第九話 天のり天野さん
今回は、さかがみ文具店をいつも盛り上げてくれる、天野さんについて情報共有しましょう。
ベテラン天野さん
天野さんは私がさかがみ文具店の営業担当になる前からのパートさんです。ベテランのパートさんと言って間違いありません!もう10年以上は働いているらしいです(本人曰く、いつからだったか記憶の彼方とのこと)。
まず、文具が好きで、またとても詳しく、問屋で営業している私よりもずっといろんなことを知ってます(笑)。こんなことではだめなんですけど、天野さんは優しく情報提供してくれます。
そして、お店ではどの商品がどこに置いてあるか、バッチリ頭に入ってるんです。すごい記憶力だなあといつも感心します。
それが、たとえ、店長が勝手に物を動かしても、ちゃんとそれをフォローアップしていて、移動先もちゃんと知ってるんです。どこかにカメラでもつけているのかと思うほどです。どうやってやっているのか、誰もわからないわけです。実はこの店の本当のドンは天野さんではないかと私は思うわけです。
天野さんは天のりさん
天野さんは店では「天のりさん」と呼ばれています。元々の名字は小林さんだったそうです。小林梨花さん。きれいなお名前です。今は、結婚されて、天野梨花さんになったそうです。義理のご両親と、お子さんが三人で、7人家族という大所帯です(笑)。このご家族の話も面白いのですが、それはまたの機会に。
結婚した旧姓小林さんは、天野梨花さんになったわけですが、それから、天のりさんと呼ばれているそうです。名字をてんのと読むと、てんのりか。
まあ、名前だけでなく、実際、天のりさんは、節約家のお母さんの影響で、とても天のりが上手なのです。それが名前の由来ですね。
天のりさんいわく、天のりにはコツがあるそうです。木工用ボンドとデンプン系ののりを混ぜるのが実はいいのだとか。そのバランスは天のりさんの企業秘密らしいですが、結構、適当に混ぜているような(笑)
https://www.bond.co.jp/bond/detail/002102003077/
昭和の節約家は、新聞に折り込まれていた裏が白いチラシを均等に切って天のりして、メモとして使っていましたよね。ペーパレスが叫ばれた時代にも--今でもそうだけど--、裏紙を同じようにして使った覚えが少し年配の人だとあるはず。その時に研究したそうです、配分をね。
天のりさんの時代は結婚して、子どもが生まれると会社を寿退社とか言ってやめていた時代。まさに、天のりさんもそういうやめ方をして、子どもが少し育ったところで、さかがみ文具店にパートで入ったそうです。
子どもたちはもうすっかり成人していますが、時々、店に来て何か買っていくんだそうです。三人とも、文具好きに育ったそうです。英才教育!そして、買うときはパートさん割引で(笑)!
クレーマー登場
ある日、天のりさんがパートで店でレジに出ているとき、ある事件がおきました。天のりさんが自分で作ってレジで使っている自作のメモ帳があるのですが、これを欲しいという人がいたらしいのです。初見の40代後半の女性のお客さんだったそうです。
天のりさんは、別に渋るものでもないので、会計時に差しあげたそうです。3本150円の安いボールペンを買ったんだとか。
それから、数日経って、天のりさんでないパートさんが担当の日に同じ客が来たようです。「この間くれた天のりのメモ帳、もっとちょうだい!」と言ったそうです。図々しい。
困っていたところに店長が来て、あれは天のりさんが作った自作のメモ帳だから、店のサービスとして提供しているわけではないと説明したんだとのこと。当然ですよね。
ところが、その客はぶち切れて、店内でわーわー騒ぎはじめたそうで、「このケチ!」だの、「こんな店潰れてしまえ」だの、「おまえのかーちゃんでべそ」だの喚き散らしたらしいです。
一通り喚き散らしたあとは、「もう二度と来ないわ!」という捨て台詞とともに去って行ったそうです。これ、絶対、また来るやつじゃん。
いわゆるクレーマー
まいったなあと思った店長が商店街にある他のお店の人たちにこの話をしたところ、「ああ、あいつね」というほど有名なクレーマーだそうです。最近、この辺に越してきたようで、夫婦でいろいろなお店に行っては難癖をつけて回っているらしいです。
実は、先日もさかがみ文具店の向かいのそば屋さんで、「そばのつけ汁を飲んでしまったから無償でつけ汁を追加で出せ」と騒いだんだとのこと。困った人です。
このおそば屋さん、だしにはこだわっていて、それ目当てに来るお客様もいらっしゃるほどなんだとか。それをただでおかわりさせろとは。実際、常連さんからの助言で、メニューには追加のつけ汁は有償200円と明確に書いているのだそうです。にも関わらず、騒ぐとは。
「ケチ!」だの、「こんな店潰れてしまえ」だの、「おまえのかーちゃんでべそ」だのと言ったらしいです(そこまで一緒か!)。
しかし、このそば屋の大将はグラサンをかけると、いわゆるその筋の人に見えなくもないんです。厨房から出ていって、ちょっと軽く凄んで「代金は要らないから、二度と来ないでくれ」と低い声で言ったら、すごすごと出ていったらしいです。クレーマーって相手を見るんですよねえ。ダサっ!
しかし、さかがみ文具店の店長にはそんなことはできないので、また来たらどうしようとびびりまくっていました。と思ったらまた来たんです!
その日は私もたまたま、営業に来ていて、天のりさんがいる日だったのです。さあ、さらに大変なことになりそうな気配がしていました。店長が小さい声で、「あらかじめ、出禁にしておけばよかった」とか言ってましたが、聞こえたら大変です。「店長、しーっ!言ってもまたきますよ、きっと」。
さあ、参りました。今日は150円のシャーペンの芯を持って、案の定、レジに来ましたよ。天のりさんの顔を見るなり、「あなた、この間のメモの人ね!なら、今日はサービス品のメモをもらえるわね?」という始末。なんてせこいんだ!これは、さすがの天のりさんも怒るんじゃないか、と思ったら、
「あの、ちょっと失敗してますけど、これしか無いんです。これで良ければ」とにこやかに対応!神か!それも、結構厚めだな、メモ。
「何でも良いからもらっていく」といってメモを受け取り、ニコニコして帰っていきましたよ、あのクレーマー。
天のりさんに、「あんなクレーマーに対応しなくてもいいのに!」と私が言ったら、天のりさん、「いいのよ、失敗作だから」って。
実はあの「天のり」メモは、糊の実験をしたものなんだそうです。天だけでなく、左右の2箇所、つまり、4面のうち、3面が糊付けされているんだとか。たぶん、一番上に書いても、めくるのに一苦労するでしょうね、間違いなく(笑)。
天のりさん、ナイスプレイ!だけど、またぶち切れて店に来そうな気もしましたが、その後は来ていないそうです。
しかし、店長、そのPOPではあのクレーマー、防げませんよ
「天のりメモはサービスじゃないです」
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