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仮面ライダー龍騎から考える、筆者にとってのクトゥルフ神話TRPG秘匿4HOシナリオー物語の構造と展開方法ー

「各HO/登場人物が請け負う役割」「特定のNPC/他の登場人物たちへのフォーカス」「各HOに関わる情報/各登場人物に関わるエピソードの開示方法」「シナリオ/物語全体の真相判明までの流れ」───2作品の共通点から、クトゥルフ神話TRPG秘匿4HOシナリオにおける、物語の構造と展開方法について考察する

第1話:自己紹介と注意事項

 初めましての方は初めまして、ご存知の方はこんにちは、眠り熊と申します。
 本投稿はクトゥルフ神話TRPG(以下CoC)での出来事から仮面ライダーを視聴するようになった筆者が、仮面ライダー龍騎(以下龍騎)を見て「これCoCの秘匿4HOシナリオじゃん‥‥‥」と思ったことをきっかけに、いったい何故そのような発想に至ったのかを考察することで、筆者にとってのCoC秘匿4HOシナリオとは何か、を考える投稿になります。
 すげー真面目な文章で書いてますが要するに「龍騎‥‥‥すごかった‥‥‥」って感想文と「なるほど自分が持つ秘匿4HOシナリオのイメージってこんな感じなんだな」っていうもののまとめです。Twitterで流すには長過ぎた。文体は手癖です。

そのため本投稿を読む際は以下の点をご理解下さい。

・「仮面ライダー龍騎」「仮面ライダー龍騎SPECIAL」のネタバレ(致命的なネタバレは一応避けました)
・筆者が視聴したことのある仮面ライダーは以下の四作品のみ
仮面ライダーゴースト
仮面ライダーエグゼイド
仮面ライダー龍騎
仮面ライダーオーズ
(仮面ライダー555(本投稿を書き始めた後から視聴している))
・筆者が既読・通過・KPをしたCoC秘匿4HOシナリオは約15シナリオのみ
※本投稿にはCoCシナリオのネタバレはありません

 なのでここに書いてある内容は10割くらい「いやいやこういうのもあるから!」という反論があると思われますが、今回は筆者の主観をひたすら語る投稿となります。お楽しみください。

第2話:龍騎とクトゥルフ神話と秘匿4HOシナリオ

 さて、この投稿を読んでいる人は、「龍騎」「クトゥルフ神話」「CoC」のいずれかに興味があるものの、3つすべてを知っている人はそこまで多くないのではないだろうか。いたらネット上になるが筆者と握手して欲しい。
 併せて今回メインで語られることとなる「秘匿4HOシナリオ」は、後述するが厳密な定義が存在しない。そのためまずはじめに、この4つがどのようなものであるかをかいつまんで説明する。

仮面ライダー龍騎とは

 仮面ライダー龍騎とは、『2002年2月3日から2003年1月19日までに全50話が放映された、東映制作の特撮テレビドラマ作品、および作中で主人公が変身するヒーローの名称である』(Wikipedia)。13人の仮面ライダーが、自身の願いをかなえるべく、ミラーワールドと呼ばれる世界に生息するミラーモンスターと契約したライダーたちが、ライダー同士で争うライダーバトルを繰り広げていく。キャッチフレーズの「戦わなければ生き残れない!」は、ライダーと戦わなければ自身が殺害されるというバトルロワイアルと、ほかのミラーモンスターを倒し自身が契約したミラーモンスターに食べさせなければいずれ喰い殺されるという、龍騎の重要な要素2つを見事に表している。 
 物語は人々が何の前触れもなく失踪する連続失踪事件を、主人公・城戸真司が記者として追うところから始まる。行きかう人々の噂、忽然と消える人びと、徹底して覆われた窓ガラスや鏡、そして鏡の中から現れる怪物と、都市伝説や伝奇的なホラーを思わせる要素が多く存在し、登場人物たちはライダーたちと対立と友好を深めながら、ライダーバトル、それを先導する神崎史郎、そしてミラーワールドそのものの謎にも迫っていくこととなる。

