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シリアスマンの何が好きか

申し上げないわけにはいきますまい。

これ、本当に好きなんです。

ざっくり言うと、ユダヤ人コミュニティに住む物理学講師のラリーが徹底的に不幸に見舞われる話なんですが、切り口が半端じゃないです。

「おっさんがひどい目に遭うだけの映画のなにが面白いの?」と言われたら正直ぐぬぬ…となってしまいますが、それでも好き。

「離婚したい」と言いだした奥さんは次の相手(ペアルック着用)を連れてきてしばらく1人でモーテルに住んでほしいと頼んでくるし、差別主義者(っぽい)隣人は敷地を越えて芝を刈ってるし、長男は自分のカードでレコードを大量購入してるし、試験を不合格にした学生は賄賂を渡してくるし、同居してる弟のアーサーはオデキの膿みを出すために浴室を占領して長女はそれにバチギレしてます(一部抜粋)。

出来事そのものはもちろん、手続的な端々の会話とかもいちいち最高なんですよ。

なにかに異常に固執してる人とか、目先の欲に負けてやらかしちゃう人とか、ハッピーピープルのせいで本気で困ってる人とかを、独自の切り取り方で面白がります。

これは半分コーエン兄弟自体の魅力でもあるんですが、真正面から見たらふつうに不快だったりかわいそうだったりする事象を、利害関係のない第三者の立場から、隣にいる私たちに「あいつの行動やばくない?笑」って言ってきてるように感じられます。

換言すればそれが皮肉とかブラックユーモアなんだと思いますが、単語で処理してしまうのはもったいないほどセンスフル。

たとえばサイ・エイブルマンという超絶ゲロクソ野郎が奥さんの(次の)結婚相手として登場するんですが、主人公のラリーを含めて「何じゃコイツ!」って言ってくれる人が最後まで1人も出てきません。

自分で「何じゃコイツ!」って思うしかないんです(思わなくていいんですが)。

観る側の内心の指摘ありきで成立してる人物なので、人によってはなにも感じない、または腹が立つことも有り得ます。

でも「何じゃコイツ!」と思うことで、いつの間にか「こんな奴おるやろ?」表現の虜になってしまう人も中にはいると思います。

自分はコーエン兄弟ほか「こういう」表現者に感覚の乳首を開発されてるのでもはや何でも感じてしまうんですが、それをさっ引いても良いと思うんですよね〜〜〜〜〜(開発されてるのでもう何もわからない)

それでは最後に、誰もいない虚空に向けた「シリアスマンで好きなシーン ベスト3」を発表します。

第3位
かねがね違法賭博の注意を受けていたアーサーがついに逮捕された理由が男娼買春
→裏切りの振り幅がでかすぎますね。

第2位
結構な尺を使った、会ったこともない歯医者のエピソード
→言いたいことが集約されてる気もします。

第1位
ラリーを家から追いだすための三者会談で、サイ・エイブルマンがラリーの手を握りながら黙って10秒考えるように言ってきた(なんで?)のに、奥さんが8秒ぐらいで話し始めちゃう
→サイ・エイブルマンのカウントも良すぎます。

あと「!!…なんだ夢か…」をアホほど多用するところも大好き。

終わり方も最高。ジェファーソン・エアプレインの「somebody to love」が痛快。

何も起こらないけどすべてが詰まってるように感じます。

神はクソさえ与えてくれない!

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