見出し画像

『おせんべいくんとぷりんちゃん』八話

八話

その時、ふいに、おせんべいくんにだけ聞こえる声で、そっと耳打ちしてくる女の子がいました。

「席、変わってあげるね」

それは、ぷりんちゃんでした。

ぷりんちゃんは、おせんべいくんの返事も待たず、おせんべいくんの隣に座るはずだった女の子のところへ行き、なにか小声で喋ったあと、すっと、その子と席を変わりました。

その女の子は、おせんべいくんの席からはずっと遠くの、後ろの角の席に座りました。

おせんべいくんは、なにがなにやら分からず、ただきょとんと一部始終を眺めるだけでしたが、どうやら、ぷりんちゃんが気を利かして、おせんべいくんの隣に座ることを嫌がっていた女の子と、なにか話し合いを行い、席を変わってあげたらしいことは、分かりました。

後から分かったことですが、ぷりんちゃんは、おせんべいくんの隣に座る変わりに、一番後ろの角だった自分の席を、その子に譲ったのでした。

もともとぷりんちゃんが座る予定だった角の席は、クラスの中で最も人気が高く、いつも取り合いになっている席でした。

窓際で一番後ろのため、先生に見つかりにくく、居眠りや落書きに、好きなだけ興じることが、できるからです。

その子にとっては、嫌いなおせんべいくんの隣の席より、その角の席の方が良いに、決まってます。

その女の子は、喜んでぷりんちゃんと席を入れ替わりました。

おせんべいくんは、自分のために、最高の席を惜しげもなく、手放したぷりんちゃんに対し、敬意と憧れ、そして、人間的な魅力を感じるようになりました。

そして、同時に、その女の子に指摘されたような、掃除の時間に、掃除をするフリをして、ずっと異性の尻を見続けているなどという、下衆い下心を、ぷりんちゃんに向けて抱いていた自分を、心から恥じました。

この子は、なんて素晴らしい子なんだ。

損得感情抜きで、物事を、判断し、行動に移すことができる、しかも、見返りを求めずに。

おせんべいくんは、両親や、学校を通して世の中というものに絶望感を抱いていましたが、ぷりんちゃんと出会うことで、この世の中も捨てたもんじゃないんだな、と思うことができました。

こうして、おせんべいくんの隣りには、ぷりんちゃんが座ることになり、おせんべいくんにとっては、夢のような、素晴らしい時間が過ぎていくことになりました。

続く