クトゥルフ神話とは

 クトゥルフ神話とは、20世紀に執筆された小説たちを元に作られた架空の神話である。太古の昔に地球を支配していた『旧支配者』と呼ばれる強大かつ悍ましい存在が現代に蘇ることが共通のテーマとなっており、『宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)』と呼ばれる要素が特色として挙げられる。この宇宙的恐怖という単語は『無機質で広漠な宇宙において人類の価値観や希望には何の価値もなく、ただ意志疎通も理解も拒まれる絶対的他者の恐怖に晒されているのだという不安と孤独感』という意味を内包しており、小説でも宇宙的恐怖に蹂躙される人々が描かれることが多い(Wikipedia)。

CoCとは

 CoCとは、そんなクトゥルフ神話の脅威にごく普通の人々が立ち向かうTRPGである(クトゥルフ神話TRPG公式サイト)。アメリカのゲーム会社・ケイオシアム社が1981年に製作し、日本では1986年から翻訳版が販売されている。なお、TPRGの説明はここでは割愛させて頂く。
 立ち向かう、とここでは記載されているが、基本的に宇宙的恐怖や旧支配者(以下神話的存在)は極めて強力であり、ごく普通の人々であるプレイヤーキャラクター・探索者はルール通りに戦う場合、ほぼ勝てないどころか接触した時点でキャラクターが死亡することもある。そのため探索者は「そもそもそうした存在が復活しないようにする」か、「探索を行い、どうにかして対処出来る方法を探す」ことを求められることが多い。但し探索者にAFや特殊能力が与えられ、神話的存在を倒すことを目的とするシナリオも勿論存在する。

秘匿4HOシナリオとは

 プレイヤー数が4人で固定され、秘匿HOと呼ばれる事前情報が各PLに配布されるシナリオのこと。PLは秘匿HOの内容を確認してからキャラメイクを行う。秘匿HOに記載される内容はシナリオによって大きく異なるが、大まかに「そのシナリオで発生する事件に関わる事柄と、その事柄にPCがどのように関わっているか」「シナリオにおいてそのPCに与えられるバフ/デバフ/特殊能力」のどちらか、あるいは両方が記載されていることが多い。
 秘匿HOに記載された内容は、セッションまでは他のPLに対し秘匿とすることが求められる。セッション中に開示するか否かはPLの判断と趣味に委ねられるケースが大半だが、シナリオによっては特定条件を満たすまで秘匿し、条件を満たし次第開示するよう伝えられる。
 CoCのルールブックに秘匿HOのルールは記載されておらず、公式による定義・裁定は存在しない。そのため本投稿においては上記の定義で議論する。

雑談1:強力なCoCの銃火器
 CoCの銃火器は異様に強い。単純なダメージ量が素手や他の武器と比較して大きいのに加え、貫通というダメージが2倍になる追加効果がほぼ無条件で使用出来、とどめに戦闘前に銃火器を構えている場合、先制して通常ラウンドに追加で攻撃が可能(銃火器の先制ルール)であるためだ。人間相手であれば(一部の神話的存在ですら)2撃当てればほぼ無力化することが出来る武器を1ラウンドに複数回使用出来ると言えばその異様さが伝わるだろうか。
 このシステムが製作されたアメリカでは、銃がより身近である。憲法修正第2条にて銃火器を所持する権利が保障されているこの国では、割と最近までスーパーで銃弾が買えたし、多分今でも買うことが出来る。その威力と脅威を、製作者たちは良く知っていたのだろう。
 それにしたって銃火器の威力に対する信頼度が高過ぎるだろと思わなくはないが、そんな強い銃火器のダメージを最小化、あるいは完全無効化してくるのがCoCの神話的存在である。

