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『おせんべいくんとぷりんちゃん』9話
9話
おせんべいくんは、ある日の下校途中、校門の前に落ちている絵を見つけました。
その絵には、老婆が描かれており、悲しそうな、物憂げな表情を浮かべていました。
リーダー格のクラスメイトの一人が、その絵を見つけると、ふざけながら、足で老婆を踏みつけ始めました。
「なんだこの絵、ばあさんだ。ばばっちいな、ホレ!」
そのクラスメイトは、他の仲間たちを呼んで、絵を足で蹴ったり、投げつけたりして、遊び始めました。
老婆の絵は、みるみるうちに、うす汚れ、靴跡やほこりで、黒ずんでいきました。
「お前もやれよ。ほら」
おせんべいくんは、自分の足元へ蹴ってよこされた老婆の絵を、あいそ笑いを浮かべながら、あいまいに足で踏んで、汚しました。
「もっとやれよ」
気の弱いおせんべいくんは、言われるがまま、老婆の絵を何度もなんども踏みつけました。
その時のおせんべいくんは、どんな顔をしていたのか、自分でもよく分かりません。
きっと、曖昧で、意思のない、口の端だけが無理やり上がっているような、作り笑いのようなものを、浮かべていたのでしょう。
「おい、もう行こうぜ。飽きちまったよ、ばあさんも死んだだろ」
リーダー格のクラスメイトと、数人の取り巻きが去ったあと、おせんべいくんは、おそるおそる老婆の絵を覗き込みました。
軽い罪悪感を感じたためです。
老婆の顔は、ひどく怒っていて、憎悪の塊のような、憎しみと悪意に満ちたものに変わっていました。
はじめに見た、物悲しそうな表情とは、明らかに違っていました。
怖くなったおせんべいくんは、走ってその場を去り、家に帰りました。
あの悪意がすべて自分に向けられているような、自分がなにもかも悪いような、とんでもない、取り返しのつかないことをしてしまったような、底の見えない恐怖と不安感に、おせんべいくんの心は支配されていました。
ガタガタと身体は震えだし、一人でいることに耐えられなくなりました。
あの老婆が、狂ったような目つきで、絵から抜け出して、自分のところまで追いかけてくるかもしれない。
呪い殺されてしまうかもしれない。
そんな恐怖心に、おせんべいくんの心はもたず、今にもバラバラに、砕け散ってしまいそうでした。
とにかく誰かと連絡をとりたい。
誰かに電話して、助けを求めなければ、自分は壊れてしまう。
おせんべいくんは、そんな妄想に取り憑かれていました。
しかし、仲の良い友達にも電話は通じず、普段働いており、家を空けがちだった両親に頼ることもできず、おせんべいくんは、一人、孤独と闘いながら、今にも壊れてしまいそうな脆い心を、必死で繋ぎとめようと、何時間も何時間も、耐えました。
続く