったのだけれど、本当に見えないから何をされているかすらわからず、とても面白かった。右目が終わった瞬間、「これと同じ工程をもう一度やるのか~……。」とは少し思ったけれど。
今は3週間ほど経過していて、とてもよく見えているしレンズの影響なのかコントラストも少し上がり、本当に世界が変わって見える。aikoの『アンドロメダ』の歌詞がわからなくなってしまうかもと思ったけれど、でもこんなに視力がいいのって私の人生にはなかったことで、本当に本当にうれしい。

去年の5~6月は今までの会社員生活で最も忙しい時期で腕の関節あたりに蕁麻疹が出まくったり、新型コロナウイルスに初めて罹患してから脂っこいものと肉をまったく受け付けなくなって5キロくらい痩せたりした。痩せたからか、そのあと11月ごろまで参加したたくさん飲み会は見事なまでにほぼ記憶をなくしている。
今も謎に体重が戻らず、今までのダイエットへの苦労はなんだったんだ……今年は適度に運動をしつつ、飲酒喫煙もできるだけ控えめにしながら健康に暮らしていきたい。

私はあなたに生きていてほしいってずっと思っているよ

去年は借金を作って失踪してまったく連絡が取れなくなっていた友人から連絡がきて激高しながら一緒に酒を飲んだり、「だせえ音楽やってんな」と思い続けていた知り合いが死んだり、仲のいい友だちがうつ病で全然ダメになったりしていた。そこに私も引きずられてしまって、ひどく落ち込んでいたりもした。でも、誰かをどれだけ理解しようと努力しても、きっと人の本心なんてわからない。それは自分自身にも言えることで、他者にとっての私ってある意味でまったく理解の及ばない範疇にいるのだろうなと何度か思っていたのだった。あいかわらず、人との適切な距離感が分からなくてコミュニケーションで失敗を繰り返している。知らず知らずのうちに傷つけてしまったんだろうなと思うことも多々あった、ごめんね。

人間関係に関してはそう大きく変わりはしないけれど、コロナが落ち着いたこともあって今まで以上に色んな人とサシ飲みする機会がかなり多かった。「なんでサシなんだ」「特に話したいことがない」「帰りたい」と毎度のように思うけれど、今までしてこなかったような人の本質に迫る会話ができ、「ああ、この人は私が相手だから話してくれるんだろう」という話も聞け、信頼できる人/してもいい人が増えた1年だった気がする。友だち、付き合いのある人に対しては結構ちゃんと好きだし幸せでいて欲しいし、たまにでいいから私のことを思い出してほしいと思う。

なんていうか、みんな健康に気をつけながらなんとか生きていてほしいよね。ほんとに。

2023年、よかったものたち

私が2023年に見て、よかったもの・感銘を受けたものを並べておきます。すべて手打ちなので、スペルとか間違っていたらすみません。
相変わらず、私は他者の想像物に対して自分の美しさのや正しさの在り方、生きる意味、正しさを証明するものを確かめ、依存しながら助けられている気がする。
今年は本の執筆に時間を割いていたので、例年と比較するとあまりたくさん見られなかったな。毎年、今以上にどうすれば趣味に時間を避けるのだろう?というのが人生の大きな課題。