第3話:四つの共通点

 冒頭でも語った通り、本投稿は「何故筆者は龍騎を視聴し、CoCの秘匿4HOシナリオを想起したのか?」を考察することにより、「筆者にとってのCoC秘匿4HOシナリオとは何か」を考えることが目的である。龍騎を見て秘匿4HOシナリオを思い出したということは、その2つに共通点があるということに他ならない。
 真っ先に共通点として挙げられるのは、龍騎の都市伝説や伝奇的ホラーの雰囲気と、CoCの特色である宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)だろう。特に仮面ライダー龍騎SPECIALの放送されなかったエンディングは、『ただ意志疎通も理解も拒まれる絶対的他者の恐怖に晒されているのだという不安と孤独感』を彷彿とさせるものだった(演技や周囲の反応も含めてめちゃくちゃ良かった)。
 だが共通点がそれだけならば、わざわざ秘匿4HOシナリオに限定する必要はない。それはCoC全般に該当するものだからである。そこでここからは、龍騎と秘匿4HOシナリオの4つの共通点、「各HO/登場人物が請け負う役割」「特定のNPC/他の登場人物たちへのフォーカス」「各HOに関わる情報/各登場人物に関わるエピソードの開示方法」「シナリオ/物語全体の真相判明までの流れ」について、それぞれ説明していく。

第4話:各HO/登場人物が請け負う役割

 CoCのシナリオでは、前提として神話生物及びその狂信者によって事件が発生する、あるいは発生しそうになっている。その事件に対しプレイヤーキャラクターである探索者は、その事件の真相や、事態を収拾するための解決策を「探索」することが主目的だ。
 秘匿4HOシナリオでは、HOによってこの事件へのかかわり方を定義されることが多い。具体的には以下の4パターンに分けられる。

1. 事件に対し主体的に探索することを求められるHO
2. 事件の被害者陣営と深くつながっているHO
3. 事件の加害者(黒幕)陣営と深くつながっているHO
4. 第三勢力として異なる視点から事件に関わるHO

 ここからは各HOについて、2&3→1&4の順に説明する。

2&3:被害者と加害者/事件における当事者たち

 事件が発生する以上、そこには事件が起こるきっかけとなった加害者と、事件において被害を被る被害者が存在する。秘匿4HOシナリオにて配布されるHOのうち2つは、この被害者陣営と加害者陣営、つまり事件の当事者たちに大きく関わるHOであることが多い。
 無論、事件によっては一口に「こちらが被害者」「こちらが加害者」と言い切れないケースも存在する。事件が複雑になればなるほど被害者と加害者の関係は複雑化し、場合によっては同一陣営が被害者と加害者の両側面をもつことも多い。特に秘匿4HOシナリオはシナリオが複雑化、長期化することが多く、必然的に切り分けは難しい。だが今回は筆者の主観を述べる話なので、やや乱暴ながら切り分けられるという体で話を進めたいと思う。

 被害者陣営と大きく関わるHOは、自身が被害者陣営に所属している、あるいは自身が事件の被害者であったという要素が含まれる。例えば被害者が自身の血縁や、大切な人であるパターンだ。被害者は事件に巻き込まれた結果、自身も神話生物の影響によって他者に危害を加えており、それがシナリオ内で発生する事件の一部になっていることもある。

 一方加害者(黒幕)陣営と大きく関わるHOは、自身が加害者陣営に所属している、あるいは自身が加害者(黒幕)であったという要素が含まれる。ここでは加害者(黒幕)と書いているが、冒頭に「事件のきっかけとなった」と書いているように、故意ないし直接的に事件を起こしていないパターンも含まれる。特に探索者自身が加害者(黒幕)であるパターンでは、無意識あるいは偶然その事件を起こしてしまったパターンが大多数を占めている。

