『リコリス・ピザ』
誇張したキャラクターやヘンテコな盛り上げ方でこちらを酔っ払ったような状態にさせておいて、何かあったときに相手を心配する気持ちや嫉妬を煽るような言動はリアルな輪郭で切り取ってくる。
何にも邪魔されない真空パックのような愛じゃないところが好き。
目隠ししてバンバン壁に当たりながら迷路を走って、たまたままた鉢合わせになっただけのような。
でも冒頭でゲイリーが言った「結婚したい人に会った」が、無欠の真実とも言い切れないんだけど決して嘘じゃないのが良かったです。
誤認で警察署に連れていかれ、ひどい扱いを受けた(ちょっとだけ)ことがショックで放心状態のゲイリーと、ゲイリーが心配で自身も不安に駆られ追いかけてきて、ガラス越しに喚いてるアラナ。
ションボリしてるゲイリーにアラナがギャーギャーまくし立てたかと思うと笑って走り出すところが最高に痛快でした。
あとアラナの「割礼してんならユダヤ人だろ!」はパンチライン強すぎ。
アラナは怒ってるときが、ゲイリーはゴチャゴチャ言ったりヘコんだりしてるときが特に魅力的でした。
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個人的にはポール・トーマス・アンダーソンの映画って、めちゃくちゃ面白い校長先生の話みたいに感じます。
人生と知識と経験を元に、滔々と、そしてだいたい長々とこちらに話しかけてくるけど、何言ってるかはずっと分かって(元ネタ等の意味ではなく)、迷子になることなく興味を持続させて聞いていられます。
本心ではどう思ってるかはさておき、人間のイタさ提示のセンスがたまりません。
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私はなるべく物語の世界に没入したい派ですが、あのフィリップ・シーモア・ホフマンの子クーパー・ホフマンがゲイリーを演じているということを時おり(嫌でも)思い出さずにはいられませんでした。
本人や周りの人の思いなんか1ミリも知らないけど、ゲイリーに親父の影を垣間見て、フィリップ・シーモア・ホフマンはまだ死んでなかったんだなと思うと、家に帰ってからYou Tubeで予告を見直したときにグッときました。
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才能人達の頭にこびり付いてとれないらしい1970年前後のハリウッド、知らないはずなのにまるで知ってるような気持ちになってきました。
登場人物はほぼノンキチ(マジ者0)なのに(1人を除いて)、人間のどうしようもなさをここぞというところでCtrl+Vしてくれて熱いほど痛感、なおかつそれらを温かく見つめてくれる作品でした。また観たいです。
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