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【コント】弁慶と牛若丸

その昔、弁慶は街ゆく人々を次々と襲い、刀を奪い続けていた。
彼が盗んだ刀の数は現在999本。
そして、五条大橋の上で1000本目の獲物を待っていた・・・。

弁慶
「(橋の上で瞑想している)・・・。」

牛若丸
「(走ってやってくる)ヤバイヤバイ、もう着いてるかな・・・。」

弁慶
「止まれ!」

牛若丸
「?!」

弁慶
「この橋を渡りたければ、俺と戦ってもらおう・・・。
 お前が勝ったらここを通ることを許そう。
 しかし、お前が負けたら、持っているその剣をいただく!」

牛若丸
「ごめんなさい、急いでるんで・・・。(通り抜けようとする)」

弁慶
「待って!待って!通らないで!
 聞いてた?話聞いてた?
 ゴホン。・・・この橋を渡りたければ、俺と戦ってもらおう。」

牛若丸
「すみません。急いでるんで・・・。(通り抜けようとする)」

弁慶
「だから、待って!
 通っちゃダメって言ってるでしょ?!」

牛若丸
「この橋の向こうで彼女と待ち合わせなんですよ。」

弁慶
「すぐ終わるから!」

牛若丸
「すぐってどのくらい?」

弁慶
「早ければ10分くらい。」

牛若丸
「無理ですよ。
 10時に待ち合わせなのに、もう9時55分なんで。」

弁慶
「できるだけ巻くから。」

牛若丸
「『後で』でいいですか?」

弁慶
「そんなこと言って逃げる気だろ!」

牛若丸
「逃げない逃げない。」

弁慶
「いや、絶対逃げるよ!
 言葉が軽いもん。」

牛若丸
「ホント、冗談抜きで通してもらっていいですか?
 今日は絶対遅れたくないんです。」

弁慶
「こっちだって、大事な1000本目の刀だから、大事にいきたいの!」

牛若丸
「はい、これ。(刀を渡す)」

弁慶
「え、何これ。」

牛若丸
「それあげるから、通してください。(橋を渡ろうとする)」

弁慶
「待って待って待って!」

牛若丸
「何ですか!刀欲しいんでしょ!?
 それあげますから!」

弁慶
「いやいやいやいや。投げやりになるなよ!
 大事な刀なんだから。
 簡単に人に渡しちゃダメ。」

牛若丸
「えー、ちょっとマジでめんどくさいんだけど。」

弁慶
「めんどくさいとか言うな!
 すぐ終わるから。」

牛若丸
「いや、だから刀あげますから。
 早く通して!」

弁慶
「いや、戦って!」

牛若丸
「はぁ?!」

弁慶
「戦って、勝って、1000本目になって、
 弁慶さんよかったねーよかったねーってなって、
 そのあと『マツコの知らない世界』に出るの!」

牛若丸
「いや、勝手に出ればいいでしょ。
 1000本目の刀あげるから!」

弁慶
「いや、絶対マツコは1000本目のエピソードとか聞いてくるから!
 もらったとか言えないし!
 マツコに『アンタ何なのよ!』って言われるし!」

牛若丸
「うん。
 すでに僕が『アンタ何なの!』とは思ってますけど。」

バイブ音
「ウィーン!ウィーン!」

牛若丸
「あ、電話。
 (スマホの画面を見て)ほら、きっとこれ遅いって電話だ・・・。
 (電話に出る)もしもし、沙希?
 ・・・いや、もう近くまで来てる。
 もう橋のところまで来てるんだ。
 ただ、今変な人に捕まって・・・(弁慶を見る)」

弁慶
「変な人っていうな!」

牛若丸
「すぐ着くすぐ着く!
 だから待ってて!はいー。」

弁慶
「彼女か?」

牛若丸
「遅いって催促・・・。」

弁慶
「なんだよ、リア充!
 爆発しろ!」

牛若丸
「怒りだったら既に爆発してるけどね!」

弁慶
「さぁ!ここを通りたければ俺と勝負しろ!」

牛若丸
「もう・・・わかりましたよ。
 手短にお願いします!」

弁慶
「やった!
 よし、行くぞ!」

牛若丸
「はい、どうぞ。」

弁慶
「そりゃー!(牛若丸に襲いかかる)」

牛若丸
「(棒読みで)わー。やられたー。
 よし、あなたの勝ちです。
 はい、通ります。(橋を渡ろうとする)」

弁慶
「だから待って!
 やる気のなさ!
 ちゃんと本気で来いよ!」

牛若丸
「勝ったからいいじゃないですか!
 ほら、もう時間がないから!」

弁慶
「今のじゃダメ!
 なんかイヤイヤだもの。」

牛若丸
「イヤイヤだし。」

弁慶
「ほら、ちゃんと来て!」

牛若丸
「もうここ通るのあきらめるか・・・。
 まわり道しようかな・・・。」

弁慶
「まわり道しないで!
 ここ通って!」

牛若丸
「川を泳ぐか・・・。」

弁慶
「泳がないで!
 ここ通って!」

牛若丸
「もしくは、待ち合わせ場所変えるか・・・。」

弁慶
「変えないで!
 ここ通って!」

通行人
(二人のやりとりを横目にガンガン橋を渡っている)

バイブ音
「ウィーン。ウィーン。」

牛若丸
「(スマホを見て)わ、また催促だ。
 絶対怒ってるよ、これ。」

弁慶
「爆発しろ!」

牛若丸
「(電話に出る)もしもし。
 ホントごめん。すぐ着く。もうすぐ着く。
 今、弁慶の目の前で立ち往生してるの。
 いや、ホントに!ホントホント!
 ちょっと待って!ウソじゃないって!
 あ・・・。
 (スマホの画面を見て)切れた・・・。」

