拝啓、中年よ

 ─夢はもう見ないのかい?明日が怖いのかい?

 ガールズバンドhump backの「拝啓、少年よ」はこう始まる。安易に解釈すれば、情熱を忘れ、凡庸な日常に甘んじているオトナにそれでいいのかと問いかけ、自分はそうはならないぞという誓いの歌なのかもしれない。

 確かに明日が怖い。特に金曜日が怖い。これが10年前なら、「もう金曜日か!すぐ死ぬながはは!」で済んでいたのだが、2度目の本厄も過ぎると「もう金曜日か…寿命が…減っていく…」と結構本気で凹む。梅雨時期のまとわりつく不快な湿度のように、死がうすぼんやりと思考と身体中にいつも貼り付いている。こんなもの怖くない方がおかしい。

 ─諦めはついたかい?馬鹿みたいに空が綺麗だぜ

 外に人が歩いていたら寧ろ驚くくらいの限界集落に住んでいる僕は、昼間に庭先でパンツを下ろしたりする。出てる。なんなら臨戦体勢だ。そんな時思うのだ。馬鹿みたいに空が綺麗だぜ。まだそんな感性を忘れていない。諦めたわけじゃないんだ。

 君達が、月給取りに代表されるような大人達をつまらない生き物だと思うことを否定するつもりは全くないんだ。ただ、そう見えるのは、僕らが僕らの情熱を、君達を健康に生きながらえさせるために使っていたからなんだと思う。願わくはこの情熱を、君達は、君達が大人になったときの少年に向けて欲しい。

 高らかに今を歌う君達が、高らかに今を歌えることこそが、僕らおっさんの誇りなんだよ。だから僕からも言わせて欲しい。

 ─拝啓、少年よ。馬鹿みたいに空が綺麗だぜ

 梅雨明けの快晴の下、庭先でフルチンのおっさんより

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