ふつうが一番難しい


去年の冬の初めごろ、急に朝がしんどくなった。目は覚めているのだけれど布団から出られず、出勤前は酷い気分で朝食もとれない。顔を洗いながら死ぬことばかり考え、とにかく自分の無価値を嘆いていた。

出勤にタクシーを使い出したのはこの頃だ。
なぜかひどく疲れていて、始業に間に合うよう家を出ることができなかった。出勤ギリギリの時間の混んでいる電車に乗ると、息が苦しくなってきたりもする。

このままだと突然仕事に行けなくなるのも時間の問題だと思い、心療内科へ行くことにした。

心療内科の勝手がいまひとつわからなかったが、とりあえず電話で予約をしてみた。なかなか繋がらない電話、そして予想以上に時間に空きがなく、東京の闇を垣間見た気がした。

心療内科はだいたいビルの上の階にある気がする。みな入っていくところを見られたくないのだろう。

当日の診察では、とりあえず医師に聞かれるがままに自分の無価値を一通り説明したあと、困っていること(朝起きられない、日中も普通に過ごせない、乗り物が怖い)をいくつか伝えた。
抑うつ状態だと言われ、それに加えて発達特性を見るとのことで、WAISを受診するように言われた。

WAISは二時間近くかかる知能検査だ。
複数種類のテストを行い、その結果を以て様々な能力のバランスを見られる。
臨床心理士の先生が、問題を任意でいくつか出してくるので、その場で答えるというのが概ねである。

たとえば色のついた図を見せられるのでパズルを使ってその図と同じ形を作ったり、はたまた熟語を見せられてその意味を説明したり、今度は絵を見せられてその絵でおかしいと思うところを見つけたりする。
図形の羅列したシートを渡されて、見本と同じ色と形の図形を、左からひたすら斜線をつけていくという作業効率をみるテストもある。

結果は2週間ほどで出てきた。
私は言語能力だけが異常に高く(130くらい)、それ以外は至って凡人レベルという結果となった。
「適職は翻訳家とかですかねえ」と医師が至極スッとぼけたことを言うので辟易したが、とりあえず今の仕事で食えなくなった時のために、言語能力を使ってなにかしようと思い、このブログもそれがきっかけで実は再開したという経緯がある。
…と、ここまで書いておいて、言語IQ130が書いたとは思えない文章だなと思われていたらどうしよう。

たしかに言語能力で誤って偏差値の高い大学に入ってしまった結果、私はなんだか周りよりいつも劣っていた。
私はバタ足でなかなか進まない中、みんなはクロールや平泳ぎで悠々と泳いでいく。その姿はさながら魚のようで美しくよどみない。
私はといえば、何をやるにも泥臭くて、いちいち滞りばかりですごく汚い。人並みにできるのは、本当に言語周りのことだけだった。話すのが苦手なので、書くことにのめり込んでいた。

私はだからこそ、人並みにできる文章を使って、今日もこうやって記事を書いているのだなと思う。

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