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ドラストールの住人達(後編) 狼の民、テルモリ

共通の知識:テルモリは、混沌の汚染に起因する人狼の一族である。第一期の時代に、グバージがこの呪いをかけた。狼人達は、自分達が狩場にしているドラストール、ケンティルランド、ビリニの森林地帯は、全ての彼らの領域であると主張している。森に隣接している居留地では、家畜はおろか人間さえ捕食されることがある。彼らは、狼の兄弟としか話さない。野蛮で獰猛であり、ナンタリ台地で、彼らに恐怖せず旅できる者はいない。彼らは、日中は人であり、人として振舞う。しかし、夜になると獣に変じ、狡猾かつ狂暴、血に飢えた存在となる。

テルモリ

隠された知識:ナンタリ台地のテルモリは、曙の時代にフロネラに居住していたスンチェン人の狼の民の末裔である。第一期以前、テルモリは北ラリオスからフロネラの南東部までの地域を定期的に移動しながら暮らしていた。第一期の間に、フロネラにいたテルモリの部族のほとんどは、ナイサロールの黄金帝国と盟を結んだ。テルモリの忠誠に報いるため、ナイサロールは、大いなる魔術的な祝福を彼らに与えた。彼らの祖霊から授けれたルーン呪文によって獣の形態を取ることが制限される代わりに、魔術の力を借りなくても、7日間のうちの1日、荒の日に狼の姿を取れるようにしたのである。それ以外の日については、先祖が代々そうであったように、テルモリは、ルーン呪文よって狼の姿を取ることができる。絶え間ない戦の時代に、魔術で守られた姿で獰猛に戦う能力は、スンチェン人に偉大な力と名誉、そして安全をもたらしていた―少なくとも、彼らはそう考えていた。 470年、ナイサロールとテルモリの同盟は破れ、テルモリはグバージ戦争の際にアーカットの軍勢によって散り散りになった。フロネラに逃げ込んだテルモリの難民達は、後に“哄笑の戦士”テイロールに破れ、呪われた。この呪いによって、ナイサロールの「祝福」の根底にある混沌の穢れが明らかになり、それ以来、呪われたテルモリは、荒の日の夜、望むと望まざるにかかわらず狼の姿に変じるようになった。敗亡したテルモリは安息の場所を求めて東へと流離い続けていた。ラリオスからドラゴン・パスまでの移動の道のりに沿って、テルモリは文明から遠く離れ孤立した荒れ果てた高地に定住した。
 テルモリは、850年頃、ドラストールの国境に到達した。毒茨のエルフの伝承によると、ナンタリという偉大なテルモリの指導者が熱のこもった演説をしたことで、部族の大半が、この土地に住み着き、その土地が自分達のものであると主張することを選んだ。毒茨のエルフ達は、新たな同盟者を歓迎し、そして、この荒れ果てた地について彼らの知っている多くのことを教えた。エルフ達によると、テルモリは、自らの新しい領域の北端に砦を築いて、それをウルフ砦と呼んでいたのことである(テルモリは町には住まないし、砦を作らないので、この伝承は疑わしい)。テルモリの各氏族は、その後、ナンタリ台地の荒れ地に定住し、その狩場として崖下の低地を占拠していると言われていた。テルモリは何世紀にもわたり、部外者に高原の住処を悩まされることはほとんどなかった。毒茨のエルフとの当初の友好と善意は、無軌道な狩りや毒茨の森の襲撃によってすぐに喪われ、今ではテルモリと毒茨のエルフは敵対関係にある。ラルツァカークの使者は、軍事行動に際して多くのテルモリを傭兵として雇用することに成功し、それは狼の民の評判をさらに悪化させた。今では、その悪評が、彼らの土地によそ者が住み着くのを妨げることを知ってから、多くのテルモリは、その悪評を改善するよりは、悪評に居直ることに満足しているように思える。今の伝説では、テルモリは赤の月が満ちた時の光の下で狼の姿になるとされている。呪われたテルモリが狼の形態を取るかどうかを決めているのは、荒の日であるかどうかであり、赤の月が満月であるかどうかではない。ルナー帝国においてのみ、荒の日は赤の月の満月と一致する。

