はじめてのバトル

 ここはヘルヘイムの森。リフィアタウンを抜けてエリューズシティに向かう途中の地を覆う、うっそうとした森だ。
 タマザラシ(と思われているが実際はパウワウ)のタマちゃんと、クッカ・ムナで偶然手に入れたタマゴを連れてのんびりした旅を続けているミユキ。彼は旅路でエリューズシティを訪れ、とあるイベントに出くわした。

 「ふぁふぁ……この付けひげ、ちょっくらむずむずするだなあ」
 ぱう
 せっかくなのでイベントに参加することにしたミユキがレンタルショップで借りたのは、黒い付けひげとハット、青いつなぎのピエロ服と氷のように透き通った杖だ。バリコオルというポケモンの仮装らしい。パートナーのタマちゃんも頭巾を被らせてもらった。バリコオルに進化するポケモン、マネネがモチーフになっているそうだ。
 「んへへ、んでも楽しいな、タマちゃん。ハロウィンっておら初めてだ」
 ぱう~
 ショップを出て周囲を見れば、仮装した人々やポケモンで町が賑わっている。クッカ・ムナの華やかな雰囲気とは違うが、みんながみんな不思議な恰好をしているある種異様な感じもまたミユキの心をくすぐって、彼はなんだかそわそわしてきた。
 「あ! そうだ。この子にも見せてやるべ」
 そういうと、ミユキはリュックからタマゴの孵化器を取り出した。ポケモンセンターで借りたのだ。中にはクッカ・ムナで手に入れたポケモンのタマゴが入っている。
 「へへ。きっと楽しい感じにつられて、生まれてくるかもしんねえべな」
 ぱう……
 タマちゃんは「それはどうかな」と思ったが、ミユキの気持ちを尊重して肯定も否定もしなかった。
 「さ、タマちゃん! 行くべ」
 ぱう

 「折角ここで会えたんだもん! バトルオアトリートだよ、ミユくん!」
 森の中で出会った少女・アミュレが、バトルのお誘いを明るく告げながら立ち上がる。彼女のパートナーであるパウワウ(と思われているが実際はタマザラシ)のパウちゃんも、前に出会った時より覇気のある顔をして鳴き声を上げた。ふたりはミユキが旅に出てすぐの頃と、クッカ・ムナとで出会った友達だ。
 ミユキは数秒かけて「バトルオアトリート」の意味を考える。それがこのイベントでのバトルの誘い文句であることをようやく思い出すと、ぱっと笑った。
 「……ああ! バトルのお誘いかあ! そうだったそうだった。お、おらが相手でええんだか?」
 「もちろん! だから誘ったんだよ」
 「はああ……そりゃありがてえなあ。だども、おらポケモンバトルって初めてだ。そんでもええだか?」
 ミユキが帽子を被った頭をポリポリ搔きながら聞くと、アミュレはニコッと微笑む。
 「うん! あたしもほとんど初めてと変わんないよ。ね、パウちゃん」
 パウちゃんは名前を呼ばれた途端、眉間の皺をぎゅっと深める。ミユキは気合十分だなあと呑気に思ったが、その皺の真の意味を知っているのはパウちゃん本ポケとタマちゃんだけだ。
 「そうなんか。でも、アミレさはバトルしたことがあるんだなあ。すげえだ。タマちゃん、どうすべ」
 ぱう? ……ぱう
 視線を落としてタマちゃんに聞いてみると、タマちゃんはちょっと考えるような顔をしてから、尾ひれで優しくミユキの手を叩いた。ミユキが決めていいよ、という意思表示。ミユキにもそれは伝わった。
 「バ、バトルしてみてもええだか? タマちゃん、バトルしてくれるけ」
 生まれて初めてのポケモンバトルができると思うと、なんだか途端に緊張してきた。ミユキはごくりと唾を飲み込む。
 「よ、よおし! アミレさ、おら達でよかったら、よろしくお願いしますだ」
 「うん! よろしくね、ミユくん達!」
 新人トレーナー二人の声に合わせて、パートナーの二匹が前に出る。
 ミユキの緊張が伝わっているのか、背中に負った孵化器の中のタマゴが揺れた気がした。


バトルオアトリートのお誘いありがとうございます!
下記の内容でお受けします。

 使用ポケモン:タマちゃん(パウワウ♀)
 バトル形式:シングル(お誘いに準ずる)
 賭けチップ数:5(お誘いに準ずる)

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