会場外の小話
洋館からバトルフィールドに降りる出口のそば。華やかなパーティ会場とは対照的な、人気のないこの場所に、ユキヤとアシマリのてまりがいた。てまりの高さに座り込んだユキヤが、手鞠歌を口ずさんでいる。
「てん、てん、てんまり、てん、て、まり~」
ぽん、ぽん、ぽん…
ユキヤの声に何とか追いつきつつ、てまりが泡の球を鼻でつく。月明かりに照らされながら跳ねるそれは、しかし次の歌詞に移る直前でパチンと弾けてしまった。
あ、あぅぅ…!
「ありゃ、弾けちゃったな。どんまいてまり、上手になってきたぜ」
ユキヤはしょんぼりとうなだれるアシマリを両手ですくいあげるように抱え、頭を撫でる。
てまりはこんこと違って、一度失敗してしまうとなかなか励ましの言葉が効かない。元々のトレーナーがよほど彼女の失敗を責めたてていたのだろう。
そう考えているユキヤは、大丈夫、大丈夫と根気よくアシマリを撫でつつ、話題を変えた。
「それにしても、こんこの奴遅いよな。あの簪、俺の髪の匂いがついてるはずだから、見つけるのはそんなに難しかないと思うんだけど」
そう、この場にパートナーのこんこがいないのは、彼女に簪を探しに行かせているからだ。パーティ会場内でごたごたした拍子に簪を失くし、パーティに参加できないまでに乱れ髪となったユキヤは、こんこに簪を取りに行くよう指示したのであった。
彼女を待つユキヤとてまりは、ふたりで泡の球を操る練習をしていたという訳である。
「でも、ホントに上手になってきたよ。自信を持ってくれって」
あう~
不安げに聞き返すてまりに、にっこり笑いかけて見せるユキヤ。
「そうだ! 今のうちに俺の友達を紹介しておくよ。今日は友達に会いに来たんだ。お前、人見知りだもんね」
てまりを片手に抱いたまま、ユキヤはスマホを取り出した。写真のフォルダから、半年前の感謝祭で撮ったデータを映し出す。てまりが覗き込むのを見て、ユキヤは1人ずつ指差していった。
「えーと、この赤いのがセツナ。すげえいい奴だよ、いやまあここに写ってるの皆いい人だけど。この子がイオちゃん、とっても優しい人。こっちはカイヤ、デカいからびっくりするかもしれないけど、すぐにいい奴だってわかるよ。そんで――」
それまですらすらと動いていたユキヤの口が、一瞬止まった。てまりが不思議に思ってユキヤの顔を仰ぎ見る。ユキヤは少しだけ、頬に熱がこもるのを感じた。
「……そんで、この子はクレーネちゃん。俺が今日一番会いたい人」
あう?
「……いや、皆に会いたいんだよ、そりゃそうなんだけどね! ……この人のアシレーヌに、お前を会わせたいんだ。素敵なお姉さんだよ、アシュちゃんも」
ユキヤははにかんでスマホをしまった。相変わらず何もわかっていないてまりを抱え直し、目と目を合わせる。
「早く会場に戻りたいな。きっとお前も、皆と仲良くなれるよ」
あう
ユキヤが笑えば、ひとまず返答してくれるてまり。どうやら、少しは元気が出てきたようだ。よかったと安堵したところで、ちょうど会場の方から聞き慣れた「こーん」という声が聞こえた。
こん、こーん
「あっ、こんこ! お帰り、簪は見つかった……か」
パートナーの方を振り向いた途端、ユキヤの言葉が途切れた。氷色をしたきつねポケモンの背中に、見慣れない鳥ポケモンを見たからだ。黒くて小さな鳥ポケモンは、その黄色いくちばしに簪をくわえていた。
むく?
「…えーっと、こんこ……コイツは?」
こ~ん
こんこに問いかけても首をすくめるようにするだけで、はっきりと返答しない。どうやらこんこにもこの小鳥の正体はわからないようだ。ユキヤは試しにかがみこんで、小鳥に話しかけてみた。
「あの……それ、俺のなんだ。返してもらっていいかな」
むくぅ
掌を差し出せば、小鳥はあっさりとくちばしを開けて簪を落とした。よく見るとその首元にはアクセサリーが付いている。どうやらパーティに参加している誰かのポケモンのようだ。
「ありがとうな。お前のご主人にもお礼を言わないと。トレーナーはどこ?」
む?
首を傾げると、小鳥も首を傾げた。
「……迷子かな」
こんこん……
「そうだと思う」とばかりに頷くこんこ。ユキヤは「うーん」と頭を掻くと、
「……探しに行くかあ」
てまりを袖に入れ、両手で髪をかき上げた。溢れるような白の髪を半ば力づくで纏め、簪を挿して固定する。
「おし。行こう!」
こーん!
あうあう~
むくぅ
ユキヤの音頭に、それぞれの調子で応じる3匹。
会場には戻れても、パーティに戻れるのは、まだしばらく先のようだ。
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