 龍騎に登場する神崎優衣と秋山蓮は、まさにこの加害者と被害者のHOに当てはまる。
 神崎優衣はライダーバトルの黒幕である神崎史郎の妹であり、人々を害するミラーワールドとモンスターにも深くかかわっている。だが当人にその自覚はなく、話が進むにつれてそのつながりが明らかになっていく。
 秋山蓮は自身の恋人である小川恵里が神崎史郎の実験にまきこまれ、彼女をモンスターから守り、昏睡状態から回復させるためにライダーバトルに参戦する。ライダー同士の殺し合いを肯定し、そのことで城戸真司と対立しながらも互いの理解を深めていくが、元をたどれば純然たる被害者である。

 特筆すべきは、龍騎の登場人物たちも、秘匿4HOシナリオの探索者達も、当事者であったとしても真相の全容を知らないという点である。彼らは当事者でありながら真相を知らないが故に、事件へ自発的に関わることとなる。

1&4:王道と邪道/二つの第三者陣営

 上記二つが当事者であるならば、ほかの二つはある意味第三者の視点から事件に関わることになるHOである。ただし、事件に対し主体的に探索することを求められるHOと、第三勢力として異なる視点から事件に関わるHOでは、事件から受ける印象が大きく異なる。

 主体的に探索することを求められるHOでは、真正面から事件を調べることになる。HOには事件を主体的に調べられるよう、調べるきっかけが記載してあったり、事件を調べるのに自然な職業・立場・性格が指定されている事が多い。加えて、自分自身の出生やコンプレックスなど、内的な要因が事件に関わるきっかけとなっていることもある。こうしたきっかけのひとつとして自身や自身と関係の深い人間が事件の影響を受けていることはあるが、加害者陣営に属することは少ない。身近な異変や自分について調べ始めた結果神話的存在の関わる事件に遭遇してしまうという、オーソドックスかつ王道の探索者になる。

 一方で第三勢力として異なる視点から事件に関わるHOでは、「事件解決以外の利益」を求めて事件を調べることになる。利益は物質的・精神的なものなどさまざまであり、シナリオによっては「本筋の事件に関わる別の事件の解決」もこれに該当するだろう。そのため、探索者のバックグラウンドが他の探索者と大きく異なるパターンが多々あり、「ひとりだけ掲載誌が違う」と筆者は表現している。またそうしたバックグラウンドを持つことから、必ず事件に関わるよう、他のHOにはない制限をかけられているパターンも存在する。

 龍騎の主人公である城戸真司はまさに主体的に探索することを求められるHOに該当する。ミラーワールドや起こった事件を調べるという目的がある記者という職業に加え、問題があれば首を突っ込まずにはいられない性質は、求められていなくともあらゆる違和感を調べる必要がある探索者に不可欠な性質だ。そして彼は他のライダーたちの願いやライダーバトルの真実を知るにつれ、深く苦悩しながらも戦いに挑む。この苦悩は彼自身のもうひとつの性質によるものであり、彼がそれを乗り越えるシーンは必見である。
 また第三勢力として関わるHOには、北岡秀一が該当する。自身の願いのためにライダーバトルに参加する、という関わり方は他のライダーと代わらないが、北岡秀一はライダーの中で唯一自身の寿命というタイムリミットが存在する。他のライダーは最悪願いをかなえる事を放棄し、襲ってくる敵に対処するだけで生き残れるが、彼はことさら積極的に戦わなければ生き残れないのである。

 このように、龍騎に登場するメインキャラクター達の立ち位置は、秘匿4HOシナリオのHOに含まれる要素と酷似している部分が多い。龍騎では他にも魅力的なキャラクターが大勢登場するが(筆者は東條悟と浅倉威が特に好きだ)、この4人が初期に登場したことにより、筆者は「この構図見たことあるな……?」という印象を受けたと結論している。