弁慶
「よし!これで心置きなく戦える!
 さぁ、いくぞ!」

牛若丸
「・・・。」

弁慶
「さぁ、来い!
 思う存分戦おう!」

牛若丸
「・・・。」

弁慶
「さぁ!さぁ、早く!」

牛若丸
「・・・ごめん、今そういうテンションじゃないから。」

弁慶
「何だよ!
 せっかく時間ができたんだからいいじゃないか!」

牛若丸
「帰る・・・。」

弁慶
「待って!帰らないで!渡ろうとして!
 あれだけ渡りたがってたんだから!」

牛若丸
「いや、今の電話のやりとり見てたでしょ!
 彼女、怒って帰っちゃったんだから!もう帰ります!」

弁慶
「帰らないで。一回ここ渡ろうとして!
 一回渡ろうとしたら帰っていいから!」

牛若丸
「いや、もうそっちに用はないんで。」

弁慶
「その剣が欲しいの!」

牛若丸
「いや、だからあげますよ。」

弁慶
「そういうのじゃない!」

牛若丸
「amazonでも売ってますし。」

弁慶
「戦って奪いたいの!」

牛若丸
「もうめんどくさい!
 何だよ、この不審者!」

弁慶
「不審者っていうな!」

牛若丸
「もうわかりましたよ!
 何すればいいんですか?じゃんけん?」

弁慶
「決闘!」

牛若丸
「だから、そんなテンションじゃないんだって・・・」

弁慶
「わかったわかった。
 もういいよ、じゃんけんで。」

牛若丸
「ハァ・・・。めんどくさいなぁ・・・。」

弁慶
「(じゃんけんの準備中)さぁ、何でくるかなぁ・・・。」

牛若丸
「(弁慶を冷めた目で見ながら)僕何してるんだろう、こんなところで・・・。
 いいですか、いきますよ?」

弁慶
「よし、来い!」

弁慶牛若丸
「せーの!じゃんけんポン!」


(牛若丸がグー。弁慶がチョキ。)


牛若丸
「よし、勝った。帰りますよ。」

弁慶
「待って!3回勝負!」

牛若丸
「はぁ?
 勝手にルール変えてるし・・・。」

弁慶
「(じゃんけんの準備中)さぁ、次はなにかなぁ・・・。」

牛若丸
「・・・いいですか?」

弁慶牛若丸
「せーの!じゃんけんポン!」


(牛若丸がパー。弁慶がグー。)


牛若丸
「はい、僕の勝ち。」

弁慶
「違う違う!
 3回勝負っていうのは3回勝った方が勝ちって意味!」

牛若丸
「もう好きにしろよ。」

弁慶
「(じゃんけんの準備中)さぁ、次は負けないぞぉ・・・。」

牛若丸
「もういいですか?いきますよ。」

弁慶牛若丸
「せーの!じゃんけんポン!」


(牛若丸がパー。弁慶がグー。)


弁慶
「(牛若丸を指差して)あっち向いて・・・」

牛若丸
「なになになになに!?」

弁慶
「ホイ!」


(弁慶、上を指差す。牛若丸、下を向く。)


弁慶
「くそぉ!!(うなだれる)」

牛若丸
「卑怯な手を使って負けてる・・・。
 一番カッコ悪いヤツ・・・。
 あっち向いてホイに至っては、直前のじゃんけん僕が勝ってますからね。」

弁慶
「負けた・・・。
 完膚なきまでに・・・。」

牛若丸
「もう帰っていいですか?
 全く酷い目に遭った・・・。(振り返って帰ろうとする)」

弁慶
(牛若丸の前に回り込む)

牛若丸
「なんですか?
 まだ何か?」

弁慶
「(土下座して)家来にしてください!」

牛若丸
「はぁ?何ですか?
 突然どうしたんですか?」

弁慶
「その強さ、あなたは只者じゃない!
 ぜひ、私を家来にしてください!」

牛若丸
「いや、その強さも何も僕じゃんけんに3回勝っただけですから。
 あと、よく意味がわからないあっち向いてホイ・・・。」

弁慶
「家来にしてください!」

牛若丸
「イヤです。
 こんなめんどくさい家来、持ちたくないです。」

弁慶
「してよ!家来!」

牛若丸
「イヤだ。」

弁慶
「ここ通っていいから!」

牛若丸
「もうそっちに用ないんだよ!」

弁慶
「999本の剣あげるから!」

牛若丸
「いらないよ。
 役所への届け出とか面倒だし。」

弁慶
「じゃあどうしてほしいんですか!」

牛若丸
「僕の前から消えてほしい。」

弁慶
「連絡先だけでも交換してください!」

牛若丸
「絶対ヤだよ!
 二度と関わり合いたくないのに・・・。」

弁慶
「LINEID。」

牛若丸
「LINEやってない。」

弁慶
「ツイッターアカウント。」

牛若丸
「ツイッターやってない。」

弁慶
「電話番号。」

牛若丸
「電話持ってない。」

弁慶
「さっき彼女と電話してたじゃないですか!」

牛若丸
「絶対交換しません!」

弁慶
「私のどこが気に入らないんですか!」

牛若丸
「何から何まで。」

弁慶
「うわぁーーーーーーん!」

牛若丸
「うわぁ・・・。
 めんどクセー・・・。
 何これ・・・。」

弁慶
「弁慶の泣きどころぉーーー!!」


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