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『おせんべいくんとぷりんちゃん』2話

二話

おせんべいくんは思いました。

じぶんとたにんは、どこかが決定的に違うのかもしれない。

なにか致命的な、人として、一番だいじななにかが、ごっそりと、ケツラクしているのかもしれない。

だから、じぶんは、まわりとうまく馴染めないのかもしれない、と。

それをたしかめるために、おせんべいくんは、同じ園の友達と一緒に砂山を作っているときに、わざとに、砂山を手で崩してみました。

みんながどういう反応をするのか、試してみたのです。

すると、みんなは、じぶんに向かって、こう言いました。

「なんてことをするんだ、せっかくみんなでつくったのに。お前なんか、もう遊んでやらない」

おせんべいくんは、思いました。

やっぱり僕はみんなと違うんだ。僕がいたらまわりに迷惑をかけてしまう、僕は、みんなと同じように、遊んではいけないんだ。

それから、おせんべいくんは、休み時間も、ひとりで過ごすようになりました。

先生にどうしたのと心配されても、女の子や、他の友達から遊ぼうと誘われても、決して一緒に遊ぶことはありませんでした。

ただ、ひとり黙々と、砂山を作っては壊し、作っては壊しを繰り返しました。

ぼくはいけない子なんだ、ぼくがいたらみんなに迷惑がかかる。一言もしゃべらず、いやなことがあっても、ずっと我慢さえしてればいい。

そうすれば、みんなが困ることもない。僕一人が黙って遊んでいたらいいんだ。ぼくはたにんと違うのだから。

おせんべいくんの母親は、そんな我が子の様子を先生から聞かされて、なんとかしないといけない、自分の子供が園で馴染めないなんて、他の母親たちに知れたら、笑い者になる。

なんとかしなければ、と、思いました。

このとき、おせんべいくんの母親の頭の中には、おせんべいくんを本気で心配するという考えは、これっぽっちもありませんでした。

ただ、自分のことしか頭にありませんでした。

おせんべいくんは、そんな母親の愚かな考えを、手に取るように、敏感に察知していましたから、ひどく落胆しました。

ああ、じぶんは、おかあさんとも違うんだ。

じぶんはひとりなのだ。

だれにも、どこにもすがることはできない。

やっぱりぼくがおかしいんだ。おかあさんにまで心配されない僕は、どこかが壊れているんだ。

おせんべいくんの母親は、まわりに愛想笑いを浮かべていました。

なにもないんですよ、ふふふふ、こんないい子になってくれて、お友達ともうまくやってますしね、ふふ、また、うちの子と遊んでやってくださいね、ふふふ、よろしくお願いしますね。

おせんべいくんは、母親の体裁のために、遊びたくない友達とも、無理やり遊ばされました。

そして、いやな顔をされながら、それでもおかあさんのために、つくり笑いを浮かべながら、うわべだけ楽しそうに、おせんべいくんは、振る舞いました。

じっさい、心の中は、嫌悪感と、憎悪、拒否反応、そしてじぶんに対する自己嫌悪や、恥にまみれて、グズグズになっていました。

いったいこれはなんなのだろう。

この人たちは、なんで僕と遊んでいるんだろう。

楽しい、楽しくない?

楽しくない?楽しい?

ぼくはだれだ、おまえたちはだれだ?

おせんべいくんは、じぶんがわからなくなり、気分が悪くなってきました。

毎日毎日、遊びたくない友達と遊ばされ、話したくない母親と話し、帰りたくない家に、帰りました。

母親のように、愛想笑いだけが上手になっていきました。

〜続く

https://note.mu/aspe/n/n436134d37569