雑談2:東條悟とCoCのPvP
 第三勢力という言葉を字義通り使うなら、香川英行と東條悟も「第三勢力として関わるHO」に当てはまるだろう。ミラーワールドという事件と黒幕である神崎史郎と、城戸真司や秋山蓮とは異なるアプローチで関わるためだ。だがここでその名前を挙げなかったのは、東條悟がPCの場合、神崎優衣とのPvPが不可避だからである。
 基本的にCoCはPvPを想定したシステムになっていない。探索者が単純に脆いことに加え、極めて強力な神話的存在を前に人間同士で争っている余裕はないためだ。勿論、想定していないことが出来るのがTRPGという遊びの魅力である。PvPは可能であるし、事実そうした要素を含むシナリオは枚挙にいとまがない。だがそうしたシナリオでも、神話的存在を前にした場合は一時的に協力することが求められる。
 神崎優衣と東條悟の場合、東條悟のミラーワールドという事件へのアプローチ方法が原因で、神話的存在に該当するミラーワールドを前にしたとしても協力が出来ない。そのため東條悟は探索者とはならず、NPCに該当することとなる。

第5話:特定のNPC/他の登場人物たちへのフォーカス

 主人公である探索者やライダーたちの立ち位置や構図に加え、それ以外の登場人物たちに対するフォーカスの仕方にも、龍騎と秘匿4HOシナリオでは似通う部分がある。秘匿4HOシナリオでは特定のNPC、龍騎ではライダーと特に深くかかわりのある登場人物たちにフォーカスすることで、個々の人物像に厚みを増し、物語自体の奥行きを深めているのだ。

 龍騎ではライダーたちに加え、ライダーと深くかかわりのある人物たちの描写に多く時間が割かれている。城戸真司の勤めるOREジャーナルの面々や、神崎優衣の叔母である神崎沙奈子、北岡秀一の秘書である由良吾郎といった人物たちがそれぞれの立場からミラーワールド、そしてライダーバトルに徐々に関わっていく姿は、龍騎の世界観を奥深いものにしている。
 代わりに、龍騎ではゲストキャラクターに該当するキャラクターがほぼ存在しない。ほかのライダーシリーズでは各話にことなるゲストキャラクターとエネミーが登場し、ゲストキャラクターとライダーが深く関わり、エネミーとの戦闘を通じてストーリーが展開していくことが多い。だが龍騎において、このゲストキャラクターに該当するのは浅倉威のエピソードで登場した少女くらいではないだろうか。他にもモンスターに襲われる被害者たちは数多く登場するが、彼らがライダーたちと深くかかわることは少ない。ゲストキャラクターの有無は単に平成一期と二期の違いの可能性もあるが、龍騎でゲストキャラクターは用いられていない、という部分は間違いないと認識している。

 一方秘匿4HOシナリオでは、各HOごとに縁の深いNPCが存在するケースが多い。各HO傾向を見れば分かる通り、探索者達は自身に関わりのある相手をきっかけに事件に巻き込まれていくことが多いため、必然的に縁深いNPCが生まれるのである。シナリオによっては公開情報として「このNPCはこのHOの担当NPCである」ことが明記されていることもある。
 こうした縁深いNPCたちは、シナリオの大きな比重を占めていることが多い。各HOごとに1人とするとそう多くはないが、物語において背負う役割、登場頻度、または探索者に対する影響の大きさなど、さまざまな形でシナリオの中核、その大部分を担っている。そのため、プレイヤーからそのシナリオに対する印象においても、こうしたNPCが占める割合は大きい。NPCに対する印象とシナリオに対する印象はニアリーイコールで結ばれうる、まで言ってしまうと過言だが、数多の参考資料(ふせったー)を確認する限り、全く見当違いでもないだろう。そうしたNPCと探索者達が深くかかわれる舞台をシナリオが描くことで、探索者/プレイヤーはよりシナリオに深くかかわることになる。

