No Country for Poor Things
1万メートルの高度からHALO降下する新宿中央コーエン兄弟。
つい2分前、ハローワーク新宿(歌舞伎町庁舎)の隣にある富士そばの前に寝転がっていた自称・時空を行き来できる老爺が新宿中央コーエン兄弟に言った。
「君は33歳で死ぬことになっている。つきましては、任意の過去に戻して、一言だけ当時の自分にメッセージを伝えることを許そう」
無視して西武新宿駅に向かって歩き始めた新宿中央コーエン兄弟に向かって老爺はブツブツ何か呟いたかと思うと、プファイファー・ツェリスカ(オーストリアの超大型リボルバー銃)を発砲しながら叫んだ。
「リップ・ヴァンヴァン・ウィンクル!!」
プファイファー・ツェリスカの象撃ち用ライフル弾が2発命中し、頭蓋は爆ぜ四肢が爆散したかと思うと、気付いたら高高度からHALO降下していた。
地上に見えるのは、新宿中央コーエン兄弟が小学6年生まで家族で住(棲)んでいた大阪の世紀末バラック文化住宅だ。
地上が近づいてきてもパラシュートが開傘しない。
新宿中央コーエン兄弟はそのまま世紀末バラックに激突した。
頭蓋は爆ぜ四肢が爆散したかと思うと、倒壊した文化住宅から幼気なショタ坊が飛び出してきた。
飛び散る血と脳漿の水溜りに浮かぶ眼窩から逃げ出た両目玉が、テレビで見た顕微鏡で見た精子みたいだとショタ坊は言った。
老爺の言葉を思い出す。
「私は悪くない。私が今のような生活、状況に陥ったのはすべて社会と会社が悪いんだ」
老爺は極端な他罰的思考であると思われた。
覚悟なく深く関わるのはNGな人物だ。
「一言だけ当時の自分にメッセージを伝えることを許そう」老爺はこれも言っていた。
新宿中央コーエン兄弟は、怪訝そうに新宿中央コーエン兄弟を見つめるショタ坊に伝えるべき言葉を絞り出した。
「東野幸治を信じろ」
「東野?」
「そうだ」
「東野を信じるの?」
「そうだ。しかし東野幸治というのは比喩だ」
「どういう意味?」
「お前ならこの意味がわかるはずだ」
「わからないよ。てかこの体験PTSDになる?」
「確実になる」
「十字架背負わせないでよ。どうしておじさんの言うことを聞かないといけないの?どうして身体がバラバラになって中身が全部出てるのに喋れてるの?」
「実はおれは未来のお前だ」
「死にまくってるやん」
新宿中央コーエン兄弟は一言どころかまだもうちょい喋れそうなことがわかった。
「ターセム・シンの新作が公開される」
「ターセム・シン?」
「ビデオ屋に『ザ・セル』って映画があるから観ろ。あと数年後に『落下の王国』って映画が公開されるから観に行け」
「覚えられないよ」
「『白雪姫と鏡の女王』は観ても観なくてもどっちでもいい」
「おじさんの目玉と肉を何羽ものカラスがついばんでるよ」
「救急車は呼ばなくていい」
「絶対助からないって本能でわかったから最初から呼ぶ気ないよ。結局なにが言いたいの?」
「『Wicked Little Letters』が公開されるまで生きてくれ」
「クサッ。肉のにおいでめっちゃ臭くなってきた」
その後ショタ坊は血塗れで十三大橋を歩いてるところを大阪府警に保護された。
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