科学的思考とは何か―地球学の方法 (竹内均, PHP文庫, 1987)

https://www.amazon.co.jp/dp/4569560997/

 著者の竹内均氏が創刊された科学雑誌「ニュートン」は、美しいビジュアルが印象的で、多くの人が目にしたことがあると思う。

 一言で表すなら「巨人による、巨人の肩に乗るための手引書」という感じ。著者は「地球物理学者」と呼ばれている方だけど、この本の内容は「大陸移動説」に始まり、「古代の暦」「民族移動」「古代の天文学」「エネルギー」「星の一生」「地球の起源」など多岐にわたる。また、「自然科学」のみならず、「社会科学」や「科学史」のような側面もある。まさに、世の中におきている事象を「○○学」という分野で区切ることはできないと感じさせる内容だった。

 この本の中で著者が「科学の方法」として示している「仮説の提案ー演繹と予測ー観察と実験」の流れは、小中高校の理科の実験等で私たちが慣れ親しんだ手順が、科学の基本的なお作法と同じであると教えてくれる。本文中にも、「…(A)…であるならば、…(B)…であるはずである。実際に測定してみると…(C)…。したがって…(D)…である。」という一連の表現が繰り返し出てくる。すごいのは、…(C)…のところに、仮設の根拠となる計算式が「これでもか、これでもか」というほど示されていることである。「自然現象には必ず一定の法則がある」という信念と、その法則を何が何でも見出そうとする科学者の執念が伝わってくる。この本で紹介されている科学の巨人達は一様に、その信念と執念に突き動かされていたように感じられる。

 また、そのような手続きを経て見出されたデータの「美しさ」にも目を見張るものがある。私にとって最も印象的だったのは、「恒星の本当の明るさ」を縦軸、「表面の温度」を横軸にとった「HR図」と呼ばれるグラフ(245ページ)。「本当の明るさ」とは、観察される恒星の明るさから、その恒星までの距離の影響(近い方が明るく見える)を除いたもの。そのようにして求められた明るさと温度をグラフに示すと、活動中の星のプロットが直線状に並ぶ。

参考リンク:HR図(日本天文学会) 

https://astro-dic.jp/hertzsprung-russell-hr-diagram/

 私の尊敬する先生はよく、「真実を表すデータは美しい」と話されていた。本当に、細胞内の現象も、宇宙での現象も、真実は美しく表現されるのだと思った。その真実に迫れる数学や物理学の普遍性に、感嘆のため息が漏れる。

 とはいえ、本の中に出てくる計算式や数値は、私にはやっぱりわからないし、いっぱい出てくると、「うっ」とつらい気持ちになる。でも、そうだからこそ、この本の何よりもすごいところは、著者がこのような難しい話を、私たちのような一般大衆にも何とか読めるように表現されたことだことだと思う。先にも述べた「これでもか、これでもか」の部分から、「何とか伝えよう」という意気込みが伝わってくるのだ。その迫力に押されて、ひとつひとつの計算式や数値の意味はわからなくても、読み進めてしまうのだ。

 遠く高く感じる、科学の巨人の世界。でも、巨人の1人がこうして翻訳してくれることで、私たちは科学が日々の暮らしと地続きであると感じることができる。だからこの本は、「巨人による、巨人の肩に乗るための手引書」なんだと思った。

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