未来の光
名は体を表す。
同様に
シュートって性格が出ると思っていた。
もちろん見ているのはプロ選手のシュートばかり。
決定機の一瞬のうちにさまざまな思考が巡らされ、
観客席からは分からない、超絶技巧の数々、小悪魔女子も驚きの駆け引きの数々があるのだろうと思う。
それでも、生まれ持った素質や性格のようなものはかなり大きく反映されているとも思う。
それは、麻生グラウンドでの練習だとより顕著。
シュート練習では、自分が表現したいコースや打ち方を自由に出来るため、
力を込めてズバンと打ち込みたい選手はストレート一本勝負だし、
カーブを磨きたい選手は落としたり曲げたり自由自在だし、
京都の板前さんが使うのは煮干し出汁。
GKとの駆け引きが好きな選手もいる。
今シーズン、そんなフロンターレの練習を見学し、シュートを見ても
「どんな人なんだろうなぁ」と
いまいち分からない選手がいた。
五十嵐太陽選手。
いつもニコニコしていて、とっても人当たりが良いし
本当に話しやすい。
シュートそのものは、おっっしゃれーーーーーなコースで、読めない。うまい、、、、!!
素人目にも分かるくらい、アカデミーで10番を任されてきたことに納得するほどの足元の技術。
「シュートセンス」が光る、なんて書かれているが、まさにその通りの天才肌すら感じる。
ゆえに、表面的に大人たちに見せている人当たりの良さの裏側に
何層にもなった五十嵐選手を感じてしまうのである。
そんなことを考えていた折、そんな彼の内側を垣間見る機会があった。
今シーズンのある試合、キックオフ3時間前。
その日メンバー入りしていない若手たちがボランティアさんたちの仕事を体験する、という「新人研修」があった。
まだお客様が入る前のスタジアムで、新加入選手5人が座席を雑巾で拭き上げる仕事をしているところに、取材をさせていただいた。
あまり話したことがなかった若手の皆さんと、直接話す貴重な機会。
そんな中で、ボランティアの女性の方が運んでいた水いっぱいの重そうなバケツを率先して引き取り、自ら運ぶ五十嵐選手がいた。
話しかけてみる。
「まだお客様が入っていないスタジアム、いかがですか?」
「懐かしいって感じですねぇ〜」
五十嵐選手を分かりにくく感じる要因の1つに語尾を伸ばす話し方もあるのだが、それはここでは深く言及しないでおこうと思う。
「懐かしいというのは?」
「よくきてたんですよ」
スタジアムの外を指し、自由席の席取りのために長蛇の列を作るサポーターを振り返る。
「朝練の前にスタジアムに来て、自由席の順番確保ために目印を置いて、朝練行って。
練習終わったらスタグルで昼飯食べて、自由席取るっていうルーティンがあって。
アカデミーって、トップの試合観るのが優遇されてるんで、めちゃくちゃ観に来てました。」
アカデミーの選手って、朝練よりも前からフロンターレが始まっているのか…!!感動した直後
「でも」
五十嵐選手が続ける
「同世代で、俺ともう数人くらいだったんですよね。毎試合観に来てるの。
口じゃプロになりたい、トップ上がりたいって言う選手はいっぱいいますけど、じゃあお前ら、なんで観に来ねえんだよって思ってました。」
と、いつも通り爽やかに笑う。
言葉とは裏腹に。
そこに宿るのは、当時、共に闘っていた同士への檄なのか、昇格を争ったライバルたちへの鼓舞なのか。
とにもかくにも、そのエピソードからは
サッカーへの一途な思いと、それを実行するだけの意志の強さを感じた。
アツい。
また、試合を直に観ることで蓄積されてきた「目」みたいなものは確実にシュートの引き出しになっている。
それは五十嵐選手が、まさに足で稼いできた本物のお手本たち。
そして、それらは代々フロンターレを勝利に導いてきたゴールの数々でもある。
シュートでどんな人物なのか知ろうなんて、
ムリなわけだ。
笑顔の裏には、アカデミーをプリンスからプレミアに引き上げ、自らもリーグ得点王になったプレーヤーとしての努力と熱意があった。
そして、かくも実直に積み上げてきたものをシュートの瞬間に表現している。
「シュートセンス」なんて一言で片付けられるものではないと思った。
名は体を表す。
うちに秘めたる闘志を燃やす時、
1人のプレーヤーがチームを照らす光になる。
そういうことなのかも知れない。
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