好みのタイプ

小説お題:僕のこと、好きでしょ?

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自信さえあれば、もっとむねをはって生きていけるのだろう。でも、私にはそんな自信などない。

いつも、自分のしたこと、言ったことを一日の終わりに振り返っては後悔して自己嫌悪に陥る。

寝て忘れられるようなおおざっぱさがあれば、まだ良かったのかもしれない。残念ながら、私はどちらかといえば几帳面すぎて、益々気にしてしまうたちだった。

それでも、いつまでも引きずっていては先に進めないことは分かっているから、なんとかポジティブに考えるように努力もした。

そんなときに話すようになったのは、行きつけの喫茶店の店員さん。男性で、年は分からないけれど、接客業だからいつも笑顔だった。

「いらっしゃいませ……、あ、こんにちは」
「こんにちは」
「そろそろ来ると思ってました。アメリカン?」
「はい」

いつも注文するアメリカンコーヒー。
1週間に3日の頻度でこの喫茶店に来ているからなのか、顔も注文内容も覚えられてしまった。

「390円です」
「400円で」
「はい、では10円のお釣りです」

小銭の音、後ろでコーヒーが淹れられる音、他のお客さんの声。
この喫茶店は、私にとって日常だけど非日常でもある。

「あの」

コーヒーを受け取って席に向かおうとしたときに後ろから声をかけられた。
先ほどの彼が、カウンターから外に出てきていた。

「何か、ありましたか」
「何か、って?」
「なんだか、思いつめてそうだから。いつも以上に」

私はそんなに思いつめた顔をしながらここに来ていたのか。

「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

苦笑いしながら、彼にそう言う。

「なら、良かった。何かあったら、俺でよかったら話くらい聞きますから」
「あ、ありがとう、ございます」
「常連さんですから、これくらいは」

そう笑うと、新しいお客さんが来たことに気づいた彼がカウンターに戻っていった。

目の前のコーヒーがゆげをたてる。
白いそれはすぐに消えてしまうけれど、私のその感覚はすぐには消えなかった。

彼は、自分に自信がある。
だから、笑顔でいられるし余裕もあるし、たかが常連の私も気にかけてくれる。

そうか、自信を持つって、結構簡単なのかな。
自信があるから余裕があるんじゃなくて、余裕があるから自信があるのだ。

「なるほどね」

一人がてんのいった私はつぶやく。

俺様な人、例えば俺のこと好きでしょ? って決めつけるような人は好きではない。

でも、もしかしたらその人は自分に自信を持つために、そう自己暗示してるのかもしれない。

1%の確率でも、そういうギャップがある男性は、
うん、好みだ。

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