コロナワクチン:世界のワクチン開発は?(3) 不活化ワクチン

イスラエル、イギリス、アメリカとワクチン接種が進む国では、経済正常化の動きが加速つつあります。これらの国で使われているのは、ファイザー製、モデルナ製の mRNAタイプ、アストラゼネカ製、ジョンソン・エンド・ジョンソン製のウィルスベクター型ワクチンですが、世界全体の感染抑制を考慮に入れれば、第3のワクチンである不活化ワクチンの存在を見逃せません。「第3」とは言いましたが、不活化ワクチンはインフルエンザや日本脳炎等の予防に使われる伝統的なタイプです。病原体、すなわちこの場合はコロナウィルスを殺して無害化して接種させることで、免疫をつけます。中国のコロナヴァックとシノファーム、そしてインドのコヴァクシンがこれにあたります。

コロナヴァック

北京に本拠を置くシノヴァック社が製造する不活化ワクチンが、コロナヴァックです。当初はmRNA型の開発にも関心を示したと言われる中国ですが、最終的により確実な伝統的手法を選んだようです。その利点は摂氏2度から8度という冷蔵で保管が可能であること、副反応が出にくいとされることです。一方、生ワクチンと違い、不活化ワクチンは体内でウィルスを増殖させるわけではないので、免疫が付きにくいのが欠点とされます。

実際、多くの国民がシノヴァック製ワクチンを打っているチリでは、1度の接種ではほとんど効果がないというショッキングな報告がありました。また、中国当局も、このワクチンの有効性がそれほど高くないことを認めたとのAP通信の報道があります。

それでも、チリでの実証結果では、2度の接種後には50%強の効果率があったことが確認されています。これはmRNA型の90%強の効果率に比べて、明らかに劣るものではありますが、より多くの人々が接種し集団免疫を獲得することで、一程度の効果が得られるレベルではあります。ちなみにアメリカ食品医薬品局(FDA)は、ワクチンの緊急承認にあたり効果率50%を最低基準値に定めています。

感染拡大が続くブラジルで、成人市民のほぼ全員がコロナヴァックの2度接種を済ませたというセハナでは、コロナ感染による死者がゼロになり、重症化例も激減しています。同時に、新規感染者も減少傾向にあることから、現時点では断定できないものの、このワクチンがブラジル型変異に対しても一程度有効である可能性は高いといえます。

シノファーム

中国の国営企業シノファーム社が製造するのも不活化ワクチンです。中国本国以外でも、アラブ首長国連邦(UAE)やアルゼンチン、インドネシアですでに緊急使用が認められています。その効果については、世界保健機関(WHO)が一部のデータの信頼性を疑問視しつつも、認めているところで、UAEでは2度の接種で80%を超える有効性が示されているようです。5月3日には、フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテが1回目のシノファーム接種を済ませたとの報道がありました。

すでに5000万回分のワクチンを輸出したとするシノファーム社は、今年中に10億回のワクチン供給を目指すとしています。その効果が本当に高いのであれば、世界最大のワクチン供給元となる可能性をもっており、早期のコロナ収束に大きな貢献を果たすことにもなります。

中国製ワクチン、および中国でのワクチン接種状況等については、後日改めてレポートしたいと思います。

コヴァクシン

アストラゼネカ製ワクチン、コヴィシールドを現地生産しているインドですが、1966年創業のバーラト・バイオテック社がインド初の国産ワクチンの開発に成功しています。これもまた不活化ワクチンで、2度の接種を前提とし、摂氏2度から8度の冷蔵保管が可能です。バーラト社の発表では、25800人が参加した第3床臨床試験時の効果率は81%となっています。

現在世界で最も厳しい感染状況に陥っているインドでは、国産ワクチンの生産が何よりも大切なことですが、果たしてコヴァクシンはインド型変異株に効くのでしょうか。インド医学研究会議所(ICMR)は、コヴァクシンがイギリス型、ブラジル型、南アフリカ型に加え、インド型二重変異に対しても有効であるとの見解を示しています。

また、バーラト・バイオテック社のアメリカ・パートナー企業オキュジェンは、合衆国でのコヴァクシン緊急使用申請を準備しているとのことです。実際の効果は、接種状況から判断していくよりほかありませんが、充分な効き目が示されることを期待したいと思います。






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