雑談3:平成一期と筆者の固定観念
 これを書き始めた際、筆者はまだ平成一期の仮面ライダーを龍騎しか見ていなかったため、ゲストキャラクター不在の理由を「ライダー同士が戦う」というコンセプト上、ライダーと関係者以外のキャラクターを投入する余地がなかったのではないだろうか、と考えていた。が、これを書いている間に555の配信が始まり、単にこれ平成一期と二期の違いなのでは? となったため、余談にて記載している。
 実を言うと筆者は幼少期、ちらちらと平成一期を見ていたらしい(OPやSEに異様に聞き覚えがあるが内容は全く覚えていない)のだが、ある時を境に「仮面ライダーは全体的に雰囲気が重々しく苦しい展開が続くドラマ」という固定観念を持ち、そのまま見なくなっていた。そのため、CoCがなければ改めて仮面ライダーに興味を持つことも、全ての仮面ライダーがそうではないと認識を改めることもなく、こんなに面白い作品を見逃したままだっただろう。

第6話:各HOに関わる情報/各登場人物に関わるエピソードの開示方法

 各HOがどのように事件へ関わっているのか、あるいは登場人物に関わるエピソードが、当人たちのいない場所で確認出来るという点でも、龍騎と秘匿4HOシナリオは似通っている。

 前述した通り、CoCのルールブックに秘匿HOは存在せず、ほかの探索者の秘匿に記載された内容を知りたい場合の判定ルールなども決まっていない。そのため秘匿4HOシナリオでは、こうした秘匿に繋がる情報、あるいは秘匿内容自体を、誰もが探索可能な場所に配置することが多い。自身の秘匿に繋がる情報を確認することで探索者は自身と事件の関係性を明らかにしていき、またほかの探索者達もそうした情報を得ることで事件の真相を明らかにしていく。

 適当な例を挙げよう。ここに「被害者が何故か全員白紙のカードを持っている連続殺人事件」のシナリオがあり、秘匿内容はそれぞれ「A. 貴方はこの事件を取材する記者である。最近鏡を見ると化け物が見える」「B. 貴方は自身の大切な人がある日突然行方不明になった」「C. 貴方は自身の大切な人が『鏡に気を付けろ』と言い残して失踪した」「D. 貴方は貴重な遺産を蒐集する組織に属しており、先日遺産のひとつであるモンスターを封印したカードデッキを盗まれたためそれを取り返す必要がある」とする。
 この4人がとある空き家に向かったところ、こんな手記があった。

「ここはどこだろう。辺りの文字が全て反転している。Bのためにも家に帰らないといけない。さっきすれ違ったひとは『鏡に気を付けろ』といっていたけれど、どういうことだろう。それにこの部屋にはカードが何枚も落ちている。不気味だから触っていないけれど、確認したほうが良いだろうか」

 この情報はそれぞれ、『辺りの文字が反転している』は秘匿A、『Bのためにも家に帰らないといけない』は秘匿B、『あの子を守るためだ』は秘匿C、『カードが何枚も落ちている』は秘匿D、そして事件の真相に繋がるものとなっている。

 龍騎で頻繁に登場する聖中央病院、清明院大学、そして神崎優衣の旧家は、まさにそうした『誰もが探索可能な場所』と極めて似た役割を作中で担っている。秋山蓮の恋人が昏睡状態にあることを秋山自身は開示していなかったが、大学の情報、そこから被害者の情報を得ることで、神崎優衣はその事実にたどり着いた。また城戸真司は神崎優衣の旧家を調べることで、神崎史郎と接触している。重要な場所を調べることで、ほかの登場人物たちのバックグラウンドが明らかになっていくストーリー展開は、ミステリーや伝奇物、そしてCoCの秘匿4HOシナリオ展開と共通している。