隠された秘密:テルモリの全てがナイサロールに従ったわけではなく、混沌に汚染されているわけでもない。
 ラリオスのテルモリのほとんどは、ナイサロールに従ったわけではなく、その祝福も受け取っていない。「無垢のもの達」と呼ばれる、普通のスンチェン人の獣の民は、曙の時代の文化の純粋な性質を保っており、ルーン呪文によってのみ獣の姿を取り、荒の日に強制的に獣の姿になるようなことはない。不幸なことに、ナイサロールの時代に無垢なるものたちは、ほとんどがラリオスにいて、生き延びることができたのが僅かだった。彼らは、混沌の穢れを帯びておらず、ウロックスの混沌感知も反応しない。
 ナイサロールの祝福を受け、呪われたテルモリは「古きもの達」あるいは「呪われたもの達」と呼ばれる。ドラストール、ペローリア、ドラゴン・パスのテルモリのほとんどは呪われたものたちである。彼らは混沌の穢れを帯びており、ウロックスの混沌感知でも混沌と判断される。
 「無垢なるもの達」も「呪われたもの達」も両方とも、ナンタリ台地で見かけることがあるが、「無垢なるもの達」は稀な存在であり、滅多に出会うことはない。このテルモリの区分を、見かけや習慣から部外者が見分けることはできない。そのため、「無垢なるもの達」と「呪われたもの達」の存在と性質は、グローランサにおける一風変わった秘密であり続けている。
 大半のテルモリを含むグローランサ全土の人々は、テルモリが混沌の呪いを受けていて、満月の日には理性を欠いた獰猛な獣に変じ、森を駆け、血に飢えたように人や動物を虐殺することを知っている。これは、概ね歴史的な事実であり、通常、テルモリとの遭遇は、獰猛な狼の形態を取っているときであり、その痕跡は、大抵、人狼に引き裂かれた犠牲者として残される。
 ドラストールの呪われたもの達の氏族の多くは、古の日々にナイサロールに仕えていたように傭兵としてラルツァカークに仕えており、ラルツァカークの軍勢の報告には、常に獰猛なテルモリの狂戦士の一群の存在、超自然の狡猾な狼による夜襲、獣の姿や人の姿のテルモリによる兵士も非戦闘員も区別しない無慈悲な殺戮が記されている。一方、無垢なるもの達は、部外者との接触を絶ち、家畜や人を襲うような、敵意を引きかねない行為は決してしない。そのため、無垢なるもの達の存在することについて、秘密は保たれている。

