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門松は冥土の旅の一里塚

男はPCで映画をストリーミング再生していた。

映像がフリーズした。最近いつもこの調子だった。

ジョン・グッドマンがボウリング場で白髪長髪の男性に銃口を向けたまま凍っている。

fast.comでネット回線の速度をテストしてみた。

〈0.2Mbps〉

「ウラァ!」

男は無線ルータとONUのコードを引っこ抜いてベランダから放り投げた。

部屋は4階だが、下は植栽だけだった。

しばらくしてもガシャンともガサッとも聞こえてこない。

外の様子を確かめるため網戸を開けてベランダに出ようとしたとき、男の眼前に異形の獣畜が現れた。

上半身は人間、下半身は猛禽類のような容貌で、背中に生えた体躯の3倍はある翼を使って飛んでいた。

男「は、ハーピー!?」

獣畜「迦陵頻伽です」(トンデモ美声)

梵語:サラヴィンカ

男「え、何?」

迦陵頻伽「カリョウビンガ」(トンデモ美声)

サラ・ブライトマンよりスーザン・ボイルよりアヤ・エイジアより美しい迦陵頻伽の声に、男はくずおれそうになった。

ベランダの手摺に留まった迦陵頻伽の両手にはそれぞれ機器が掴まれていた。

男は迦陵頻伽が右手に無線ルータ、左手にONUを持っていることに気付いた。

迦陵頻伽「其方が落としたのはこのルーターか、それともこの終端装置か」(ト)

男「両方です」

迦陵頻伽「左様か。今から私が出すクイズに正解したら、其方宅のネットワーク回線速度を格段に向上させた上でこれらを返してやろう」(ト)

男「格段ってどのぐらいすか?動画もまともに観れないぐらい遅いんですよ」

迦陵頻伽「100億万Mbps」

男「100億万Mbps!?」

迦陵頻伽「100億万Mbps出れば映画は5倍速で視聴できるであろう」

男「もっと速いやろとかの前にそれあんま言わんほうがいいすよ。とりあえずクイズおねしゃす」

迦陵頻伽「エッチじゃないのにエッチに聞こえる言葉、私が普段いる極楽の友達の間で今一番流行ってる答えはな〜んだ?」

男(迦陵頻伽コミュニケーションめっちゃダルいタイプやん…)

迦陵頻伽「わかるか?」

男「えっと…クイニーアマンとかっすか」

迦陵頻伽「惜しい!それのブームはちょっと前に終わった」

男「正解は?」

迦陵頻伽「インカ・マンコ・カパック国際空港」(ここまでで一番の美声)

男「……」

迦陵頻伽「テンポも良いんだよね」

男「もういいす、プロバイダに連絡します」

迦陵頻伽「残念だったな。ではこれは処分する」

ベランダの床にみるみる孔が空いた。下階のベランダは見えず、漆黒である。

孔の深奥から忍たまのきり丸の声が聞こえてきた。

「バラ売りコンドームいかがっすか〜、1コから売るよ、バラ売りコンドーム、いかがっすか〜」

男(どの街のどこで売ろうとしてるんだ)

迦陵頻伽は孔にルータとONUを投げ込んだ。

きり丸「バラ売りコンドームいかが…………バッファローのルータ、いかがっすか〜」

男「このセドリショタ下忍!」

冷蔵庫から生卵を取ってきて投げ込もうとした刹那、孔は塞がってしまい卵が床で割れた。

元々カッとなって捨てた機器がほんとに消えただけ、アンガーマネジメントができない割に切替えは早い男はもういいやと思い始めていた。

迦陵頻伽「ジャンプアップクイズやる?」

男「やったら何があるんすか」

迦陵頻伽「このクラッシュバンディクー3のディスク(美品)あげる」

カリョビン「ココのステージはあんま面白くないんだよね」

「普通にメルカリに出てるからいいす」男はベランダの鍵&カーテンを閉めた。

極楽の共命鳥「ワシのクラッシュバンディクーとプレステなくなっとるがな」

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