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優等生の皮

仕事は僕にとって、テストである。

与えられた課題に対して、満点に近い数字をとればそれは、自己肯定につながる。

売上100%、本部評価点5つ星、後方監査100点。

小さい頃から、テストでしか自己肯定感を得られなかった僕は、ひたすら、得意科目を勉強した。

暗記、方程式、語呂合わせ。文法。

普通科クラスでは上位に入る成績。

テストの結果発表は、謙遜しながらも、内心はほくそ笑んでいた。

努力はしてない振りをする。

ざまあみろ、お前らが遊んでいる間、俺は猛勉強して、満点近い成績を出したんだ。

なんという浅ましき人間性。

クラス中に、響くおおーという声、どよめき。それを浴びて、聞いてない振りをして、優越感を得る、くずのような人間性。

その中に、かすかにだが、妬みと悪意に満ちた、チッという舌打ちのようなものを感じた。

それは、小さく、僕にしか聞こえないような声だったが、しかし、その声を確実に僕の鼓膜は捉えていた。

その後に続けて聞こえる、調子にのりやがって、という声、ひそひそ話す声。

二三人だろうか、男女数人の、陰口が聞こえる。

僕のあさましい考え、底辺の人間性に気がつき、僕のことを、気にくわないな、と思っているやつらがいることは、前々から分かっていた。

決して相手の方を見はしなかったが、腹の中で自分の悪口を言っている彼らを、殺すことが、できたら、どんなに晴れ晴れした気分になるだろう。

徹底的に八つ裂きにして、めった刺しにしてから、身体を、バラバラにして、海の底に沈めてやりたい。

心の底から、そういう暗い感情に僕は支配されていた。

決して真実を語らず、周りの目だった人間の噂や、悪口を好んで吹聴する彼らのような人種が、なぜ、この世界には存在するのだろう。

彼らは必ず群れている。

そして、自分より弱い人間、気に入らない人間を、探す。

ターゲットを決めたら、本人に聞こえるか聞こえないかのところで、わざとに悪口を言いふらす。

やり口はだいたい同じで、芸がない。

品もないから、言葉使いも悪い。

僕は彼らのことを、心から軽蔑し、嫌悪していた。

どうやったら彼らに、犯罪を犯さずに、一矢を報いることができるだろう。

ずっとそればかり考えていた僕は、ある一つの結論に達した。

喧嘩や体力では勝てない。

なら、勉強で負かしてやろう。

そう思いついた僕は、ひたすら勉強に打ち込み、テストの成績発表で満点をとることで、自分の凄さをやつらに示し、敵わないと思い知らせることで、仕返しをしようとした。

この場所にいられなくなるくらい、叩き潰してやろうと考えていた。

一位、100点、97点、2位、100点、2位。

それは社会人になっても続いている。

優等生脳というのだろうか。

粗野な言葉使いをする彼らのような人種を見下し、結果を出すことで、徐々に彼らを追い詰めていく。

優秀な自分を、演じることで、自己肯定を図り、同時に部下や上司、同僚に、コンプレックスや嫉妬心を抱かす。

それは、いわば、僕の処世術だ。

僕の自動人形だ。

それに絡め取られた人間は、強い劣等感を与えられ、自滅していく。

死神の呪いによって、魂を刈り取られる。

自分が、自分でなくなり、勝手に落ちていってくれる。

だが、それは諸刃の剣で、僕より優秀で(そんなやつらは世間にごまんといる)、敵わないと思った相手には、当然通じない。

それどころか、逆に、コンプレックスに苦しむのは、僕自身になる。

コンプレックスを武器にしてサバイバルしてきた僕は、逆に、コンプレックスによって殺されるのだ。

なんとも、笑える話ではないか。

さあ、優秀な人材よ、僕を殺してくれ。

劣等感の炎で、僕を焼き殺してくれ。

人生を、楽しませてくれ。

おもしろきことなき世を、おもしろく。