テルモリの社会
 テルモリの社会は、原始的な人間文化の要素と狼の社会構造が混ざったものである。テルモリは、「群れ」と呼ばれる家族集団で生活している。それぞれの群れは自らの縄張りを持ち、飢えや危険によって立ち退かざるを得ない状況になるまで、自らの領域を守り抜こうとする。群れは、自分の領域の主であり、その成員は、領域内にあるあらゆる小峡谷、洞穴、林、茂み等について熟知している。
 群れは、デッザとデザッカー(女主と男主)に率いられている。この2人は群れの中の自分と同じ性別の成員を支配し、又、群れの中で他の誰とでも交尾できる特権を持っている。しかしながら、彼らは、通常、お互いにこの特権の行使を留保し、代わりに群れの成員の誰と誰がつがいになるのかを決める。彼らには、結婚に際して行う儀式を持たないが、つがいになるということそのものが、一年の献身にふさわしい儀式になりうると考えている。
 群れはまとまりを持って行動し、個人の利害ではなく、全体の利益を重んじる。連れ合いや子供を持たない、群れの若い成員は、子連れ狼のように群れの子供を守るために熱狂的に命を捧げる。
 群れは、一般に、近隣の別の群れから妻を取る。これは、群れ同士の協力関係の構築を促進する。外から大きな脅威が襲ったとき、「大いなる群れ」を形成するため群れが集まる。大いなる群れは、共通の問題に対処するために指導者を一人選出し、全ての群れと個人は、大いなる群れの指導者の権威の下、協力し合う。危機が解決すると、大いなる群れも解散し、通常の群れの生活が再開する。男と女は部族の中では対等ではない。男女は、狩り、道具の製作、家事において同じように役割を担う。しかし、妊娠した女性、子連れの女性は、生命の担い手、世話人とみなされ、そのようなものとして非常に尊敬され、名誉あるものとされている。彼らは保護され、服従され、群れの他の全ての成員から生活の糧を贈られます。デッザとデザッカーが子供を保護しようとしない場合、そのような女性の意見は、本能によって、そのような態度を説き伏せてしまう。
 テルモリの若者は、13歳前後で肉体的には成熟する。少年と少女は、年長者の監督の下で、それぞれ別々に入信する。その後、女性は群れに受け入れられるが、若い男は群れから追い出される。女性は、時として、元々いた群れに留まるが、大抵は、近隣の群れに行ってしまう。
独り身の男は、縄張りを持たず、成員の中に女性がいない狩りの群れに集まる。彼らは女性を略奪したり、誘拐しようとして時間を費やし、普通の群れにしようとする厄介者の集団である。彼らはしばしばより簡単な獲物を見つけるために、テルモリの縄張りの外に出ていくので、そのため、低地地域で狩りをしているのがよく見かけられる。
 独り身の男は、他の群れに入るために、その群れの長に従うこともある。その後、彼らは群れの最も新しい群れの成員が持つ特権を持つことになる。当然のことだが、群れに長くいることで、テルモリは自らの価値を証明し、正当な地位を獲得することもでき、おそらくは群れの指導者になることさえ可能である。
 テルモリの魔術師は、ターガヴィ、あるいは「全てを見る者」と呼ばれる。彼らは、祝福あるいは呪いにより、祖霊や土地の精霊と交信し、皆を病気や危険から守ったり、精霊魔法を習得するための魔術精霊を呼び出したりする能力、そして義務を持っている。彼らが聖なる場所に名を付け、印を付けることで、テルモリは皆、そのような神聖な場所に不注意に入り込むようなことはない。こういった聖なる場所の意味、それはあるものは墓所であったり、あるものは癒しの場所であったり、あるものは怪物の住処であったりするが、そういったことはターガヴィだけが知っている。
 ドーラストールの混沌の性質に影響を受けているターガヴィは、イツヴァヌと呼ばれる。このような狂気に侵されている魔術師は、正気の人間なら避けるような忌まわしい精霊を支配することによって、闇、破壊、そして混沌の力さえも探し求める。そのため、長く生き残るようなイツヴァヌは大きな力を有するが、大抵は短命に終わる。
 テルモリの物理的な文化は、単純かつ原始的である。彼らは、週毎に、所有するものを失い、道具を捨てるので、彼らは、あえて、物に価値を置かないようにしている。衣類についての考え方も似たようなもので、簡単な裁縫の技術さえ学ぼうとはしないが、その代わり、粗くなめした皮を締め紐として使う。彼らは、その辺の自然物で一時的な住居を作り、それを気まぐれに捨てる。時として、洞窟のような場所を避難所として利用する。
 刺青は、装飾として、又、魔術の焦点具として一般的であり、テルモリは皆、特徴のある狼の印を身に着けており、群れ毎に、その文様は特別な印になっている。狂ったイツヴァヌは、その刺青の程度とその非道な様から、容易に見分けがつかない。
 テルモリにおける狼と人間の間の関係は、スンチェン人でない者には理解することは難しい。テルモリは、群れの中で人間と狼の成員の間に本質的な違いはないものと考えている。テルモリの人間と狼は同じ言語を話し、文化を共有している。狼の中には、聖祝日に人間の姿に変身するものもいると言われている。人間と狼がつがいになり、長期的な関係を築くことが多いことが知られている。テルモリが、自分の狼を、「兄(弟)」や「姉(妹)」、さらには「妻」と呼びかけるとき、おそらく、それは文字通りの意味合いで話しているのだろう。

狼の兄弟
 テルモリは、巨大な狼の仲間と生活し狩りをする。狼の兄弟は、狩猟や戦争においてとても頼もしい仲間である。人と狼が行動するとき、人は狼の直感を利用する。狼を口頭や身振りのサインや命令で反応するよう訓練する者もいる。狼と人狼として、テルモリと狼の兄弟は、狡猾さと獰猛さに大きな信頼を置いている。テルモリは、狩りや戦争の際の熱狂に侵されると、人としての戦い方を忘れることが多いため、追跡や攻撃に移る前に自らの呪文を使用する。

