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第三十話(最終話) hoririumの技能と異世界

連載の最後は、私、hoririumがお届けしよう。さて、ここまでの二十九話は楽しんでいただけただろうか。サガワンやこひなたんの旅は終わったが、少し種明かしをしておこう。

実は

私は錬金術師を名乗っているのだが、実は元々は超自然的存在なのだ。人間界の一部からは神とか、仙人とか、天狗とも呼ばれていたが、そんなことはコーヒーに砂糖を入れるか否かと同じように、どうでも良い。
私が人間界からこの手帳大陸に来たのは、境遇としてはサガワンと近いのだ。いや、遠いのかもしれない。そして、私の場合は人間界の記憶がしっかりと残っている。なぜなら、私がこの異世界の創造者だからだ。
実は私の意識は既に、人間界で言うと数億年にわたって存在している。時には昆虫のような形をしていたり、魚になったり、鳥になったりしながら意識を紡いできた。そんな中で人間になったが、これまでのさまざまな生物などへの意識の推移の中で、いろいろな力を手に入れてきた。そして、この手帳大陸を創造した。この力や手帳大陸の構造については、このあとを読んでもらえるとわかると思う。

手帳大陸の存在意義

それでは、なぜ、私がこの異世界を創造したか。これは説明が難しい。東野圭吾の小説の結末を予想するよりはずっと簡単だが、説明そのものは、江頭2:50よりも面倒くさい(筆者はエガチャンが好きである)。

もうお気づきの方もいると思うのだが、実はこの異世界は人間界と部分的につながっているのだ。そして、この異世界で錬金術師によって創造された手帳たちは人間の意識に刷り込まれる。いつしかそれが発現して人間界で現物として企画され、設計され、生産され、使用される。だから、人間界の手帳の全てはこの手帳大陸から生まれているのである。

一方、手帳大陸から手帳が生まれ、人間界につながっていくには手帳大陸内である程度の利用者が必要になっている。その利用者が増えない限り、その手帳の企画は人間の意識には刷り込まれず、いや、刷り込みが浅いと言った方が良いか、いずれにしても現実化しない。手帳の企画を何かしらのフィルターを通して活性化、または弱体化することによって人間界の手帳をより良いものにすることがこの大陸の存在意義なのである。

ただ、人間界に発現した後、人間界でフィルターがかかって企画が没になることもある。これは手帳大陸では知る由もない。つまり、人間界には人間界の論理があり、需要は手帳大陸とは違う。よって、手帳大陸が全ての手帳をコントロールしているというのは間違いである。その点は理解して欲しい。

私はこの異世界の創造者で、私が呼んだのだからサガワンがここに来ることはわかっていた。そして、彼がどういう行動を取るかも大体、想像がついている。ただ、彼は時々、突拍子もないことをやったり、言ったりもしたので、そこは予想外のことが起こった。
それが、私の楽しみでもあり、困ることでもある。この楽しげな異世界を壊されてもたまらんからな。

hoririumの技能

ということで、私の技能の一部をわかってもらえたと思う。手帳大陸のような異世界を創造する技能を持っているのである。

賢明な読者のみなさんはここでふと疑問に思うだろう。
「なぜ、手帳大陸だけがこんな風に異世界と現実世界が繋がっているのか」
などと。

しかし、誤解してはいけない。これは手帳大陸だけに言えることではないのである。日本文化には、「八百万の神」(やおよろずのかみ)という考え方があると聞いた。この考えに近いので簡単に説明しておこう。

たとえば、自動車大陸やスマートフォン大陸、電子計算機大陸や釣り具大陸、自転車大陸なども存在する。それぞれの大陸では手帳大陸と同じように錬金術師がたくさん居て、それぞれの分野で研究を日々進めている。そして、その結果が人間界と繋がって、人間の協力を得て新たなアイデアや製品が発現するのである。なお、全ての大陸を私が作っているわけではない。八百万の神だからな。

ところで、時々、多角化しているような企業などがある。たとえば、SHIMANOなどは釣り具も作りながら、自転車パーツのメーカーでもある。これは、近くにある各大陸での地殻変動により、自転車大陸の一部と釣り具大陸の一部がくっついてしまうことによって起こったりするのである。

無意識下の利用

では、この異世界は物理的にどこに存在するのか?実は物理的には存在しない。私、hoririumは人間たちの使っていない脳の部分(これが無意識下にあるわけだが)を超次元で再構成して、その能力を借りているのだ。つまり、あなたの脳の一部も借り、各大陸が異次元で存在しているように構成しているのである。
サガワンの場合は、借りていた脳の一部と現実に使っている脳の部分が重なり、意識が二重化した例である。私がそのように仕向けた部分もある。
村上春樹氏の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読んだことがある人、または映画「マトリックス」を見たことがある方には、ある程度の理解ができるはずだ。あれらの世界観とはまた違ったやり方なのだが、似ているところはある。
いずれにしても、私は皆さんの脳の一部を借りて、この異世界を作り、いろいろなものを生み出すお手伝いをしているということをご理解いただけるだろう。

うん、少し話しすぎたな。これで私の話は終わりにしよう。では、また手帳大陸でいつか、会いましょう。

おわり


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