見出し画像

『おせんべいくんとぷりんちゃん』5話

5話

おせんべいくんは、ある日、園での運動会の片付けのとき、倉庫に用具をしまおうと、倉庫の扉を開けました。

片付け時間が押していたので、おせんべいくんは、焦っていました。

すると、そこに、運動場に白線を引くために使用する、石灰がびっしりついたスコップを持った年長組の男の子が立っており、勢いよく倉庫に入ろうとしたおせんべいくんと、衝突してしまいました。

その時、年長組の男の子がもっていたスコップが、おせんべいくんの目にぶつかり、石灰が目に入ってしまいました。

おせんべいくんは、短い悲鳴を上げ、あまりの激痛に、目を抑えながら、その場に倒れこみました。

年長組の男の子は、罪悪感から、おせんべいくんを手洗いの蛇口のところまで連れて行き、先生を呼びました。

おせんべいくんは、先生に大丈夫?と聞かれ、目を抑えながら、洗いながら、痛くて、どうしようもないんだけれど、なぜかおせんべいくんは、弱音を吐くことができませんでした。

大丈夫です。少し目に石灰が入っただけで、なんともありません。

おせんべいくんは、先生にそう答えました。

あらそう。じゃあ、先生いなくて大丈夫ね。先生は、他の子たちのお片付けの手伝いがあるから、なにかあったら呼んでね。

先生は言いました。

おせんべいくんは、本当は、先生にいて欲しかったけど、なにも言えない自分が悪いんだ、急いで倉庫を開けて、ぶつかった自分が悪いんだ、だから先生もあっちに行くし、誰も助けてくれないんだ、という気持ちが働き、本音をすっかり隠してしまいました。

こうして、おせんべいくんはまた、大人との決定的な溝のようなものを感じ、自分を肯定することができないまま、少しずつ、時間だけが過ぎて行きました。

こんなに自分は苦しんでいるのに、なんで誰も助けてくれないんだ、という気持ちと、全部自分が悪い、という気持ち、大人は自分のことばっかりで、他人のことなんか、これっぽっちも構わない生き物なんだ、という気持ちがごっちゃになり、おせんべいくんは、自分がいっそう、わけのわからない、アメーバとか、変な生き物のように思えてきました。

続く

https://note.mu/aspe/n/n72c72416019e
↑六話