朗読台本「オンリー」

#魔女集会にて団欒を

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ドラマ・劇ではなく、朗読を想定した台本ですが、「」のみを読む劇となっても構いません。途中まで、一部分だけ、も可能。

魔女視点で話が進みますので、地の文は魔女かナレーターを配置するほうがいいかもしれません。

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 ある森の中で、目についたのは白いもの。最初は犬か猫か、はたまた鳥か、そんな風に思っていたが近づいてみたらそれはヒトの子だった。かわいそうに、首輪をされ腕は紫色のアザだらけ、左足には重たそうな鎖をつけた足枷がはめられていた。

「ボウヤ、ボウヤ」

そっと頭を抱き起こして、頬を軽く手のひらでさするようになでる。少年は砂で汚れた灰色の髪色の下から空色と蒼色をまぜたような幻想的な瞳で私を見上げた。

「……だれ……」

つたない言葉遣いで短く発したその言葉に、私は首を横に振る。

「私が誰かはどうでもいいのさ。君は逃げてきたのかい?」
「……そう……、あるじ……ぼく……うる……」

見たところ6歳程度だと思われる少年は、会話はできるものの単語で返すことが多かった。身なりとその会話から感じられたのは、この子を暗い森の中に置き去りにはできないということ。大人は嫌いだが、子どもは好きだしまあいいだろう。

「じゃあ私が買おう。誰にお金を払えばいいんだい?」
「か……かみさま……」
「神様? そんなものこの世にいやしないよ」
「でも……かみさま、みんな……よぶ……」
「……医者のステルフだね」

少年は頷いた。

一番近くの街にいる、ただ一人の医者、ステルフ。医者は病気を治すから神様とみんなは呼んでいる。その神様が、こういう小さな子をストレスのはけ口にしているとも知らずに。皮肉なことだ。誰かを救えば救うほど、この子は傷ついていたのだから。

「さあ、いこう。今日から私のこどもだ」
「こど、も」
「そうさ、私の息子だよ」
「……まま?」
「そう、ママだ。名前はなんていうんだい?」
「……ない。いつも、ねずみ」

思わず笑ってしまう。ネズミなんてネーミングセンスがないし、いくら灰色の髪だからって安直すぎだろう。こういうきれいな目をした子にはきれいな名前が似合う。

「なら、新しい名前をつけてあげよう」

そう、あの日、私とその子は出会ったのだ。


 数年後、彼は立派な青年に成長した。灰色の髪も、きれいな目の色も変わらずに、背丈は大きくなって、体格もよくなって、私の手伝いをよくしてくれる。

私はヒト、その中でも大人が嫌いだ。子どものときに守られたことを忘れて世界を壊す汚い大人たちが嫌いだ。

彼を拾って育てたのは子どもだったからだし、成長したら出ていってもらうつもりだったのに、結局かわいくて追い出せずにいる。それに、彼は汚い大人たちとは違って壊すことをしない。私を守ってくれている。


「ママ、次は何したらいいかな?」
「そうだねえ。そばにいてくれたらいいね」
「そんなことでいいの?」
「そうだよ。お前にしかできないことだ」
「わかった!」

成人した男がママ、だって。笑えるかもしれないね。でも私はママと呼ばれる事が嬉しいよ。お母さんだなんて言おうものなら別人になったとヒヤヒヤする。

「これからも、僕がいるからね」
「ああ、頼んだよ」

そうやって椅子に座って笑い合うこの時間が、大好きなのさ。

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