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君の指にシロツメクサを

桜色の入学式で君と出会ってから
ずっと二人で 同じ道を通っていた。

色違いで背負ったランドセルの中に
石ころや棒切れを入れて帰っては
同じように、親に叱られたりしていた。

君の髪が だんだんとお下げになって
僕もぐんぐん 背が伸びたけれど

この道を行く僕らは
いつも 変わらなかった。

土埃の舞う坂道を駆け上ったり
川に足を滑らせて落ちてみたり

夏の太陽と、冬の雪原に照らされ
何度 季節を繰り返しても
ぼくらの腕は 真っ黒に日焼けしていた。

ある日、君がひとり 白い部屋にひっこんでしまってからも
僕はいつものように、一日の報告をしにいった。

いたずら 新しい遊び 友達の友達が友達になった話とか

君は、急に大人みたいな顔をしたり
いつもと変わらない はにかみ方をしたりしながら
僕の話を黙って聞いていた。

その日、一人で歩いた帰り道には
いつか君が摘んでいた花が咲いていた。

ふと 数本、引っこ抜いてみれば
昨日の雨で 手が 濡れて
僕はそのまま 君の部屋まで走った。

駆け込んで手渡した 泥だらけの花のせいで
白い部屋には僕の痕跡がたくさんついた。

君の周りの大人たちは喚き怒ったけど
僕には、どうしてもそうしないといけない気がしていた。

あの日の僕は
それが雑草と呼ばれている事も知らなかった。

この先ずっと共にあるものと思っていた君の命が
あんな名前で説明されるものとも知らなかった。

ただ、止められないまま整う未来が悔しくて
ぼくは、まだ君が見たことないような
そんな何かを見せなきゃいけない気がしたんだ。

でも

僕が摘んだその花は
走ってくる間にこぼれ落ちて
ほんの数本しか残っていなかったから

君の真っ白になった指に、
僕の手の泥で色を付けて
小さな指輪をはめた。

君の未来に
幸運が咲くように。

あの日のふたりと
同じになるように。

#第1回noteSSF


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