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小さな出来事

川を見て最寄り駅に戻り、昼を軽く食べて、家に帰る周回バス「Nまちくん」に乗り込んだ。
たまたま一番後部座席が空いていたので、私は左端に座った。同じとこから乗り込んだひとりのご婦人は右端に座った。
バスは乗客を拾いながら家に近づいていく。
途中のバス停から乗ってきた女性が、私と右端の女性の間、つまり真ん中に座った。
そして右端の女性が私が降りる二つ手前のバス停で降りようと、席を立ったときだ。

真ん中に座っていた女性が、何も言わず床を指差した。
見ると、右端に座っていたご婦人の座席の足元に、ネックレスが落ちている。
女性はネックレスを拾い上げ、首をかしげてバスを降りんとするご婦人を見ている。
私は迷った。あと数秒で彼女はバスから降りてしまう!

「あの! ネックレス落としてませんか??!」

私は大声で叫んだ。
バスのステップを降りようとしていたご婦人は、振り返りもせず何も言わずに首を振った。
…ネックレスが落ちてたこと、知ってたのか。

ネックレスを握りしめたまま、みつけた女性はぼんやりと前方を見ている。
私は彼女に言った。
「私が預かります。降りる時、車掌さんに渡します。きっと落とし物でしょう」
手を差し伸べると、彼女は不思議そうに私を見たまま、ネックレスを私の手のひらに落とした。

私は降りるとき、車掌さんに落とし物を渡し、一番後部座席の下に落ちていたことを告げた。

彼女はもしかして、何か病気なのかな。
と、思った。
だが、表情が乏しくても何も言葉を発しなくても、言いたいことはわかる。
きっとああして正解だったのだ。

時々、こうして試される。
良心や助けを察知できるなら、自分が早急にどう動くべきなのかを。

きょうも神に試された気がする。

これは? ふぅん、動かないね。

じゃあこれは?  よし。

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