コロナワクチン:世界のワクチン開発は?(2) ウィルスベクタータイプ

mRNAタイプのワクチンの影に隠れて、今ひとつ脚光が当たらないのが、ウィルスベクタータイプのワクチンです。ウィルスベクター型とは、別のウィルスを無害化して用いるものです。イギリスに本拠地を置くスウェーデンとの多国籍企業アストラゼネカ製、アメリカ大手製薬のジョンソンエンドジョンソン製、それにロシア製ワクチンのスプートニクVがそれにあたります。スプートニクは液体輸送時にはマイナス18度の冷凍管理を必要としますが、アストラゼネカ製とジョンソン製は2度から8度の冷蔵で管理できます。また、多くのワクチンが2度の接種を必要とするのに対し、ジョンソン製は1回の接種で済むことから、幅広い使用が期待されています。

アストラゼネカ製

オックスフォード大学がアストラゼネカ社と共同開発したのが、世界で最初にリリースされたウィルスベクター型ワクチンです。2021年1月4日にイギリスで接種が開始された後、同月インド、EUにおいて承認、使用が始まりました。その効果は充分といえ、イギリス型変異種に苦しみロックダウンを強いられていた当時のイギリスの救世主になっています。

一方で、件数は限られているものの、副作用として血栓ができるとの懸念から、EUでは一時使用を中止し、使用年齢を高齢者に制限するなど、安全性への懸念は払拭しきれていません。現在は、副作用による危険よりも感染抑制効果の方が大きいとして、接種再開に向かっています。しかし、アストラゼネカ製ワクチンの接種をこれまで積極的に進めてきたイギリスでも、30歳以下には別のワクチン使用を推奨し、すでに始まっていた6歳から17歳までの若年層への治験を停止しています。

日本では、年間9000万回超を国内で生産する準備を進め、現在承認申請中です。一方、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、これまでのところ承認していません。そのなかで、すでに確保したアストラゼネカ製ワクチン5000万回分を他国に放出するという発表がありました。

ジョンソンエンドジョンソン製

ファイザーと並ぶ製薬大手のジョンソンエンドジョンソン社開発のワクチンは、1回の接種で充分な効力を発揮し、様々な変異種にも効果的との治験結果から世界的に期待されているワクチンです。2021年2月にアメリカで承認されると、3月にはEUでも承認を受け、すでに使用が始まっています。

一方、アストラゼネカ製同様、ごく少数ではありますが、血栓ができるという副作用が報告されました。これを受けてEU、アメリカでは、使用を一時停止。その後それぞれの当局により使用再開が認められましたが、ラベルには血栓に関する警告が追加されました。また、専門家の多くは、効果がリスクを上回るとしていますが、副作用の報告が多かった50歳以下の女性が、アメリカではリスクグループとして指定されています。

日本でも治験は行われているようですが、これまでのところ承認申請はなされていません。

ところで、mRNAワクチン(ファイザー製、モデルナ製)の副反応の大きさが話題ですが、ジョンソン製ワクチンの接種による副反応は軽微であるとのことです。現在アメリカでは、ファイザーが人気を博し、モデルナがそれに追従するという状況になっていますが、血栓の問題さえ解決すれば、ジョンソン製ワクチンは魅力的な存在になるでしょう。

スプートニクV

ガマレヤ国立疫学微生物学研究所により開発されたロシア製ワクチンがスプートニクVです。ロシアでは昨年夏に承認される拙速ぶりから、懐疑的に見られてきたワクチンでもあります。しかし、今年2月に医学ジャーナル『ランセット』誌が、90%を超える有効性を確認しています。また、ロシアで380万人を対象にした治験結果では、97%を超える効果があったとのことです。

加えて、本年2月にアストラゼネカ社が自社製ワクチンとスプートニクVを組み合わせること(ミックス・アンド・マッチ)で、より効果的なワクチン接種を目指す治験を開始しています。スプートニクVの効果が一定度裏付けられた結果といえるでしょう。一方で、すでに世界60カ国で承認されているスプートニクVが、ブラジル当局により承認を得られなかったというニュースが飛び込んできています。供給側が当局を名誉毀損で訴えるとの報道もあり、なかなかすっきりしないのが、スプートニクVを取り巻く状況です。

副反応、副作用については、ほかのどのワクチンにも見られるように、接種部位の腫れや痛み、また倦怠感などの軽微な副反応はあるものの、重篤な副作用はこれまでのところ確認されていないとのことです。

ウィルスベクター型ワクチンについて

冒頭で簡単に触れましたが、ウィルスベクター型とは他のウィルスを改変し、これを介して人体に免疫をつくるものです。ベクターとは、いわゆるベクトル=方向のことで、遺伝子等を運ぶ役割を指します。

アストラゼネカ製の場合は、チンパンジーから採った風邪ウィルス(アデノウィルス)を弱体化し、これをコロナウィルスに偽造することで効果を得ています。

ただし、このタイプのワクチンにはひとつ懸念される点があります。それは、運び屋であるベクターに対して、人体が免疫をもつ可能性があることです。つまり、ベクターを人体が受けつけないがために、コロナウィルスに対する免疫が付かなくなるわけです。1回の接種で済むならば問題はないのですが、繰り返しこの接種を続けていくと、ベクターに対する免疫ができてしまい、ウィルスに対する免疫を獲得できなくなるかもしれません。

一方で、ジョンソンエンドジョンソン社CEOアレックス・ゴルスキーは、今後コロナワクチンの接種が毎年繰り返されることを想定しています。今のところ、この免疫に関する問題への明快な答えは得られていないようですが、異なるワクチンを組み合わせることで対処できるという見方もあるようです。先に触れたアストラゼネカ製ワクチンとロシア製ワクチンのミックス・アンド・マッチはその可能性を探るものといえます。ミックス・アンド・マッチの安全性や有効性については、現在進行中の治験結果を待つ必要があります。


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