雑談4:HO番号とその内容
 適当に挙げた例では、Aが「事件に対し主体的に探索することを求められるHO」、Bが「被害者陣営と深くつながっているHO」、Cが「加害者(黒幕)陣営と深くつながっているHO」、そしてDを「第三勢力として異なる視点から事件に関わるHO」としているが、たいていの秘匿4HOシナリオはアルファベットではなく、HO1、HO2、HO3、HO4というように数字が割り振られている。これらは入力時の利便性から「ほいち」「ほに」「ほさん」「ほよん」と記載されることが多い。
 どの数字にどのHO内容が割り振られているのかはもちろんシナリオによって異なるが、CoCの秘匿4HOシナリオのみならず、HOが存在するシステムのシナリオにおいてこの割り振りには一定の法則が垣間見える。スモールナンバー、ラージナンバーといった言葉が一般的か筆者には分からないので名称だけ言及するが、つまりこの法則はCoC秘匿4HOシナリオ固有のものではなく、既に存在していた法則にCoC秘匿4HOシナリオが影響されたものなのだろう。
 ただしこうしたメタ読みを避けるため、あるいはシナリオの流れなどから、順番がシャッフルされているパターンもごく普通にある。

第7話:シナリオ/物語全体の真相判明までの流れ

 秘匿4HOシナリオと龍騎では、シナリオ/物語全体の真相の明かされ方が、3つの点から似通っている。「登場人物たちは文献、取材、あるいは自身の記憶から情報を得る」「情報開示のタイミングが視聴者/プレイヤー・登場人物の間で同一」そして「情報開示の手法として特定キャラクターのみ対象の参加強制型イベントが存在する」の3つだ。ここではこの3点について説明する。

 「登場人物たちは文献、取材、あるいは自身の記憶から情報を得る」は文字通りである。龍騎の場合、登場人物たちが積極的に取材や資料の確認といった調査、あるいは探索を行うことで新たな事実が発覚する展開が多い。こうした文献を当たる探索は、秘匿4HOシナリオのみならず、CoCではほぼ必要不可欠といっていい要素だ。他のライダーシリーズの場合、エネミーやゲストキャラが登場し、その過去や新事実を語ることでストーリーが展開するシーンが多い印象があった。そのためこうした文献を当たる姿は、龍騎からCoCを想起する一因だったと思われる。

 次に「情報開示のタイミングが視聴者/プレイヤー・登場人物の間で同一」についてだが、龍騎の場合、話の核心が視聴者に明かされるタイミングと、登場人物たちに明かされるタイミングがほぼ同一だと断じて良いだろう。これは筆者が龍騎の前に見ていた仮面ライダーが「かなり序盤に視聴者にのみ衝撃の事実が明かされる」パターンであったことも影響しているが、龍騎の特色として筆者の目には映った。そしてCoC、ないしTRPG全般はキャラクター/プレイヤー間の認識齟齬を埋めるため、また没入感を高めるため、キャラクターが初めて情報を知るタイミングでプレイヤーも情報を知ることが多い。視聴者とプレイヤーを同じ立ち位置に置くのはやや乱暴ではあるが、物語を楽しむ目線という意味では同一だろう。

 最後に「情報開示の手法として特定キャラクターのみ対象の参加強制型イベントが存在する」だが、これは自発的な探索行動によらない情報開示全般を指す。龍騎で言えば神崎優衣が自身の旧家に赴き、調べ物をしたところで突然過去の記憶を思い出すシーンなどがこれにあたる。この時、同行していた秋山蓮はなにも思い出しておらず、神崎優衣のみが記憶を思い出している。同様に秘匿4HOシナリオでも、特定のHOを持つ探索者が特定の情報・アイテムに触れることで、突然過去の記憶を思い出し、事件に関わる情報が開示されることが多々ある。この場合でも、ほかのHOを持つ探索者には情報が開示されない。同じ場所で同じ行動を行っている人物たちが、異なる情報を得るというシーンは、龍騎と秘匿4HOシナリオで共通する部分だ。

 上に挙げた3点のうち、前半の2つはCoCシナリオ全般で共通だが、「情報開示の手法として特定キャラクターのみ対象の参加強制型イベントが存在する」は秘匿4HOシナリオに固有のものだと考えていいだろう。この3つが同時に存在するために、龍騎と秘匿4HOシナリオにおいては、シナリオ/物語全体の真相の明かされ方が似通っている印象を筆者は受けた。