【本】母と言う呪縛 娘という牢獄/齋藤彩
【映画】ケイ子 目を澄ませて/三宅唱
【ライブ】Rina Sawayama/東京ガーデンシアター
【漫画】違国日記/ヤマシタトモコ
【音楽】Gasoline/KEY
【本】黄色い家/川上未映子
【音楽】Be Still My Heart/Babygirl
【音楽】Nymph_o/Shygirl
【映画】別れる決心/パク・チャヌク
【映画】エゴイスト/松永大司
【映画】アフリカン・カンフー・ナチス/セバスチャン・スタイン、ニンジャマン
【本】バンド論/奥野武範
【映画】サマーフィルムにのって/松本荘史
【映画】ソウルメイト/七月と安生/デレク・ツァン
【音楽】the record/boygenius
【映画】赦し/アンシュル・チョウハン
【映画】ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー/阪本祐吾
【企画展】ダムタイプ|2022:remap/アーティゾン美術館
【本】セックスする権利/アミア・スリニヴァサン
【映画】私の叔父さん/フラレ・ピーダセン
【音楽】Camera Obscura/People In The Box
【映画】少年の君/デレク・ツァン
【音楽】e o/cero
【企画展】ラテンアメリカの民衆芸術/国立民族博物館
【映画】アフター・サン/シャーロット・ウェルズ
【音楽】愛がそれだけ feat. 原田郁子/the chef cooks me
【映画】あなたの名前を呼べたなら/ロヘナ・ゲラ
【音楽】MOTHER [Feat ILL-BOSSTINO, 5lack]/toe
【映画】To Leslie/マイケル・モリス
【漫画】ひらやすみ/真造圭伍
【音楽】character development/zeph
【音楽】I’ve Loved You For So Long/The Aces
【映画】小説家の映画/ホン・サンス
【ライブ】Syrup16g/横浜1000 CLUB
【音楽】Bunny/Beach Fossils
【映画】Pearl/タイ・ウェスト
【本】妾と愛人のフェミニズム/石島亜由美
【本】いい子のあくび/高瀬隼子
【映画】SWAN SONG/トッド・スティーブンス
【漫画】氷の城壁/阿賀沢紅茶
【ライブ】Yves Tumor/ FUJI ROCK FESTIVAL
【ライブ】OVERMONO/ FUJI ROCK FESTIVAL
【ライブ】Caroline Polachek/ FUJI ROCK FESTIVAL
【ライブ】Homecomings/ FUJI ROCK FESTIVAL
【ライブ】LIZZO/FUJI ROCK FESTIVAL
【映画】さらば、わが愛/覇王別姫/チェン・カイコー
【音楽】Don’t Look Down/Jai Wolf
【音楽】idc/COLLAR
【企画展】野又穣 Continuum 想像の語彙/東京オペラシティアートギャラリー
【映画】Barbie/グレタ・ガーウィグ
【ライブ】Cornelius/SUMMER SONIC
【ライブ】春ねむり/SUMMER SONIC
【ライブ】cimafank//SUMMER SONIC
【ライブ】Kendrick Lamar /SUMMER SONIC
【企画】あなたのアートを誰に見せますか?/東京藝術大学
【映画】シークレット・サンシャイン/イ・チャンドン
【映画】赤と白とロイヤルブルー/マシュー・ロペス
【音楽】能動/三浦大知
【音楽】GUTS/Olivia Rodrigo
【音楽】Paint My Bedroom Black/Holly Humberstone
【音楽】Almost there/GRAPEVINE
【音楽】NEW DNA/XG
【映画】HUNT/イ・ジョンジェ
【音楽】Slippin Away/L Devie
【企画展】ナウイズベター ステファン・サグマイスター/銀座グラフィックギャラリー
【漫画】インターネット・ラヴ!/売田機子
【漫画】いやはや熱海くん/田沼朝
【音楽】Fanfare/Dorian Electra
【音楽】Something To Give Each Other/トロイ・シヴァン
【映画】毒親/キム・スイン
【音楽】Heaven knows/PinkPantheress
【音楽】Lahai/Sampha
【映画】TAR/トッド・フィールド
【ライブ】GRAPEVINE/LINE CUBE SHIBUYA
【漫画】花四段といっしょ/増村十七
【企画展】In Between/埼玉県立近代美術館
【音楽】POWER ANDRE 99/Silica Gel
【映画】FIRST COW/ケリー・ライカート
【企画展】ニューホライズン 歴史から未来へ/アーツ前橋
【本】n番部屋を燃やし尽くせ/追跡団火花
【映画】Saltburn/エメラルド・フェネル
【漫画】うみべのストーブ/大白小蟹
【映画】いつかの君にもわかること/ウベルト・パゾリーニ

2024年

今年は、もっとたくさん文章を書きたいな~。文章を書くのは、自分と向き合い続けなければならなくて、私にとっては心をガリガリ少しずつ削っていくような作業で、とてもしんどいし面倒臭いしできればやりたくないのですが、それでも自分の一部になっていて切り離せない行為のひとつなんだということを改めて思い知った1年だった。

なんかずっと書いていたらかなり長くなってしまったな、すみません。
2024年もがんばるぞ~


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