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おせんべいくんとぷりんちゃん 14話

14話

ある夜、おせんべいくんは、眠れなくて、外に散歩に出ました。

その日は、非常に強い勢いの台風がおせんべいくんの住んでいる地域に接近してきており、暴風警報が出ていました。

外は、ガタガタと窓ガラスが揺れ、割れんばかりの強風で、鋭い風の音が、空を切り裂いていました。

何だか胸騒ぎがしながら、真夜中の散歩に出たおせんべいくんは、ふと、バス停にだれかがおき忘れた、女性物の小さなバッグを、見つけました。

おせんべいくんは、子供心に、そのバッグには何が入っているんだろう、と思いました。

そして、気付いた時には、もう、そのバッグを手に取ってしまっていました。

少しの好奇心と、ひょっとしたらお金が入っているのかもしれないな、という妙な期待感に、おせんべいくんのこころは突き動かされていました。

警察に届けた方がいいかな、とか、おき忘れた人は、いまごろ困っているだろうな、とかいう気持ちは、みじんも沸き起こってきませんでした。

ただ、純粋に、中に入っているものが見たい、そして、それが自分にとって価値あるものなら、自分のものにしたい、と思いました。

人のものを盗む、という行為に、おせんべいくんは、なんの罪悪感も、なんのうしろめたさも、感じてはいませんでした。

人のものをとってはいけない、という概念そのものが、おせんべいくんには、おそらく、欠落していました。

人に見つかると、やっかいだな、とおせんべいくんは思ったので、そのバッグが置き去りにされている、バス停がある交差点から、少し離れたところで、携帯を見る振りをして、車の通りが少なくなるのを待つことにしました。

ほとんど車がいなくなったことを確認してから、すっと、おせんべいくんは、バッグを拾い上げ、足早にその場を去りました。

自宅にバッグを持ち帰ったおせんべいくんは、おとうさんとおかあさんが眠っているのを確認し、自分の部屋で、早速中身を開けてみることにしました。

札束がはいっていたらどうしようか、おとうさんとおかあさん、それに、弟にも分けてあげようか。

いや、両親はきっと警察に届けるよう、言うはずだ。家族はだめだ。もしかしたら、警察に届ける振りをして、自分達のものにするかもしれない。

「こっそり独り占めしよう。それがいい。」

そうだ、そしたら、隣の席のぷりんちゃんにも分けてあげよう。

きっと喜んでくれるはずだ。

もしかして、僕のことを好きになってくれるかもしれない。

そう考えると、おせんべいくんの心は、ウキウキと踊り、あふれんばかりの夢と希望で、恍惚感に満たされていきました。

・・よし。

おせんべいくんは、決心して、勢いよく、カバンのジッパーを開けました。

ジーッ・・



「ぎゃあッ!!」

ところが、中に入っていたのは、女の人の、生首でした。

また罰だ。

罰がやってきたんだ。

おせんべいくんは、震えながら、思いました。

つづく