イツヴァヌの魔術とドラストールのテルモリ
 呪われたテルモリには、2つの魔術師の階級がある。ほとんどは狼の父、テルモ―を崇拝する普通の祈祷師である。2つ目の階級は、イツヴァヌ、または「神造り師」と呼ばれている。イツヴァヌは、非常に尊敬されるが、とても短命である。簡単に言えば、イツヴァヌの唯一の機能は、他のテルモリ、特に戦士の身体に魔法の刺青を刻むことである。(無垢なるもの達はイツヴァヌになることはない。)
 海の季の間、イツヴァヌは刺青を刻む技や儀式、精霊の召喚や関係する呪文の習得に専念する。火の季及び地の季には、彼らは、異世界の存在を召喚し、自らの魂を強化するために精霊戦闘を挑む集団儀式の全ての時間を費やす。時として、彼らが扱うのにはあまりにも強力で恐ろしい怪物―特にドラストールでは普通の存在である混沌の亡霊―を召喚してしまうので、このときが、イツヴァヌにとって最も消耗する時間である。全ての召喚は、少なくとも12人のイツヴァヌの集団の中で行われるが、他の召喚者が深刻な事態に陥った場合に助けられるように、イツヴァヌが5年~10年以上もの間、このような季節をすべて使うような入念な召喚を続けることはほとんどない。闇の季及び嵐の季には、イツヴァヌは自らの精神を魔法の刺青で強化し、捕らえた異界の存在をテルモリの刺青に呪縛する。
 このような方法により、ドラストールのテルモリは強大な力を獲得する。しかし、彼らはその代償として、彼らの部族の中で最も才能のある成員を、早逝、精神的死、そして大いなる恐怖の究極の破滅に追いやることで、その代償を支払っている。それは価値のあることなのだろうか? テルモリは、ナンタリ台地で何世代もの間、生き延びてきた。敗北と故郷からの追放の長い歴史を持つ民族にとって、そのような代償は、安全を確保するためには、むしろ安いものだと思えるに違いない。

テルモリの呪われたもの達
 呪われたもの達は、人狼のテルモリである。彼らは、ルーン呪文、あるいは荒の日の両方の手段により、狼の形態を取ることができる。荒の日には、彼らは、ルーン呪文なしであっても、人狼としての魔術的効果を得る。これは、ドラストールのテルモリは、荒の日毎に魔法の獣に変わるということである。あらゆるテルモリは、陽が沈むと速やかに狼の形態を取り、日が昇るまでは狼の姿でいなくてはならない。次の日の数時間は、疲れたはてた昏睡状態のまどろみの中で過ごすことになる。
 周期的に強制される人狼への変身は、多くの特別な文化的適応をもたらす。
・彼らの知能は、毎週、獣並みになるため、精霊呪文を多く習得することはできない。
・彼らは鎧を身に着けず、狼の姿で戦闘に入る前に容易に脱ぎ捨てられる緩い衣服しか着ていない。狼の形態は大抵のダメージに抵抗できる力を与えるので、鎧をテルモリが身に着けられないことは、さしたる不利とはみなされない。

ハザード砦に対するテルモリの活動
 テルモリは、カエル川の地域で狩りをする。無垢なるもの達は、住民との接触を必ず避ける。呪われたもの達は、羊が容易で味の良い獲物であることを、知っている。人間はより危険な獲物であり、ほとんどの呪われたもの達は、リスクランドのステッドを避ける。特に蛮勇を誇る呪われたもの達は、むしろ、人間狩りへの挑戦を刺激的な娯楽として楽しむ。崖を登りナンタリ台地とトボロス山脈の荒野を旅する者は、ほぼ間違いなく、テルモリに遭遇する。狼の民は、当初は接触を避けるだろうが、観察したり、果敢に挑んだり、忍び寄って不意打ちしたりする等、状況と彼らが無垢なるもの達か呪われたもの達かによって変わる。
 ほとんどのグローランサの人間は、テルモリについてほとんど何も知らず、知っていることもほとんどが間違いである。普通の人間もテルモリも、どちらの集団も、お互いに誤解している可能性が高く、どれほどの善意であっても、対立の根本は解決しないことが多い。
 リスクランドの住人の長、“石の”レンコットは、人の姿をしたテルモリを理由もなく殺してはならないが、狼―あるいは人狼―は家畜を捕食するので、ステッドを脅かした場合は殺さねばならないと言う。狼の兄弟の死は、テルモリにとっては、家族の一員の死であり深刻なことである。そして、テルモリの狩人の狼の兄弟の殺害は、報復の襲撃を誘発したり、戦争の発端となる可能性がある。テルモリの狩人やナンタリ台地の探索者への攻撃は、テルモリを戦争へと導くかもしれない。また、賢明で高潔な冒険者は、呪われたもの達と無垢なるもの達を見分けることができるようになるかもしれない。そのような者は、戦争や挑戦によって、呪われたもの達に対し自衛権を確立し、無垢なるもの達に対しては中立を確立することができる。テルモリのとの良好な関係は、リスクランドの入植者にも有益であり、混沌が溢れた時の事前の警告、および、その典型的な有り様(最初の波は未成熟なブルー、その後に知性なき怪物、最後に漁る屋と略奪者が続く)、ブルーから土地を守るための助言、蜘蛛の森の蜘蛛の民の毒に対する方法、ドラストールの天候と季節に関する知識といったものを享受できる。

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