見えたその色
まだ日は高く、祭りも続いているのに、なんだか長いこと街の喧騒から離れていた気がする。
イオちゃんと一緒にこんことスピネル君を追いかけて、セツナ、カイヤ、クレーネちゃんが睨みあう場にたどり着いて。セツナの話を聞いて、それぞれの気持ちを伝えて、そしてジラーチが笑顔で空に消えて――。
セツナの願いが直接叶ったわけじゃないのは、ジラーチが消えた後、セツナの携帯にかかってきた電話の内容を彼から聞いて知った。だけど、まったく叶わなかったわけでもなさそうだ。少なくとも、セツナの歩む道が1本きりではなくなった。ジラーチはきっと、セツナが願いを叶えるための手助けをしてくれたんだろう。
そんなわけで、色々あったけれど、俺達は何とかお互いと再会したのだった。俺達5人は今、祭りの会場に戻るべく、茂みの中を歩いている。
「――お、森を抜けるぞ」
「よかったー、やっと祭りに戻れたな!」
先頭を歩いていたセツナの言葉に、俺はホッとして後ろから応える。森の獣道は狭いので、セツナ、カイヤ、イオちゃん、クレーネちゃん、俺の順で歩を進めていた。森と街の境界、ひっそりした空き地に俺達は踏み込む。空き地の出入り口から裏路地を通れば、すぐ大通りに出て祭りに加われる。通りからは人々の歓声や陽気な音楽が聴こえてくる。
ここでセツナが俺達4人の方に向き直りながら口を開いた。
「さーて、折角だし皆で改めて祭りを見てまわらないか……って言いたいけど、まずやることがあるな」
「だな。カイヤの腕と、イオちゃんのコートを何とかしないと。それに、ポケモンセンターにも行こうぜ」
俺が頷くと、カイヤの腕を庇うようにずっと付き添っているイオちゃんが首を振った。
「ウチは大丈夫どす。ウチ自身がケガしたわけやおまへんし」
「……大丈夫やおまへん。閉じときゆうたのに、また開けとるどこかビリビリ破ってからに」
眠そうな声とは裏腹な内容を言うのはカイヤだった。……なるほど、確かに今のイオちゃんは若干目のやり場に困る。このまま祭りに繰り出すのは、幼馴染みのカイヤが心配して当然だな……。
でも、当のイオちゃんも、
「大丈夫やおまへんのはカイちゃんやん!はよう病院行かへんと!」
カイヤと同じく、自分のことより幼馴染みのことの方が先のようだった。
「俺からすると、どっちも緊急用件だと思うんだけど……」
「そうだなー……どうすっか」
「2人ともお互いが先だと思ってるよね……」
「自分は大丈夫だ」の応酬を始めた幼馴染み達を見て、俺が苦笑いし、セツナが肩をすくめる。クレーネちゃんの言葉には深く同意だ。カイヤの方は一見わかりづらいけど、幼馴染み達はお互いを心配しているのがよくわかる。特にイオちゃんは、カイヤがさっき1人で去ろうとしていたから、彼がケガしたままどこかに行ってしまうのが不安なのだろう。
皆に向かって、俺は思いついた提案を喋る。
「な、セツナとクレーネちゃんは時間あるか?俺達全員が時間あるなら、二手に分かれてカイヤとイオちゃんに……」
その時。俺の目が一点に留まり、次いで口も思わず止まる。クレーネちゃんの帽子に、見覚えのある色があった。
「? ユキヤ君?」
「どうした?」
クレーネちゃんとセツナの台詞で、我にかえる。
「あ、いや、何でもない!えーっとどこまで言ったっけ、そうだ、それぞれカイヤとイオちゃんに付き添ったらいいんじゃないかなって!」
一気に最後まで言い切ってから、俺はもう一度、クレーネちゃんの帽子をちらりと見た。真珠のような石と金の輪飾りの傍に……藤色のバンダナが結ばれてある。
(あれって……)
今までどうして気づかなかったんだろう……これまでの緊張した空気で、それどころじゃなかったからか。それとも、まさかあんなにきれいに昔の色のままでもう一度見られるとは思ってもみなかったからか。
……あのバンダナは、俺が7年前に彼女にあげたもの……かもしれない。
確証はない。何せ7年前にあげたものだ、彼女がなくしていたって不思議じゃない。俺自身、当時頭に巻いていた方のバンダナは島めぐりの途中でなくしたし。どちらかというと、別物である可能性の方が高いだろう。
それでも、もしあれが、7年前のバンダナならば。もしもクレーネちゃんが、ずっと取っておいてくれていたのなら。
(あとで聞いてみようかな……バンダナ、取っといてくれてたのかって)
もしもそうなら……すごく嬉しい。
でも、今はとにかくカイヤとイオちゃんのことが先だ。バンダナのことは、セツナが夜に誘ってくれた、飯の時にでも聞こう。
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