CS-21工法 施工事例 / 新築美術館の屋根防水工事
工事概要
構 造:RCシェル構造(スパン約40m×60m)
工 期:2009年(平成21年)2月~2010年(平成22年)9月
使用材料:コンクリート改質剤 CS-21(コンクリート躯体防水材)
施 工:(株)益田工務店(アストン協会・コンクリート躯体防水研究会 会員)
はじめに
2009年の夏、元請会社の技術本部から当社に1本の電話があった。
「柱・梁の無い屋根で、かつ周囲に立上りもない、水滴のような局面のスラブに防水は可能だろうか」という問い合わせである。
容易に想像し得ないことだったので「構造的に成り立っていれば技術的には可能です」と返答したのが、豊島美術館(仮称:豊島アートプロジェクト)との出会いであった。
その後、現場から声がかかりプロジェクトの全貌を聞いた際には、驚きと高揚感を沸々と感じた。そして求められる要求の厳しさは、まったく安請け合いを許さぬものであった。
防水材 採用の経緯
元請会社は、オーナーから当プロジェクトを具現化すべくともに協力していたが、プロジェクトを成功させるポイントであるシェルの防水材の選定に苦慮していた。
その要求性能は
①コンクリート打放し屋根の防水性能を確実に確保すること
②防水材施工により打放しコンクリートの表情を変えないこと
③打放しコンクリートが、防水施工後に雨等で濡れ色にならないこと
④コンクリートの乾燥収縮によるクラックが発生しても、防水性能が確保できること
⑤沿岸地域であることから塩害・中性化に対する抑制効果があること
⑥防水効果が長期にわたり持続性があること
⑦シェル表面に汚れがつきにくい、もしくは汚れが落ちやすいこと
-など、多岐に渡った。
非常に困難に思えたプロジェクトではあったが、専門工事業者として「やりたい」という思いが心の底から湧いてきた。
要求内容を考慮すると、一切の塗膜・被膜系の各種防水工法では適合できず、撥水材・表面強化材や浸透性防水材といった材種からの採用が選択肢として浮かび上がってきた。
本採用には他工法と比較検討を行う必要があったが、当社が提案した材料の分類されてる「浸透型防水」あるいは「ケイ酸質系塗布防水材」は、日本建築学会の標準仕様書JASS8で区分をされてはいても、それぞれを比較するための「物差し」が確定していない。そのため、防水として できるだけ分かりやすい項目と数値表現を行うことが必要とされた。
このシェル屋根は、意匠性からホワイトコンクリートが採用されることになっていた。当社では事前に行われるコンクリート試験練に立会い、供試体を採取し試験施工を行った。
その結果、
まずコンクリートの表情が変わらず、雨でも濡れ色になり難い点が評価を得た。
その後、ひび割れを発生させての透水試験、および電子顕微鏡撮影による含浸深さなどの小型実験を行った結果、物理的にも十分性能が確保できる手応えを得た。
最後にホワイトコンクリートが現実にどの程度の表面吸水性があって、それに対して十分な防水性能(躯体緻密化)を得るための塗布量の決定が必要であった。試験体を使った透気試験の結果より、塗布量0.25kg/m2が妥当と判断された。
要求性能の大きなハードルであった前述の①~③が検証され、さらに④~⑥は本来同防水材が持つ特性としてクリアできる確信があった。また、⑦の汚れ難さの点では、汚れが浸透し難い利点を持ち合わせていた。
こうして元請会社スタッフの粘り強い後押しにも助けられ、同防水材は正式採用に至った。
施 工
シェルコンクリート打設は2010年3月に行われた。約600m2のコンクリートが打継ぎなしで連続打設され、見事なシェルスラブを目のあたりにした時には、感極まる思いであった。
同防水材の施工は、打設後翌日から約2週間の期間をかけ、防水材塗布と散水養生を入念に施工した。
おわりに
本物件は構想段階から2年、完成からやがて1年が経過するが、ひび割れ、錆び汁、白華や漏水などの不具合は見られない。
当プロジェクトのコンセプトは「アートと建築の融合」である。まさに建築自体がアートと思えるほど感動的なプロジェクトと、本防水材の性能および当社の施工技術は、はたして融合できたであろうか…。
真価はこれからと考える。当プロジェクトに参加できたことに感謝したい。
アストン協会・コンクリート躯体防水研究会 会員 (株)益田工務店 益田敦生
最後までご覧いただきありがとうございました。
本記事は、ARS:2011年7月25日号(P33-34)に掲載された「注目の防水工事:『アート』との融合 豊島美術館 新設屋根防水工事」の転載(一部再構成)です。
コンクリート躯体防水材CS-21によるコンクリート構造物(駐車場・屋上・屋根・地下・水槽など)の躯体防水につきましては、コンクリート躯体防水研究会 ウェブサイト をご覧いただけますようお願いいたします。