雑談5:安眠出来ない探索者達
 上で言及した参加強制イベントは「特定の情報・アイテムに触れることで、突然過去の記憶を思い出す」の他にも様々なものがあるが、特によく見られるのが「睡眠時に該当の記憶を夢に見る」ものである。大抵の場合事件の真相の一端、つまりは悪夢を見ることになるため、筆者は良く「探索者達に安眠はない」と形容している。この形のイベントが多い理由は、探索者達がどこにいても眠ってくれさえすれば情報が出せることに加え、「知っているけれど思い出せない記憶」として、物的トリガーが存在しないような内容も出しやすいからだと思われる。
 クトゥルフ神話では夢の世界を旅する、夢のうちに神話的存在を目撃する、夢を通じて神話的存在が精神を汚染してくる、この世界はとある神話的存在の夢であるなど、夢にまつわるエピソードが多々存在する。これらのエピソードと参加強制イベントは特に関係ないケースが多いが、CoCというシステムが夢と親和性が高いのは確かだ。

第8話:龍騎とCoC秘匿4HOシナリオ

 ここまで龍騎と秘匿4HOシナリオの4つの共通点、「各HO/登場人物が請け負う役割」「特定のNPC/他の登場人物たちへのフォーカス」「各HOに関わる情報/各登場人物に関わるエピソードの開示方法」「シナリオ/物語全体の真相判明までの流れ」について書き連ねてきたが、いかがだっただろうか。冒頭でも語った通り、本投稿は「何故筆者は龍騎を視聴し、CoCの秘匿4HOシナリオを想起したのか?」を考察することにより、「筆者にとってのCoC秘匿4HOシナリオとは何か」を考えることが目的である。筆者にとっては、こうした構造を持つシナリオがCoC秘匿4HOシナリオのイメージなのだと伝われば幸いである。

 また、4つの共通点はどれも物語全体における立ち位置や、情報が開示されることによる物語の展開といった、大きな物語全体の構造と展開方法について着目している。これは仮面ライダー龍騎はひとつの作品なのに対し、CoC秘匿4HOシナリオは多種多様な作品を包括的に指し示す名詞であり、個々の要素に着目する場合、共通点を見出すことが難しいためだ。代わりに、筆者が知る限りのシナリオにおいてあてはめられるような共通点をピックアップした。単に筆者の考えを読んで楽しむのみならず、貴方が推しているシナリオでも「確かにそうだ!」「いや全然違うじゃん!」とその構造を改めて楽しむ機会を提供出来れば幸いである。

 筆者は仮面ライダーを視聴する際、たびたびTwitterにて実況(というには内容を把握できないつぶやき)を度々しており、本投稿はそうした実況から生まれている。そのためとりとめがなく、まあまとめても大した量にはならないだろ、と思っていたのだが、思ったより共通点が多く、筆者自身が驚いている。
 とはいえ、媒体を問わずあらゆる名作には共通する構造が存在するとアリストテレスも主張したという話を鑑みれば、20年の年月を経て今なお愛される仮面ライダー龍騎と、大勢の人を魅了しているCoC秘匿4HOシナリオの構造と情報開示の流れに共通点が多くあったとしても、なにもおかしいことはない、のかもしれない。

 改めて、筆者に仮面ライダーを視聴する機会をくれた同卓者と、無料配信を行ってくださった東映に感謝の意を称し、本投稿の結びとする。

引用・参考文献

仮面ライダー龍騎(仮面ライダーWEB)
https://www.kamen-rider-official.com/riders/3
仮面ライダー龍騎(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E9%BE%8D%E9%A8%8E
クトゥルフ神話(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%AB%E3%83%95%E7%A5%9E%E8%A9%B1
クトゥルフ神話TRPGとは?(KADOKAWA)
https://product.kadokawa.co.jp/cthulhu/about.html

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